幸せに生きていくためのツールの1つとして、英語が使えるようになるとよい 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #26】

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全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
第26回 全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
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前回は、英語教育実施状況調査で良好な結果を示し続けている、福井県の「授業名人」、越前市南越中学校の朝倉由花教諭に、1年生の英語の単元・授業の実践事例について聞きました。今回は、そのような単元・授業を行う背景となる、朝倉教諭の単元・授業づくりの考え方について聞いていくことにします。

福井県越前市南越中学校・朝倉由花教諭

生徒たちが「やってみたい」と思えるように、目的・場面・状況を設定する

朝倉教諭は、現在、目的や場面、状況を設定し、必然性のあるコミュニケーションを通して英語を身に付けていくような単元・授業づくりをしていますが、コミュニケーションを通して学ばせるという考え方は新採の頃から変わらないと話します。

「私は地元大学で英語教育を学んだのですが、指導者の大下邦幸先生(福井大学名誉教授)は、コミュニカティブ・クラスを提唱されており、授業において、コミュニケーションの中で英語を学んでいく方法を指導されていました。英語の授業自体をコミュニケーションの場にするという、現行学習指導要領が求めるような授業を提唱されている先生の下で学びました。

ですから、未熟ながら、新採の頃からコミュニケーションを意識して授業をしていたつもりです。その後、少しずつ時代に合わせて改善を図り、今は単元を通して、単元の最後にゴールを設定し、そこに到達させるためにどのように生徒に英語を学ばせるかという単元・授業づくりをしています。しかし、生徒にどのように学ばせるかというと、『コミュニケーションを通して』ということは変わっていません」

とはいえ、生徒たちが今生活している環境で、英語を学ぶ切実さや必然性を感じているかというと、必ずしもそうではないと朝倉教諭。では、そうした環境の中で、生徒たちが主体的に学びたくなるような単元・授業をどのように構成するのでしょうか。

「生徒たちが『やってみたい』『やってみよう』と思えるように、目的・場面・状況を設定することがとても大事です。また、生徒たちが英語を学ぶことの楽しさや大切さ、意義を感じながら取り組めるように授業づくりをしたいとも考えています。ですから、生徒たちを中心において、その生徒たちの日常や興味・関心と単元や授業の内容をリンクさせながら、ゴールに到達できるように構成することを意識しています。

日本に住んでいると日本語だけでも生きていくことが可能です。英語使用の必要性を感じない環境であれば、なおさらでしょう。しかし、英語を学ぶことは、1歩外へ出る扉の1つになるのだと思います。英語という言語の学習を通して、ほかの国や文化への興味・関心をもち、またそこから英語以外のほかの言語にも興味をもつようになれば、さらに広い世界のつながる可能性が広がるわけで、その扉を開きたいのです。

日本語だけで過ごせる日常の中では、『英語は特別なもの、むずかしいもの』と感じて、苦手意識をもつ子もいます。ですから、特に小学校から中学校にかけての入門期においては『ちょっとできたらいいな』『ちょっと学んだら楽しそうだな』という気持ちをもたせたいと思います。学ぶ主体はもちろん生徒なのですが、教員である私も一緒になって楽しんで学び、英語を楽しむよいモデルになることを意識しています。

それでも、生徒たち一人一人の個性や得手不得手は異なりますから、楽しんで英語を学んだからといって、すべての生徒が必ず英語を使えるようになるとは限りません。ですから、英語の授業では、生徒たちの可能性を広げる種を蒔くというイメージをもっています。将来、生徒たちが自己実現をして、幸せに生きていけるように人生のツールの1つとして、英語が使えるようになるとよいなと思いますし、今はできなくても必要が生じた時に、『よし、ちょっと学び直そうかな』と思えるようなきっかけになる種を蒔くということです。

中央教育審議会の『令和の日本型学校教育』答申では、『自立した学習者の育成』が重要視されています。学校教育を受けている現時点で、自立した学習者になれれば最高ですが、それが今でなくても将来、大人になった時でも、自ら学習する人になってほしいのです。ですから、その基礎となる勉強の仕方・学習の仕方とか学ぶ楽しさを、少しでももたせて卒業させたいと思っています」

授業風景1
英語で自分の考えをスピーチする子供。

生徒の状態、思考を想像して、その流れを切らないように活動を組む

前回紹介した単元の中で、コミュニケーションを通して、身に付けた表現を活用し、それを修正しながらさらに表現するというスパイラルな単元づくりを大事にしていると話していた朝倉教諭。そうした単元構成はもちろんのこと、日々、生徒たちの姿を見とり、関わっていく教師としての姿勢も大事にしていると話してくれました。

「1つのクラスがあれば、多様な生徒がいます。それと同様にクラスごと、その日ごとに生徒たちの反応も異なります。ですから、同じ単元であっても、クラスによって授業の展開を変えていくことが必要です。単元としての軸はあったとしても、1つ1つの授業をその日、その日のクラスの状況に応じて変えていくということです。

例えば、どんどん発言をしていく生徒の多いクラスであれば、教員と生徒でやり取りができます。自分が学ばせたいものについて、どんどん生徒から引き出して授業を進めることができるわけです。しかし、自分を出すことが苦手なクラスであれば、まず安心して対話しやすい生徒同士のペア活動を入れるほうが有効です。同様に日頃元気なクラスでも、その日は積極性がないという場合もあります。そのように生徒たちの状態、生徒たちの思考を想像して、その流れを切らないように活動を組んで学習の流れをつくるということです。

授業風景2
授業中、対話しながら思考を深めていく。

その際に、教員は基本的によきモデルであるべきです。いくら教材がよくても、自分がどのようになっていくのかというイメージが湧かないと、なかなかできないものでしょう。ですから、教員がモデルになる必要があるわけです。私自身はもちろん、ALTと授業をするときには、私とALTとのやり取りを通して、生徒たちが『ああ、あんなふうに活動するのか』『やりたいな』とワクワクした気持ちで活動に取り組めるようにしていきたいと思っています。

今、コミュニケーション活動をする際には、目的・場面・状況を設定して、生徒たちが『何を学ぶのか』『どのように学ぶのか』をはっきり捉えられるようにして活動することが必要だと言われます。生徒たちが、それらを把握し、『自分ならどうするか』と頭の中で考えて実際にやってみる。その結果を生徒自身がフィードバックしながら、改善を図っていくことが大切です。

それと同時に、教員である私も生徒と関わって、よいモデルになると同時に、生徒の姿をていねいに見とりながら、生徒たちの活動の質を上げるための中間指導を入れていきます。それらを繰り返して生徒の力を上げていきたいのです」

今回は、朝倉教諭の単元・授業づくりの考え方を紹介していきました。次回は、そのような考え方が生かされた、3年生の単元・授業を紹介していきます。

【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は3月14日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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