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【木村泰子の「学びは楽しい」#39 子どもの「ほんとの声」を聴ける大人になるには

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

子どもたちが自分らしく生き生きと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載の39回目。今回は、子どもが「自分の言葉」で語り、ほんとの声を聴かせてくれるためのヒントをお伝えします。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

 

【木村泰子の「学びは楽しい」#39 子どもの「ほんとの声」を聴ける大人になるには イメージイラスト
イラスト/石川えりこ

「自分の言葉」で語り出した時がチャンス

連休が終わった頃から、どこかざわざわした空気が漂い始めるのがこれまでの学校の当たり前でしたが、みなさんの今はどうですか?

新年度の緊張感がほぐれ、子どもも大人も周りが見え始める時です。今年度こそと気負っている気持ちが持続すればいいのですが、疲れとともに周りと自分を無意識に比べてしまって落ち込むようなことがないでしょうか。子どもたちも同様です。

子どもたちが環境に慣れ始めて自由に動き始める頃でもありますね。そんな時って、子どもを掌握しなければとの思いから不安を持ってしまって、ワクにはめようとルールや規律をつくって指導を厳しくしなくてはなどと思っていないでしょうか。

こんな時こそワクをつくるのではなくて、自由に動き始める子どもの声をしっかり聴くときです。一人一人の子どもはみんな違っているのが当たり前です。子どもが「自分の言葉」で語り出すと、「いやだ」「やりたくない」「面白くない」「めんどくさい」などの言葉を発します。こんな時は大きなチャンスです。

・やりたくないなんて言わないで頑張らなくっちゃ。みんなも頑張ってるでしょ。
・やだなんて言ってはいけないのですよ。やろうとしていないだけだから、やったらできるから頑張りなさい。
・面白くないなんて言うものではありません。やってみたら面白くなるから、まずはやろう。
・めんどくさいなんて言っていたら、みんなに遅れてしまうよ。努力しなくっちゃ。

こんな声かけをしていないでしょうか。私の若い頃を思うと、これが指導だと思っていたところがあったなあと思い出します。目の前の子どもたちを教員の持つキャパ(ワク)に入れなくてはと思うあまりに、指示・命令が飛び始めるのですね。

問いかけて「ほんとの声」を引き出す

こんな時こそ指導したい気持ちを横に置いて子どもの声を聴くのです。

・どうしたらやりたくなる? 面白くなる? めんどくさくなくなる? どうしたいの?

問いかけるとほんとに言いたい言葉を引き出すことができるものです。子どもが最初に発する言葉で教員が一喜一憂しがちですが、その奥にある声を聴かせてもらわないと、教員の仕事はできません。

決めるのは子ども自身!

ある県の講演会での出来事です。そこは学校関係者や保護者や地域住民が一緒に学ぶ場でした。

「大人がどうすれば、子どもはほんとのことを聴かせてくれるだろう」「子どもがほんとのことを言ってくれる大人になるにはどうすればいいだろう」などと会場の大人たちで対話をしました。もちろん正解なんてありません。正解を持っているのは子どもです。子どもが100人いたら100通りの正解があるのですから、正解がないということを大人が分かっていることが大切で、子どものことを分かったつもりになるのは危険ですね、といった対話が続きました。

そろそろ終わる時間になって、会場を見ると数人の子どもがいたのです。そこで、今日のまとめは子どもの声を聴かせてもらいましょうと言うと、ずっと大人の話を聞いていた子どもたちが語り始めたのです。

小学生 いじめを受けて3か月学校を休んだ。 大人は助けてくれないと思っていたが、今日のこの講演会の大人たちを見て大人を信じてみようと思った。

小学生 クラスで一致団結と言われるのが苦しい。みんなと一緒に同じことをしないと先生からも叱られるし、周りの目が怖い。こんなことは学校からなくしてほしいと思ってる。

中学生 学校は勉強するだけのところだと思っていたが、「おはよう」から「さようなら」までのすべてが学びだということを知れてよかった。

高校生 「指導は一瞬で暴力に変わる」
指導されている時の周りの友達たちの視線が突き刺さるのが怖い。

この子どもたちは会場の空気を吸って安心して「自分の言葉」で語ることができたのです。
これを学校で言えたらいいのにって、大人の誰もが望んだに違いありません。

「子どもの声を聴く」ことなしに、大人の使命は果たせないと痛感します。難しいことではありません。子どもの言葉の奥底にあるその子の「ほんとの声」を聴かせてもらえる大人になりたいですね。

見えるところがバラバラでも美しくなくてもいいのです。その子がその子らしく学び始めたらみんな違っていますから。
子どもの「ほんとの声」を聴かせてもらえる大人になりませんか。

〇新年度の緊張感がほぐれ、子どもが自由に動き始め、「自分の言葉」で語り始めた時こそ、子どもの「ほんとの声」を聴くチャンス。
〇子どもを教員のワクにはめようとするのではなく、問いかけによって発する言葉の奥にある「ほんとの声」を聴こう。
〇正解を持っているのは子ども。子どもの「ほんとの声」を聴かせてもらえる大人になろう。

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※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。

 

木村泰子先生

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、すべての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

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