「グループと机の配置~一人一人が大切にされるための場づくり~」インクルーシブ教育を実現するために、今私たちができること #11
「インクルーシブ教育」を通常学級で実現するためには、どうすればよいのでしょうか? インクルーシブ教育の研究に取り組む青山新吾先生が、現場の先生方の悩みや喜びに寄り添いながら、インクルーシブ教育を実現するために学級担任ができること、すべきことについて解説します。
本連載では、インクルーシブ教育とは、貧困状況にある子どもや性的マイノリティの子ども、外国にルーツのある子ども、不登校の子ども、障害や病気のある子どもなどのマイノリティ属性を含むすべての子どもが対象だとしています。そして、すべての子どもたちが包摂される教育を目指すプロセスがインクルーシブ教育であり、そのためには通常学級の教育をもっと豊かにしていくことが求められているという前提に立っています。
今回も、前回に続き、一人一人が大切にされるための場づくりについて考えます。
執筆/ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授・インクルーシブ教育研究センター長・青山新吾
目次
ある学校にて
ある小学校の教室を訪れました。
通常学級の授業を拝見しました。若い先生が、子どもたちとの関係を丁寧に紡ぎながら教育に取り組んでいることが伝わってくる、温かさが心地よい空間でした。スタンダードな一斉授業の展開に、時折、ペアトークやグループでの話合いを組み入れた構成の授業をされていました。
子どもたちと先生の関係がよいからでしょうか。ざっくり見ると、子どもたちは活発に発言して、グループでの話合いが進められているように見えました。でも、よくよく見ると「子どもたち」はそのように見えても、一人一人の「子ども」については、状況が異なっていたのです。
たくさん話せているように見える子ども。
ニコニコしながら聞いている子ども。
聞いてはいるように見えるけれど、表情は固い子ども。
全く違うほうを向いている子ども。
聞いていないのかと思っていると、突然、他の子どもが言ったことに関連する話を始める子ども。
ずっとうつむいている子ども……等々。
それぞれの子どもは、何かを思いながらそこにいるのだと思います。どんな思いなのだろうかと考えつつ状況を眺めていましたが、別の視点から考えると、あることに気が付きました。それは、子どもたちの机の置き方がグループによって異なっていることでした。
グループと一口に言うけれど~机の配置~
子どもたちは4人グループを基本としているようでした。もちろん、お休みの子どもなど事情があれば、3人グループのところもありました。1つだけ5人グループもありました。人数の違いもありますが、よく見ると、子どもたちのグループのつくり方、すなわち机の位置が違っていたのです。
4人の子どもがそれぞれに机をつけてグループをつくっているのですが、1人だけ、机の向きが異なっているグループもありました。また、机の向きは変えているのですが、きっちりとくっつけずに話しているグループ、4人のうち3つの机はくっついていますが、1人だけ机が離れているグループもありました。ほんの少しだけではありますが、机が離れているのです。また、5人グループはいわゆる「お誕生日席」のようなポジションに1人が位置することになっていました。
子どもの様子は机の配置と無関係なのか
例えば、4人のうち1人だけ机がくっついていないのはどうしてなのかな? と考えてみます(本連載の第3回「やさしいどうして?」のまなざし~徹底した個への関心~を参照してください)。1人だけ机がほんの少し離れている理由は推察の域を超えませんが、それが単なる偶然なのかどうかを考えることが大切です。
本人が、机をつけたがらないという場合もあるでしょう。細かいことが気にならないことから、たまたま机が離れているのかもしれません。しかし、他の子どもたちが「意識して」机をつけていないことも考えられるでしょう。
だとすれば、これは、単に机の位置の話にはなりません。明らかに重大な子ども同士の関係の問題が絡んでいると考えられるからです。子どもたちの日常の様子を徹底して観察したり、心の声も含めた子どもたちの声に耳を傾けることが早急に必要だと考えられます。
また、いわゆる「お誕生日席」の子どもが、ほとんど発言しないで表情も冴えないように見えたのはどうしてなのかな? と考えてみましょう。
例えば、元々自己表現が苦手な子どもなのかもしれません。その日はコンディションが悪かったのかもしれませんし、その日のテーマに関心がなかった可能性もあります。そして、ひょっとしたら、ほとんど発言しないで表情も冴えないことに、机の位置が微妙に影響している可能性があるのではないか、向きの違いや他の子どもとの距離感が話しにくさを生んでいるのかもしれないと思うのです。
もしそうだとしたら、どうすればよいのでしょうか。
子どもに尋ねてみませんか
「お誕生日席」のことを子どもたちに話して相談してみたら、子どもたちは何を語るのでしょうか。
「自分もそこに腰掛けてみたい!」という子どももいるかもしれません。そして、実際に経験することによって、「ちょっと遠いな……」など、これまで気付いていなかった感情に気付くかもしれません。
「じゃあ、順番にお誕生日席に腰掛けよう!」なんて声が出てくるかもしれません。子どもたちがどのように考えるかが楽しみですし、そのこと自体が、子どもたちのことを知る場面にもなります。
インクルーシブな学校、教室は、一人一人の取り組んでみたいことが尊重される場であること、それを大切にしようとする人と人が共に生きる場であること、そして、そういった場づくりのプロセスそのものであるように思えます。
さあ、教室の中の何気ないデザインをどうするかについて、子どもたちと一緒に考え始めてみませんか。
【参考文献】
・岩瀬直樹・中川綾『読んでわかる! リフレクション みんなのきょうしつ増補改訂版』(学事出版)
青山新吾(あおやま・しんご)ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授、同大学インクルーシブ教育研究センター長。岡山県内公立小学校教諭、岡山県教育庁特別支援教育課指導主事を経て現職。臨床心理士。著書『エピソード語りで見えてくるインクルーシブ教育の視点』(学事出版)、編著『特別支援教育すきまスキル』(明治図書出版)など、著書・編著多数。
【青山新吾先生 著書】
『エピソード語りで見えてくるインクルーシブ教育の視点』(学事出版)
『インクルーシブ教育を通常学級で実践するってどういうこと?』(岩瀬直樹との共著/学事出版)
図版/木村旨邦 イラスト/イラストAC