五十嵐晶子氏講演:学校DXの鍵を握るICT支援員の活用法|EDIX小学館ブース講演

EDIX東京2025の小学館グループのブースにて行われた五十嵐晶子氏の講演レポートをお届けします。2024年12月に発刊された『ICT支援員という仕事』(小学館)の内容を中心に、ICT支援員の役割と現状、学校ICT環境の課題などについてお話しいただくとともに、五十嵐さんが今取り組んでいること、今後に向けての提言をいただきました。
取材/文:村岡明

五十嵐晶子(いがらし・あきこ)
2000年頃より小中学校の情報アドバイザーを始め、神奈川県を中心に小中高校のICT導入研修会講師とICT支援員、ICT支援員運用コーディネーター等、学校ICTの導入と活用に関わる。
2020年3月に独立し「合同会社かんがえる」を創業。情報通信技術支援員(ICT支援員)の導入コンサルティングと育成を専門として、全国の支援員事業を行う企業や、自治体所属の支援員に向けた様々なICT研修会を提供。
現在教育ICT環境アドミニストレーター協会理事長、元中央教育審議会デジタル学習基盤特別委員会委員。
目次
ICT支援員という仕事を知ってほしい
みなさん、こんにちは。今回は、私が携わっている「ICT支援員」という仕事について、できるだけ分かりやすくお話ししたいと思います。
この仕事は、単にパソコンやネットワークを扱う仕事ではなく、学校の教育活動そのものを支える非常に幅広い役割を持った仕事です。詳しくは、2024年に小学館から出版した『デジタル化時代の学校教育を支える ICT支援員という仕事』に書きました。この本には、私たちの20年以上にわたる経験と知見が詰まっています。ありがたいことに、出版後、Amazonなどで良い評価をいただき、多くの教育関係者にも読んでいただけました。とはいえ、まだまだ「ICT支援員って何?」といわれることも少なくありませんので、さらに理解が進むよう活動していこうと考えています。

ICT支援員の4つの柱
ICT支援員の仕事には、大きく4つの柱があります。
- 授業支援
児童生徒や教員のICT操作のサポート、教材作成、トラブル対応などを行います。 - 校務支援
学校のホームページ作成、出欠・成績管理システムの運用支援など、事務的な面での支援です。 - 環境整備
機器のメンテナンスやソフトウェアの更新、ヘルプデスク業務などが含まれます。 - 研修支援
教職員へのICT活用研修の企画と実施です。
これら全てを担う支援員もいれば、業務範囲が限られる場合もあります。ICTシステムの販売店や派遣元の特性により得意分野が異なるため、各自治体の状況に応じて役割が偏ることもあります。
インフラの重要性と「クルクル問題」
「ネットワークが遅い」という問題は、教育現場において非常に深刻です。私はこれを「クルクル問題」と呼んでいます(笑)。いつまでも画面が読み込まれず、カーソルがクルクル回転したまま、という状態のことです。
この「クルクル問題」によって、授業が中断されることは、先生方にとってはもちろん、私たち支援員にとっても最も避けたい状況です。とくにICTに不慣れな先生方こそ、スムーズに動く環境が必要です。使いづらい状況が続くと、「もう使いたくない」となってしまうからです。だからこそ自治体にはまず、充実したインフラ整備を強くお願いしたいと思っています。
端末は「赤ちゃん」のように
子供たちは時に予想外の行動を取ります。端末をおもちゃのように扱って、壊してしまうことも少なくありません。たとえば、カバンの上に座って壊してしまう中学生、USBポートに鉛筆を差して火花を出してしまう小学生もいました。
そこで私たちは、端末を持ち運ぶ方法として「赤ちゃんだっこ」という扱い方を提唱しています。端末は赤ちゃんを抱くように、下から支えて丁寧に持ちましょうという考え方です。これが定着すると、ふだんの扱い方が丁寧になります。端末の破損率が劇的に下がった学校もあります。
「GIGA開き」の工夫と学校全体での取組
新年度の初めには、学級開きならぬ「GIGA開き」として、端末の使い方やルールを教える時間を設けることを推奨しています。ここでは支援員が説明役を務め、担任の先生が児童の様子を見取ることで、教室全体の理解度や習熟度が把握しやすくなります。
ある学校では、ICT支援員さんが端末の取り扱いを前に立って子供たちに解説するときに、校長先生まで参加して黒板に図解を描きながら説明し、担任の先生が子供たちの反応を見ていました。このように、学校全体で一体感を持って取り組めると、とても効果的です。
教員との信頼関係づくり
支援員としての最初の仕事は、「先生方の授業を見せてもらうこと」だと考えています。ICTをどう活用すればいいのかを提案するには、先生がどんな授業をしたいのかを知らなければ意味がないからです。
最初は拒否感を示されることもあります。「見張られているようだ」と思われてしまうこともあります。しかし、先生方とICT支援員が授業を通じて関わりが深まれば、いろいろとメリットがあります。より適切なICT活用のアドバイスができるようになりますし、子供たちの様子も見えてきますから、子供たちも先生方も安心して授業に臨めるのではないでしょうか。
「支援員さん」ではなく名前で呼び合う関係を
支援員と先生との距離を縮めるためには、「○○先生」「○○さん」と互いに名前で呼び合うことが大切です。職員室の席次表をもらって先生の名前を覚えるだけでも、関係性は大きく変わります。
週1回以上、継続的に関わることで「ただの訪問者」から「教育の仲間」へと信頼が変わっていきます。そして、単年度で終わるのではなく、2年、3年と続けて関わることで、その学校に根付く支援が可能になります。
全国の支援員を横につなげたい
ICT支援員は今でも人手不足です。しかし、フルタイムで働けない人も「週1回だけなら」という方はたくさんいます。現在の「4校に1人」という目安にとらわれず、「週に1回行ける人を複数確保する」という発想に変えれば、もっと柔軟な体制が作れるのです。
このような体制になると、ICT支援員の人数がかなり増えることになります。そうすると、一人一人の働きやすさや質の向上が問題になってくるでしょう。そこで私は、どこの会社に所属しているかではなく、「ICT支援員」という職業そのもので横につながって、全国の学校を支え合う仕組みを作りたいと思っています。
ローカルAIで支援をもっと身近に
今後の取組として、生成AIを活用したICT支援員用AIの開発を進めています。クラウドではなくローカルで動作するため、個人情報にも配慮しながら、各学校特有の困りごとに対応できるAIを目指しています。
私自身の音声データをAIに取り込んで、いつでも仮想的な五十嵐晶子に相談できるようなAI、いわば「イガラシAI」を作る計画もあります。これにより、先生方がいつでもICTについての相談ができる環境を整えたいと考えています。
おわりに
ICT支援員という仕事は、まだまだ確立されきっていない職業です。しかし、これからの教育現場には欠かせない存在であると確信しています。一人ひとりが学校と向き合い、先生方と信頼関係を築き、子供たちの学びを支えていく――その積み重ねが、未来の教育を創っていくのだと、私は信じています。

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