苦手なことこそがんばるとは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #19
教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの19回目のテーマは、「苦手なことこそがんばるとは?」です。誰にでも不得意なことがあります。教師のすべきことはたくさんあり、苦手なことには消極的になりがちです。しかし、それでもなんとかしようと思って取り組めば、自分の新たな成長が見られます。「苦手だな」と思ったとき、ぜひヒントにしてみてください。
執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。
目次
新たな自分を発見しよう!
先日、インド人の女性でインド国内の小学校と幼稚園で子供を教えていた方と話す機会がありました。日本の小学校を訪問するとスイミングプールがあるが、泳ぐときは誰か特別の先生が来て教えているのかと聞かれました。「いいえ、普通の担任の先生が教えるんですよ」と答えたら、驚いていました。「日本の先生は、英語も教えたり、水泳も教えたりと大変ですね」と言われました。改めて、小学校の先生のすべきことの多さに気付かされました。
自身が苦手と思うこともやらなくてはいけないし、先生たちの中には「嫌だなあ」と思うことも多くあるのではないでしょうか。苦手なことを克服すれば、それは新たな自分の発見につながります。やることがたくさんあることは、学べる機会が多い証拠。大変かもしれませんが、ぜひ苦手とあきらめずに挑戦してみませんか。
水泳
教員をめざす学生の中にも水泳が苦手だという人は多いようです。学校の授業だけではなかなか上手になりません。私も学校で覚えたというよりはスイミングスクールで泳ぎをマスターした気がします。10m泳げればなんとか25m泳げるので、ぜひ練習してみてください。
今、学校での水泳の時間は、真夏でも熱中症アラートが出ると泳げないなど、以前に比べ、だいぶ少なくなっています。私が新任採用(以下新採)の頃は、今と違って夏休みの水泳が30日間近くあり、指導などに若手が駆り出され、毎日のように水泳指導をしていました。私は一応泳ぐことはできました。しかし、手本として子供にかっこよく泳いで見せたいと思い、夜、スイミングスクールに通い始めました。週に2回でしたが、これが結構ストレス解消にもなり、体力も付きました。手のかき方、バタ足のけり方などコーチにしっかりと教えてもらい、現場で生かせる財産となりました。
また、太りやすい体質だったので、妊娠中はマタニティスイミングをしていました。妊娠も後期になると足を広げられないので、平泳ぎではなくバタフライをしました。私は、ここで初めてバタフライを覚えました。水泳は一生できるスポーツですので、苦手だと思っている先生、ぜひ練習してみましょう。
ピアノ
ピアノを弾くのが苦手な先生には多く出会いました。ピアノが弾けなくても、今はカラオケバージョンのCDやキーボードなどで伴奏機能があるのでうまく利用すればどうにかなると思います。
私は、ピアノは小さい頃から習っていたので得意でした。それでも、全校児童の前で校歌を弾いたり、合唱曲の伴奏をしたりするときは大変緊張しました。そのため、音を外したこともあります。ピアノはすぐにはできるようにはなりません。しかし、音楽会がある学校で一生懸命練習して、子供が歌う曲の伴奏を弾いた先生を何人も知っています。うまく時間を利用して挑戦してみることをおすすめします。
英語
今では、当たり前のような外国語活動、外国語の時間ですが、英語が導入される頃は、英語をやるなら小学校の先生にならなかったというぐらい英語嫌いの先生たちに多く出会いました。
私は、以前にもこの連載で伝えたようにニュージーランドに研修に行っていたことがあるので、英語導入時は、いろいろな公開授業を行ったり、資料を作成したりしました。テレビ番組に出演したこともあります。
英語に関しては、まずは、先生が楽しむことです。子供と同じレベルから始めるとよいと思います。ジェスチャーゲームをしたり、踊りながら歌ったり、そのようなことを繰り返して英語に慣れることが必要です。
校長になったとき、その学校で近隣の大学の留学生と盛んに交流していました。英語のメールが学校にどんどん届いたり、場合によっては電話がかかってきたりします。英語が苦手だと言っていた副校長は、NHKの基礎英語を始めました。「偉いな」と思って様子を見ていましたが、だんだん慣れてきて、留学生にも笑顔で応対できるようになりました。
語学は、時間がなければ、テレビやラジオの講座や、今はオンラインで学べるレッスンもたくさんあります。私もいつでも英語で話せるように、今でもオンラインレッスンで英会話を勉強しています。映画を英語(字幕付き)で見るのも力が付きます。ストーリーが分かっているディズニーなどの映画でぜひチャレンジしてみてください。今後、英語教育はさらに盛んになると思いますので、英語が苦手な先生は何とか克服するようにしましょう。
板書
私は、黒板にチョークで書く板書が苦手でした。今では、電子黒板やパソコンも設置してあり、黒板にチョークで字を書く機会も少し減ってきていると思いますが、それでも教師になると子供たちに分かりやすい板書が必須になります。ホワイトボードの学校もありますが、マーカーペンになるとより一層書きづらいような気がします。
教員時代に教科担任をしていたことがあります。それまでクラスの担任だけの板書を見ていたのに、違う先生の板書も見ることになります。子供は素直なので、「○○先生の字は吉藤先生より見やすくてとてもきれいだった」と言われたときはショックでした。
そこで、いろいろな先生方から板書のコツを教わりました。教えてもらったのは、「横書きをきれいに書くのは難しいからまずは縦書きで練習しなさい」とのことでした。板書だけでなく、百人一首など、書き方本が出ています。それで、まず縦書きを練習しました。次に横書き。「す」「お」など横棒のある字をどのように並べると見栄えがよいかを練習しました。板書は字のきれいさだけでなく、1時間の授業でどのように黒板に授業内容をまとめるかが重要です。授業もタブレットで見ることが多くなりましたが、板書のよさを見直して、子供に分かりやすい板書を工夫してみてください。
運動
今でこそ、同年代の人からは、「アクティブよね~」と言われる私ですが、大学まではバリバリの文系、運動を始めたのは教員になってからと言っても過言ではありません。若手の頃は、休み時間、子供たちと遊ぶときに走るので、体力が必要です。教師間でも運動することが多いのです。
バレーボール
コロナ禍で中止になっていましたが、最近また学校対抗親睦のバレーボール大会や卓球大会などが復活してきたようです。若い先生の中には、嫌いなのにやらされて嫌だと思っている人もいるのではないでしょうか。私は背が高いほうでしたので、バレーボールの試合によく出ていました。
新採の頃は本当に下手で、PTAの人から「先生、試合に出るんですか?」と言われたこともあります。バレーボールのネットの張り方も分からないし、6人制のルールから勉強です。「どうしよう」と戸惑いながらも「少しだけ」と参加していたのですが、30代のときに近所の友達からママさんバレーボールの練習に誘われました。
今さら、バレーボールと思ったのですが、近くの高校のバレーボール部の生徒が来ていて、レシーブやトス、サーブのやり方を教えてくれました。メンバーの人が「アタックなどはできないけれど、サーブは練習すれば上達するよ」と教えてくれて、本当にその通りでした。試合でサービスエースが取れるようになったときは本当にうれしかったものです。
ハイキング
球技だけでなく、新採の頃は移動教室の登山もきつかったものです。最近は、子供の体力やトイレ休憩の場所を考え、あまりきつい登山コースは組まず、ハイキングのような行程が多いのですが、私が新採の頃は、登山口へ行くまでにすでに疲れてしまうようなコースを組んでいました。
新採2年目のときに、移動教室では緊張して夜もよく眠れず、登山の途中でダウンしそうになってしまったことがありました。なんとか全てのコースを歩くことができましたが、これでは、教師として失格だと思い、その後、走ったり、休日に関東近郊の山々をハイキングしたりするようにしました。
山登りは自分のペースで歩くとそんなに疲れないことも分かり、いつしかいつも先頭を歩かせてもらうようにしていたら、楽しくなってきました。そんな自分の経験から、校長になったときは、ハイキングの最後尾に付いて、脱落しそうな子供たちを励ましながら歩きました。
誰にでも不得意なことはあります。教師のすべきことはたくさんあります。ありすぎるかもしれません。それでもなんとかしようと思って取り組んでください。自分が成長し、健康になることもあるのであきらめないで、苦手なことこそがんばってみましょう!
構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ