「哲学対話」をしよう|対話型授業と自治的活動でつなぐ 深い絆の学級づくり #11
コロナ禍以降、コミュニケーションに苦労する子供や人間関係の希薄な学級が増えていると言います。子供たちが深い絆で結ばれた学級をつくるには、子供同士の関わりをふんだんに取り入れた対話型授業と、子供たちが主体的に取り組む自治的な活動が不可欠です。第11回は、「哲学対話」について解説します。
執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真
目次
「哲学対話」とは?
対話型学習の取組として私が注目しているのが、「哲学対話」です。
哲学対話は、近年小学校でも活用されるようになってきたものです。源流はアメリカで始められた「こどものための哲学(p4c)」だと言われ、日常生活の中にある哲学的な問いを、対話によって深めていく活動です。
哲学というと難しいものという感じがするかもしれませんが、「何のために勉強するのか」「人生って何だろうか」「幸福とは何か」というように、「~はそもそもどういうことか」を、自由に話し合っていくものです。
哲学対話については確定した型があるわけでなく、実践者によってその進め方は様々です。ここでは私がやりやすいと思っている方法を一例として示します。各自で取り組みながら、よりよい方法にアレンジしてください。
「哲学対話」導入の授業
話し合うグループは10人から20人が適正と言われますが、まずはイメージを共有するために、1回目は学級全員で行うとよいでしょう。
形式的には、以前紹介した「クラス会議」に似ていますので、「クラス会議」を経験している学級であればさほど抵抗なく導入できるでしょう(まだ導入していない場合は、ぜひ取り組んでみてください)。
なお、ここでは45分で行うことを想定して目安の時間を書きますが、子供たちの様子を見て、早めに切り上げたり、延長したりするなど、柔軟に対応してください。
①全員で輪になる【5分】
机を教室の後ろに寄せるなどして、椅子だけを持って集まり、輪になります。
②問いづくりをする【10~15分】
哲学対話では問いを立て、それについて話し合っていきます。ですので、問いづくりが重要であり、できるだけ子供たちに自由に話し合って決めてもらいたいところです。ですが、慣れるまでは、教師がテーマを示すとよいでしょう。
「幸せとは何?」「なぜ学校に来なければいけないの?」「友達は多いほうがいいの?」など、子供の素朴な疑問のようなものでいいでしょう。
何回かやって、活動に慣れてきたら「そもそも~はどういうことか」というテーマで、問いを自由に出してもらいましょう。教師はファシリテーターとして、子供の発言を板書しながら、同じような意見をまとめたり質問を促したりして、考えが深まるように努めます。様々な問いが出たら、話し合いたいことは何かについて意見交換して決めていきます。
③対話をする【15~20分】
クラス会議では「トーキングスティック」というものを使いますが、哲学対話でも同様に、誰が話をするのか、視覚的に分かる物を用意します。一般的な哲学対話では、毛糸玉を使用し、これを「コミュニティボール」と呼びますが、小さなぬいぐるみのようなものでも、おもちゃのマイクでもかまいません。それを持っている人が発言者です。
次に発言したい人は挙手します。発言が終わったら、挙手している人の中から次の発言者を選び、コミュニティボールを渡します。なるべく全員が話をできるように、教師は一定の人ばかりが発言しないように進行していきます。
なお、対話のルールは以下の通りです。
・正解はないので、人を傷つけることでなければ何を言ってもいい
・否定的な発言、態度をとらず、肯定的に聞く
・発言せずに、ただ聞いているだけでもいい(小グループの時は除く)
・発言に対してできるだけ質問をする
・なるべく経験したことを入れて話す
・話はまとまらなくていい、結論が出なくていい
・意見が変わってもいい
・よく分からなくなってもいい
※『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』著・梶谷真司(幻冬舎新書)を参考に作成
要は、自由に互いの考えを交流できればいいのです。流暢な話合いではなく、時には立ち止まり、停滞するような場面があってもよいでしょう。教師はキーワードを板書しながら、ファシリテーターとして、話の整理をします。また、ポイントとなりそうなことを全員に問い返します。ですが、きれいにまとめようとしたり、結論に導こうとしたりするようなことは慎みましょう。教師もまた子供と一緒にじっくりと考えを深めていきましょう。
④話合いを振り返る【10分】
どんなことを考えたか、どんなふうに考えが変わったのかなどを話し合ったり、ノートに書いたりします。また、新しい発見や新しい考えなどが出てきた子に発表させるのもよいでしょう。
少人数での取組
前項のような取組を1~2回程度行い、イメージがつかめたら、今度は5人くらいの班で挑戦するようにしましょう。その際は、班長を決め、班長に進行を依頼します。
学級全員で行う場合は、発言者を明確にするため、コミュニティボールを使用しますが、少人数の場合は、基本的には全員が話をすることになるため、コミュニティボールは使用しません。
問いづくりまでは、班ごとではなく、学級全員で行います(こちらも慣れてきたら、班ごとに行うこともできます)。
対話では1人1分程度話すようにします。1分たたずに話し終わった場合は、周りの子が質問をして、それに答えるようにします。教師はタイムキーパーとなり、1つ2つの班を回り、1分を計測(「はじめ」「やめ」を言う)しながら見守ります。
全員が話し終わったら、フリートークの時間を取ります。話合いの様子を見ながら、5分程度自由に話し合ってもらいます。
教師は話合いの途中で、各班を回り、気になる発言をしている子をチェックしたり、話合いが停滞している班を支援したりします。
最後に、気になる発言をしていた子に全体の前で発表してもらったり、班での話合いの様子を班長に報告してもらったりします。それから、振り返りをします。
教科の中で取り組んでみよう
例えば、国語の授業で哲学対話を取り入れることができます。
全員で、金子みすゞの「わたしと小鳥とすずと」を読み、「考えを深められる問いを考えよう」と投げかけます。
導入で行った「問いづくり」と同じように、似たような問いをまとめたり、問いを考えた人に質問したりしながら、どの問いで哲学対話をしていきたいか考えます。
哲学対話は、考えが深まったり広がったりするものがよいことであり、1つの正解を求めるような問いではないという観点から、話し合う問いを1つ決めます(いくつか決めて順番に取り上げていくこともできます)。
次に班になり、哲学対話を行います。例えば、「なぜ、すずだけ生き物ではないのに入っているのか」について話し合います。話し合う前に、少し時間を取り、各自の考えをノートに記入します。それをもとに1人1分程度ずつ発表していきます。全員の発表が終わったら、フリートークを行います。話をしているうちに、違う問いが出てきたら、その問いについて話し合ってもかまいません。
教師は机間巡視しながら、支援してきます。ただし、円滑に進む話合いを目指しているわけではないので、そのことを忘れないにようしましょう。
最後に、教師が気になった発言をしている子を指名し、発表してもらいます。また、各班でどのような話合いがあったのかを、班長から報告してもらい、共有します。それから、本日の話合いを振り返ります。
国語なのであまりに言葉から逸脱するのは問題ですが、厳密に言葉にこだわりすぎても、自由な話合いになりません。そのさじ加減は、実際に授業を行いながら考えるとよいでしょう。
今回は国語で紹介しましたが、道徳や社会科などでもこの手法は使えます。
哲学対話は、様々な考えを受け入れ、より広く深く考えていこうという活動ですので、考える力を伸ばす働きがあると言われます。また、何を言っても否定されない、無理に人に合わせない、多様性を認める話合いで、心理的安全性を担保するような取組ですので、自然と子供同士の人間関係はよくなっていきます。ぜひとも、様々な場面に取り入れてみてください。
【参考文献】
・『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』著・梶谷真司(幻冬舎新書)
・『こども哲学ハンドブック 自由に考え、自由に話す場のつくり方』著・こども哲学 おとな哲学/アーダコーダ(アルパカ)
※信州大学教育学部助教 松島恒熙先生の講演も参考にしています。
瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育委員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。
イラスト/高橋正輝、イラストAC
【瀧澤真先生執筆 連載】
学級担任の時短術(全12回)
保護者を味方にする学級経営術(全13回)
【瀧澤真先生ご著書】
まわりの先生から「むむっ!授業の腕、プロ級になったね」と言われる本。(学陽書房)
まわりの先生から「おっ!クラスまとまったね」と言われる本。(学陽書房)