職員の意欲を「守る」仕組みがありますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #71】


執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
教育現場の危機的状況が深刻化しています。長時間労働や業務過多に苦しむ教師たちを支えるのは「ソーシャル・サポート」という職場環境の力。今回は赤坂真二先生が、教師の意欲を守るための具体的な仕組みづくりと、学級の健全性と職員室の良好な関係性の表裏一体性について提言します。若手教員が輝き続けるための環境整備とは、そしてチーム学校を実現するマネジメントの核心とは?
目次
危機に立つ若手教師
総務省の2013年から2022年の「地方公務員退職状況等調査」によると、若手教員の退職者数が急増しています。具体的には、25歳未満の退職者数が2013年の256人から2022年には975人へと増加しており、約3.8倍となっています。また、2025年4月24日、東京都教育委員会は、2024年度に新規採用した教員4237人のうち、240人(5.7%)が1年以内に離職したことを明らかにしました。
文部科学省が2024年12月20日に公表した「公立学校教職員の人事行政状況調査」の結果では、2023年度に精神疾患で休職した公立学校の教職員は7119人に上り、初めて7000人を超えて過去最多となったことが話題となりました。同調査では、校種では小学校が半数近くを占め、年代別に見ると、30代が最も多く2128人、次いで50代以上が1949人、40代が1766人、20代が1276人の順でした。しかし、休職者に1か月以上の病気休暇取得者を含めると、在職者に占める割合は20代が最も多く2.11%となり、若い年代で精神疾患による休職・休暇の教職員が増え続けている状況が浮き彫りとなりました。
ただでさえ、教員のなり手不足が指摘される昨今、若手の離職率が高い状況では、教員は職業としての持続可能性の危機に瀕していると言わざるを得ません。
先ほどの「公立学校教職員の人事行政状況調査」における、全体としての病気休職の要因は「児童・生徒に対する指導そのものに関すること」が26.5%ともっとも多く、ついで「職場の対人関係」23.6%、「校務分掌や調査対応等、事務的な業務に関すること」13.2%となっていますが、若手の休職や離職の理由は何なのでしょうか。実際に定年退職以外で離職した 20 代の教員を対象に調査票調査を行った峯村ら(2023)によれば、退職理由として多かったものは「長時間労働」(35.6%)、「業務過多」(31.7%)、「職場環境」(26.7%)、「精神疾患」(25.7%)、「教職への不適応」(24.8%)でした(i)。
文部科学省の調査は病気休職の要因、峯村らの調査は退職理由と、尋ねていることが異なっているので単純な比較はできないかもしれません。ちなみに、峯村らの調査では、「職場での人間関係」「子どもとの関係」はそれぞれ、16.8%、13.9%となっています。若手は、子どもとつながりやすいこともあるでしょうし、そもそも指導の難しいクラスを担任する可能性は低いため、子どもの指導によるストレスはそう高くないと予想されます。また、職場の中枢として学校を動かさねばならない中堅、ベテランに比べれば、職員室の利害関係などによる疲労感は少ないのかもしれません。そのぶん、仕事量の多さがストレスの中心にある印象です。
学校現場の皆さんは、こうした多忙化やストレス状況については嫌と言うほどよく分かっていて、悩みながらも日々打開策を探っているのではないでしょうか。諏訪(2016)は、同僚間の相互支援関係と良好なコミュニケーションを内包する組織や集団の重要性を指摘しており「ソーシャル・サポート」を適切に受けられることがネガティブな側面、あるいはバーンアウトを低減させていくために重要だと指摘しています(ii)。バーンアウトとは、「燃え尽き症候群」とも呼ばれ、情緒的消耗感や仕事への意欲低下が特徴とされる状況です。ソーシャル・サポートとは、「周囲の人々から受ける物質的・心理的な支援や助け合い」のことであり、ストレス緩和や精神的安定に役立ちます。
若手教員が長時間勤務や業務過多によってバーンアウト状態になりやる気を失っていて、それが許容量を超え、休職や退職の要因になっているとすると、その対策として職員室のソーシャル・サポートには注目する価値がありそうです。