面白い授業日本一決定戦!N-1GP(ネタワングランプリ)全国大会決勝リポート~土作彰、佐藤隆史ほか有名実践者たちが横浜に集結! ♯1

奈良県公立小学校教諭

土作彰

8分間の模擬授業で、「日本一面白い授業」を決定!

2024年3月28日、横浜駅前のかながわ県民センターにて、N-1GP(ネタワングランプリ)第1回全国大会決勝が行われました。ミニネタの達人・土作彰先生が主催するこの大会は、8分間の模擬授業(+2分間の解説)で日本一面白い授業を決定しようというもの。各地方大会の優勝者5人と、当日行われたワイルドカードから勝ち上がった1人の計6人で優勝を競いました。
佐藤隆史先生、河邊昌之先生、山田将由先生、鈴木優太先生、紺野 悟先生ら全国的に有名な凄腕実践者たちも一堂に集結した、記念すべき第1回大会の模様をリポートします。

大会を主催する土作彰先生
大会を主催する土作彰先生

【関東代表】及川直人「和ー日本のこころー」

【関東代表】及川直人先生

関東代表の及川直人先生の実践発表は、「和ー日本のこころー」をテーマにした授業です。最初に「『日本人ってどういう人』と聞かれたらどのように答えますか?」の発問からスタート。参加者それぞれが、日本人は何を大切にして生きているかを考えていく内容です。

【問題】日本=日の本の国(のもとのくに) のもとのとは?
 A:太陽 B:火 C:一(ひとつ)

答えはA。日の本→日が本(わたしたちのいのちは太陽がもと)
つまり、太陽の恵みに感謝して、太陽のように丸く、明るく元気に、豊かに生きるというメッセージが込められているのです。

このあと、我々が日常的に使う「こんにちは」(答え:太陽のように、明るく元気に過ごしていますか?)、「さようなら」(答え:太陽と一緒に生活しているならば、ご気分がよろしいでしょう)という挨拶の意味などについても掘り下げていきます。

「まずは、自分の国の文化や伝統の価値、自分たちが大切にしているものを知ることが大切です。そして、他人や他国にも学び、他人にはまねられない自分へと成長していきましょう」というメッセージで、授業を終えました。

参考文献/
境野勝悟『日本のこころの教育』(致知出版社)
岡潔『情緒と日本人』(PHP文庫)
村田雄一「国語works」
「英国国王の代替わり・英国国歌を通して学ぶ君が代と日本の姿」より

【東海代表】鈴木利一郎「ボール運動 ベースボール型 モヤッとベースボール」

【東海代表】の鈴木利一郎先生

東海代表の鈴木利一郎先生は、小6体育「ボール運動」を題材にした授業です。ベースボール型のゲームで、「たくさん得点するためには?」という課題について考えていきます。

得点するには…ヒットをたくさん打つ(→守りがいないところをねらう)、ホームランを打つ(→ボールを遠くまで飛ばす)。こうした基本を押さえたあと、突然、上着を脱ぎ、ユニフォーム姿になった鈴木先生は、「2023年、日本一になった球団は?」と質問。ここから、日本のプロ野球のデータを基にして考えていくという展開に。

2023年、日本一となった阪神タイガースの総得点は555点(1試合で約4点)。これはセ・リーグ6球団の中で1位でした。ところが、ヒット数では3位、ホームラン数は5位という結果なのです。ヒット数もホームラン数も少ないのに、なぜ得点をたくさん取ることができたのでしょうか?

ここでポイントになるのが「犠打」です。自分のアウトとは引き換えにランナーを先の塁に進めるプレーを言います。阪神は、犠打が6球団でもっとも多かったのです。「自分のアウトとは引き換えに仲間を生かすこと」とは、「1人ではなくみんなの力で戦うこと」と言い換えられます。ヒットやホームランも重要であるけれど、大切なランナーを生かす作戦を考えることでも得点を取れるのです。

「たくさん得点を取るためのとっておきの作戦をチームで考えていこう!」という課題を提示して、授業を終えました。今回の授業で犠打に注目した理由を「スポーツは必ずしも華やかな一面だけではありません。華やかではないところにもスポーツの面白さがあるということを子供たちに伝えたかった」とその意図を語りました。

【四国代表】大倉智也「理科 風船の中身は?」

【四国代表】大倉智也先生

四国代表の大倉智也先生は、理科の授業。空気を入れた風船(気体)、水を入れた風船(液体)、トランプを入れた風船(固体)を見せたあと、グループに1つずつ下の写真のものを配ります。

「これは何でしょう? この中身は気体ですか? 液体ですか? 固体ですか?」と問います。

風船の中に片栗粉と水が入ったもの。触ると弾力があり、変形する。
風船の中に何かが入ったもの。触ると弾力があり、変形する。

「固体です」⇒「何で?」⇒「ある程度の重さがあって、押すと固いから」
「液体です」⇒「何で?」⇒「触ると形が変わるから」
と、参加者と大倉先生のテンポのよいやりとりが続きます。終始、若さあふれる元気な姿が印象的でした。

写真の風船の中身は、片栗粉(固体)と水(液体)を混ぜたものでした。触り心地がよく、叩きつけても割れないので、ストレス発散グッズとしてもおすすめだそうです。

【関西代表】佐藤隆史「リズム音読『大漁』金子みすゞ」

【関西代表】佐藤隆史先生

関西代表の佐藤隆史先生は、金子みすゞの詩「大漁」のリズム音読。活動のめあては、「リズムに乗って楽しみながら音読することで、新たな日本語の響きや面白さに気付く。たくさんの声が色とりどりに混じり合うグルーヴ感を味わう」こと。佐藤先生は、楽しさはリズムに宿り、リズムあるところに生命力が宿ると言います。

佐藤先生が、「たいりょう」の前に「た・た・た・た」を付けて、「た・た・た・た・たいりょう~」と範読、それを参加者がまねします。あっという間に参加者の心をつかみ、どんどん音読に一体感が生まれていきました。

そして、ユニゾン。参加者を4つのグループに分け、Aグループ「なんまんの・なんまんの・なんまんの」、Bグループの「いわしの」、Cグループ「と・む・らーい」、Dグループ「と・と・と・と・とむらーい」と絶妙なリズムに乗った音読パートを割り当てていきます。

音読をエンターテインメントにまで昇華させた佐藤先生のリズム音読。参加者の先生たちは楽しそうに音読の声を響かせていました。文章だけでは伝えきれませんので、動画(小学館IDでログイン後、下のリンクからご覧いただけます。無料です)で、その凄みをご確認ください。

【ワイルドカード】瀬戸歩先生「図画工作 アンリ・マティス」

【ワイルドカード】瀬戸歩先生

午前中に行われた5人によるワイルドカードを理科の実験の授業で勝ち抜き、決勝大会に上がってきた瀬戸歩先生。今回は、マティスの作品を題材にした図工の授業です。

最初にスクリーンに、アンリ・マティス作「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」を提示。(この時点で作品の説明などは一切行わず)「この絵を見て気付いたことを隣の人と話してください。気付いたことなら、色や形、塗り方など、何でもかまいません」という課題からスタート。

「この絵は、“20世紀のアートを切り開いた絵”と評されています。ピカソと並ぶ20世紀の巨匠アンリ・マティスの描いた『緑のすじのあるマティス夫人の肖像』という絵です」と、ここで作品の情報を与え、「では、なぜマティスは緑の鼻筋を描いたのでしょうか?」と問いました。

その答えを考えるために、マティスが現れる前にどんな作品が描かれてきたのか(レオナルド・ダ・ヴィンチ作『最後の晩餐』、ジャン=フランソワ・ミレー作『晩鐘』、エドワール・マネ作『笛を吹く少年』など)を紹介。
印象派の画家たちや、マティスやピカソ、セザンヌらが現れるまでは、素晴らしい絵とは「目に映る通りに描かれた絵」とされていて、そうした考えを写実主義と言うことを説明しました。

しかし、カメラ(写真術)の登場により、画壇の状況は一変します。そこで、マティスを含めた当時の画家たちは、カメラではなく、「アートにしかできないことは何か?」を問い、「色を自由に使う楽しさや美しさを表現すること」という一つの答えを出しました。
こうして、目に映る通りに描くことから世界を解放したのです。そのため、この『緑のすじのあるマティス夫人の肖像』は、“20世紀のアートを切り開いた絵”と言われているのだそうです。

最後に、瀬戸先生から「カメラの発明から183年。今ではスマホや生成AI、CG、VFXなどが発明されています。では、21世紀のアートを切り開いた絵とはどんなものになるのでしょうか?」という問いが出されました。

絵が得意ではないという瀬戸先生、自分と同じように絵に苦手意識をもっている子供たちに「リアルな絵を描くことがすべてではない。絵にはさまざまな可能性があるんだ」ということを伝えたくて、この授業をつくったと言います。

参考文献/末永幸歩『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)

【九州・中国代表】大貝浩蔵「長く続いた戦争と人々のくらし」

【九州・中国代表】大倉浩蔵先生

大貝浩蔵先生は、6年社会「長く続いた戦争と人々のくらし」を一通り学んだ後に行う授業です。実際の授業で、子供たちが調べ学習や発表をした中で、沖縄のことに触れる子が少なかったため、沖縄戦に焦点を当てて、この授業を作ったと言います。

沖縄・渡嘉敷島では集団自決がありました。では、「人々はなぜ、集団自決をすることになったのでしょうか?」

日本軍の命令だったという説があります。実際に命令書がありました。書いたのは赤松嘉次さんです。そのことを知ったノーベル賞作家の大江健三郎さんは、赤松さんを「罪の巨魁」と表現しました。

以前まで高校の教科書には「なかには日本軍に集団自決を強制された人々もいた」と書かれていました。しかし、15年前の教科書改訂により「なかには集団自決に追い込まれた人々もいた」と変更されました。みなさんはこの改訂をどう思うでしょうか?

次に、集団自決の命令書がいつ書かれたのかを見ていきます。赤松さんは、集団自決の命令書をA・B・C・Dのいつの時点で書いたでしょうか?

赤松さんは、集団自決の命令書をいつ書いたのか?

書いたのは、なんとDの時点だそうです。その理由は、軍の協力者であればその遺族に年金が支払われるという「戦傷病者戦没者遺族等援護法」と関係していると言われています。

渡嘉敷島で集団自決があった1週間後、渡嘉敷島を訪れ調査した照屋昇雄さんによると、1週間ほど滞在して100人以上から話を聞いたけれど、集団自決が日本軍の命令だったと証言した人は1人もいなかったと証言しています。

遺族たちが年金を受け取れるように、島民から軍が命令したことにしてくれと頼まれたという赤松さんは、「軍が命令したことにしよう。私が命令書を書く」と答えたのだそうです。

改めて、「なかには日本軍に集団自決を強制された人々もいた」から、「なかには集団自決に追い込まれた人々もいた」への変更について、どう思われたでしょうか?

第1回大会の優勝者は佐藤隆史先生!

主催の土作彰先生から優勝トロフィーを受け取る佐藤隆史先生

参加した先生たちの投票により、

第1位 佐藤隆史先生
第2位 瀬戸歩先生
第3位
 大貝浩蔵先生

に決まりました。

優勝した佐藤先生は、若い人には負けたくないと62歳での挑戦。会場にいた多くの先生たちが、その挑戦する姿や学ぶ姿勢に心を打たれたようでした。会場も満席となり、大盛況に終わったN-1GP(ネタワングランプリ)全国大会。
土作先生は、来年度、同時期の開催も宣言。我こそはと思う先生は、ぜひ挑戦してください。

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取材・文/長 昌之 写真/西村智晴

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