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工藤勇一氏講演:子供を信じる教育、子供中心の学びへの転換を|EDIX2025小学館ブース講演

EDIX東京2025の小学館グループのブースにて行われた工藤勇一氏の講演レポートです。工藤氏は、「子供はもともと主体的」であると言い、主体的でなくさせている仕組みがあるのではないかと指摘します。これまで実践してきたことを交えながら、「子供中心の学び」への転換についてお話しいただきました。

取材/文:村岡明

工藤勇一(くどう・ゆういち)
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。公立学校教員、東京都教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年4月より千代田区立麹町中学校校長、2020年4月より学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校校長として、教育改革を行ってきた。内閣官房教育再生実行会議委員、内閣府規制改革推進会議専門委員、群馬県非認知教育専門家委員会委員等、公職を歴任。2024年4月より教育アドバイザーとして全国で講演活動を行う。『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社、2018年)、『校長の力-学校が変わらない理由、変わる秘訣』(中央公論新社、2024年)など著書多数。

「なぜ」と問う力

みなさま、本日はお忙しい中ご参加いただき、誠にありがとうございます。本日は「子供中心の学びとは何か」というテーマで、私の考えを、これまでの実践を交えてお話をさせていただきます。

私が強く感じているのは、日本の教育があまりにも「一方通行」になっているということです。教師が教え、子供はそれを受け入れるという構図があまりにも強いと感じます。これは、教室だけでなく、スポーツの世界でも同じです。

たとえば、欧州のジュニアサッカーの練習において、コーチが「次はこの練習をやるよ」と言うと、子供たちは「それはなぜやるの?」と質問するのが当たり前です。フィンランドでは、「ミクシ(なぜ)?」という問いかけが授業で数多く出てきます。これがフィンランドの学力を支える、問う力と言われているんです。

一方、日本ではどうでしょうか。子供が「なぜこの練習をやるのか?」と聞くと、「うるさい、やれば分かる」と返されることが多いと思います。こうしたことを繰り返すことで、子供たちは、自分の頭で考える力を徐々に失っていくのです。

麹町中学校での改革と学びの変容

私が校長を務めた東京都千代田区立麹町中学校では、「子供が学び方を選ぶ」という方針を徹底しました。たとえば、宿題をゼロにしました。夏休み、冬休みも一切出しません。さらに、定期テストも廃止しました。その代わりに、子供たちは自分のペースで学ぶための方法を自ら選ぶのです。

教材として使ったのはAI型教材「Qubena(キュビナ)」やYouTube、問題集、教科書などです。先生が「これをやれ」とは言わず、子供が「これで学びたい」と言える環境を整えました。

その他、様々な改革を行った結果、入学時点で平均偏差値が全国平均50にも満たない子供たちが、卒業時には英語で平均偏差値60程度まで達するようになるなど、教科学力も大きく伸びたのです。とくに数学などでは教師が「教えない」というスタンスを貫いたのにです。

しかし、子供の主体性を目覚めさせるのは簡単ではありません。数学をキュビナ」で学んだ、ある生徒の例を紹介します。

子供自身に学びを委ねたばかりの当初は、全ての子供たちが意欲的に学ぶわけではありません。その子も中学1年の7か月間、全く勉強をしませんでした。毎時間、ただひたすら勉強とは関係ないことをやっているのです。もちろん、先生たちも叱るべきかどうか悩み、どうするか相談しましたが、最後まで「やりなさい」とは言わないことにしたのです。叱れば、勉強はするでしょうが、結局はその子自身の主体性が復活しないからです。

7か月もの我慢の結果、ある日突然、その生徒は自ら学び始めたのです。それも集中して黙々と。その子は「キュビナ」を使って、なんと、わずか1か月半で1年分の学習を終えたのです。

これらは、子供たちが「自分に合った学び方を選び、自分で問題を見つけ、解決しようとした」からこそ実現できた成果です。

不登校問題の背景にある構造

現在日本では、不登校の子供が全国で34万人以上という現実があります。とくに中学校が多く、日本中のすべての中学校のすべての教室に2人以上いるという割合になります。

こんなにも日本では問題となっている不登校ですが、実は「アジア型」と言われていて、欧米には「不登校」という教育問題がありません。驚くべきことですが、日本で言われている「不登校」という概念自体が存在しないのです。

その理由を一言で言えば、欧米では基本的に学びの選択権が学習者側にあるからです。とくにアメリカなどでは、学びの場は多様な中から選ぶことができます。学校だけじゃなく、教会で学んでいる子供もいますし、法律は州ごとに異なりますが、すべての州でホームスクーリングが認められ、自宅で学んでもよいのです。そもそも欧米には日本のような高校受験がありませんから、学力の考え方も日本とはかなり違います。当然ですが、学習塾に通っている子供もほぼいません。

一方、日本では学校は学校教育法1条に定められたものだけを「学校」と呼びますから、「学校に行かないこと=問題」とされてしまいます。日本では不登校の子供には問題があるような風潮がいまだに根強くありますが、不登校問題は教育システムの問題だと言えるのかもしれません。「自分に合わない環境を変えられない」今の仕組みがある限り、子供は苦しみ続けるしかないように思います。

主体的な学びと目標設定の力

※2025年4月24日に東京ビッグサイトにて行われた「EDIX2025」での小学館グループのブース講演より(協力:株式会社COMPASS)

講演で工藤先生が言及しているAI型教材「キュビナ」については公式サイトをご覧ください
・学習eポータル+AI型教材「キュビナ」、新規自治体を対象とした無償トライアルキャンペーンを実施 ~2025年度末まで自治体の小中学校全校でキュビナを無償で利用可能~

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