多様性問題、現行学習指導要領の路線維持、デジタルが今回の審議課題 【中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」#06】

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中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」
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中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」/那須教授
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2025年1月末から中央教育審議会で本格的に学習指導要領改訂の議論が開始され、各教科等の具体的な議論に先立ち、教育課程企画特別部会において、全体の方向性について議論が行われ始めたところです。
そこで、この企画では教育課程企画特別部会の親部会であり、同部会の委員の人選にも携わった教育課程部会の奈須正裕会長(上智大学教授)に、改訂の方向性などについて聞いていきます。3回目となる今回は、諮問文の構造やそのポイント、さらにデジタル関連について紹介していきます。
なお、学習指導要領改訂の諮問文については、下記URLよりご覧ください。
https://www.mext.go.jp/content/20241225-mxt_soseisk01-000039447-01.pdf

4要素の議論とともに、条件整備や教員養成についても議論

今回の諮問文の構成はとてもよくできており、ここで改めて諮問文の全体を見てみると、諮問事項の前に3つの課題が示されています。その1点目が多様性の公正な包摂の実現。2点目が概念としての知識の習得や深い意味理解など、資質・能力基盤の学力論。3点目は、デジタル学習基盤の効果的な活用ですが、デジタルが1点目と2点目の課題のよりよい解決を強力に後押ししてくれるのではないかとの期待を込めてのことだと思います。

この3つの課題について端的に言えば、1点目は「令和の日本型学校教育」の答申で提起されたこと、2点目は「現行学習指導要領」の理念、3点目は「GIGAスクール構想」で推進されてきたデジタル学習基盤です。つまり、この10年ほどの間に取り組んできたことが整理されているのでしょう。

その後に、4つの諮問事項が示されており、これらに沿って次の教育課程の基準について議論し、考えていくのだと思います。

ちなみに、教育課程(カリキュラム)というのは、古典的に言えば「何を教えるのか」という内容の選択と配列、つまり内容論が中心です。そのほかに、「何のために教えるのか」という目標論、「どのように教えるのか」という方法論、「その営みがうまくいっているか」を確認する評価論があり、1940年代からこれがカリキュラムの4要素であるとされてきました。

今回はこの4要素の議論とともに、それをうまく動かしていくための条件整備や教員養成などについても並行して議論していくことになります。古典的には内容の選択と配列であった教育課程の議論が、これほどまでに広がっているわけです。

実際に諮問事項の4番目には、「教師の負担」「入学者選抜」「教科書」などが示されています。これら一つ一つの要素は相互作用的に動くものであり、それをどのようにしていけばよいか、これから教育課程企画特別部会の委員間で知恵を出し合って議論することになるのでしょう。

もちろん、連載の第1回で取り上げた、中核的な概念を中心とした目標と内容の構造化などは、ブルーナーによる「構造」主義以来、半世紀以上が経つわけですし、参考にすべき知見はたくさんあります。各教科等の「見方・考え方」と、そこから導き出される内容の系統性を大切にすることや、単元を基盤に授業づくりを考えるということにも異論はないだろうと思います。

今後生成AIなどで示された文章をチェックして、書き直す学力が必要

その他、大きなものとしてデジタルの問題があります。デジタル学習基盤の整備により、情報へのアクセスや情報取得という状況が大きく変わってきました。これからは先生が全部教えなければならないとか、教科書に全部書いていなければならないという状況は大きく変化するでしょう。

やはりテクノロジーの進化は大きなものです。それは明治時代の初期に掛図が使われていたのが、教科書に変わってきたときも大きいものだったはずです。そのようなテクノロジーの革新が進む中で、学びの在り方や教科書の在り方を考えていかなければなりません。

さらに、「生成AIの活用」の問題もありますが、もっと刺激的なのは、「手軽に質の高い翻訳も可能となる中、外国語を学ぶ意義をどのように考えるか」という一文です。現行学習指導要領の改訂議論中にも、このような意見は出ていましたが、当時よりもはるかに機械翻訳ソフトの精度が上がり、無料で使えるようになってきています。それをどう考えるかは今後の議論を待つことになります。

生成AIにしても、機械翻訳にしても、今後さらに精度が上がることによって、誰もが使うようになっていくことは容易に予想できます。ただ、そのときにも、生成AIや翻訳ソフトが生み出した文章をチェックし、書き直すことを可能とする学力が必要になるということです。ちなみに米国では、機械翻訳ソフトを使ったほうが、外国語の学力が向上するという研究が多数あります。もちろん、きちんとした指導をすることが前提になるのは言うまでもありません。いずれにしても、デジタルの進歩と普及に伴い、いくつかの教科ではめざすべき学力論が根本から問われることになるでしょう(資料参照)。

【資料】「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」(諮問)の諮問項目より抜粋

第一に、より質の高い、深い学びを実現し、資質・能力の育成につながると同時に、分かりやすく、使いやすい学習指導要領の在り方についてです。…(中略)…生成 AI が飛躍的に発展する状況の下…(中略)…デジタル技術を活用したユーザビリティやアクセシビリティの向上の観点から…(中略)…デジタル学習基盤の活用を前提とした、資質・能力をよりよく育成するための各教科等の示し方についてどのように考えるか…(後略)。

第二に、多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程の在り方についてです。…(中略)…デジタル学習基盤を前提とした新たな時代にふさわしい学びや教師の指導性についてどのように考えるか…(後略)

第三に、これからの時代に育成すべき資質・能力を踏まえた、各教科等やその目標・内容の在り方についてです。…(中略)…生成AIをはじめデジタル技術が飛躍的に発展する中、小中高等学校を通じた 情報活用能力の抜本的向上を図る方策について…(中略)…生成AI等の先端技術等に関わる教育内容の充実のほか、情報モラルやメディアリテラシーの育成強化について教科等間の役割分担を含めどのように考えるか…(中略)…小学校高学年の外国語科を導入する等、小学校から高等学校まで大幅に充実がなされた中、生成AIの活用を含め、今後の在り方をどのように考えるか…(後略)

第四に、教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合うことを含む、学習指導要領の趣旨の着実な実現のための方策等についてです。…(中略)…デジタル教科書等の在り方をどのように考えるか…教育DXの一層の推進を含む教育委員会に対する支援の強化…(後略)

4つの諮問事項すべてに、デジタルやAIに関する内容が関わっている。

今回の改訂では、多岐にわたる論点がありますし、どのような教育課程の基準になるかは今後、議論していくことですから、現時点で私が言えることはありません。ただ、これまで説明してきたように、なぜ、このような諮問文が示されているかという現行学習指導要領からの経緯について、読者の先生方にご理解いただきたいと思います。

改めて整理すれば、課題の第1は多様性問題で、これは「令和の日本型学校教育」で議論されてきたことです。課題の第2は、現行学習指導要領の路線を基本的には維持し、発展させてはどうかということで、「理念や趣旨の浸透は道半ば」と表現されているのは、この道を後戻りしたり、大きく変更したりはしないということかと思います。ただし、目標と内容を触らなかったための「積み残し」があり、詳細は先に説明した通り、中核的な概念をよりどころにして構造化してはどうかという問題提起がなされているということです。第3に、その下支えとしてデジタルが強力な道具立てとして整備されてきているので、それを存分に生かそうということなのです。

3回目となる今回は、諮問文の構造や意味、さらにデジタル関連の問題などについて聞いていきました。最終回となる次回は、学習指導要領の弾力化についてや現場の先生方へのメッセージなどを紹介していきます。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

【中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」】
次回は3月13日公開予定です。

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