【木村泰子の「学びは楽しい」#32】現状に悩んだら、システム改革で抜本的な解決を!
子どもたちが自分らしく生き生きと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載の32回目。今回は、お二人のベテラン教員からいただいた悩みから、問題を解決するための方策を考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子
目次
教員を孤立させないシステムづくりを
今回はミドルリーダーのお二人の方からいただいた悩みについて考えたいと思います。内容は、お二人とも子どもに向き合えない同僚をどうすればいいかの困り感です。
中学校のA先生
悩みというのは、生徒が大変な状態にある他学年の先生方が、「しょうがない」とあきらめながら指導されている状況を見て、悔しい思いがすることです。特性がある生徒が多く、2年間でどうにもならない状況があり、今に至っている中3のようですが、あきらめている先生方の様子に私が悲しくなります。
卒業式のその日まで情熱をもってあきらめず本音でぶつかってほしい思いはあります。しかし、私の所属する学年ではないため、歯がゆい思いでいます。生徒や保護者、仕事に対してドライな同僚が多く、どう共に働くべきか悩む毎日です。
働き方改革が間違った形で受け取られている気がします。一教員としてどう同僚を巻き込んでいくべきか、悩みながら自分が信じることを一つ一つ行っている最中です。このような状況で私ができることは何でしょうか?どんなに大変でも目の前の生徒にあきらめず向き合うことの大切さを同僚に伝えるにはどうすればいいでしょうか?
あらかじめ価値観の固まっている教員(大人)を動かすのはとても大変なことです。しかし生徒のためにあきらめず情熱をもって向かい合う姿勢をどうしても伝えたい思いでいます。どうかアドバイスいただけないでしょうか。
A先生、素晴らしいです。元校長として頭が下がります。まずは感謝です。中学校は学年セクトが強いところが多くありますね。他学年が口をはさめないような空気があるのが、学校の残念な当たり前のようです。A先生の悩みを抜本的に解消しませんか。今回は何とかできても、また、同じことが繰り返されるでしょう。学校長と戦略を立てて学校のシステムを変えるのです。A先生のような子どもの味方の教員が、全校の子どもの困り感に主体的に関わるシステムをつくるのです。
大空小では校務分掌を見直し、生徒指導部や生活指導部を捨てて「CC部(チャイルド コンサルティング部)」 を立ち上げました。子どもが困っている様子を見せたり、トラブルを起こしたり、教員と言い合いになったりしたら、何をおいてもCC部にすぐに一報を入れます。CC部の本拠地は職員室です。報告を受けたCC部のメンバーは即座に他のCC部のメンバーと子どもの事実を共有して、どうすれば子どもが困らなくなるかについてミーティングをするのです。メンバーは、自分たちだけで解決できないことについては様々な人の力を活用します。
このCC部のメンバーは、若手教員にとってもベテラン教員にとっても「子どものことを相談したい」と思える人がなります。まさに、A先生のような方がフリーでその日の子どもの様子を感じながら全学年に関わるシステムです。「今困っている子は誰か」とアンテナを高くしながら学校中を走り回る役割です。その日のことはその日に対応するのが鉄則です。困っている子がいたらCC部ですぐに作戦会議をして、「誰かが一緒に家に行こう」「〇〇先生にまず話を聞いてもらおう」といった、その日にできる最善策を考えた上での対応ができます。その日のことはその日のうちに子どもが納得して家に帰ることが何よりも重要です。
また、CC部は教員を孤立させないシステムです。子どものことで問題が起きたときは、一人の教員がどれだけ懸命に対応したとしても限界があります。子どもに「嫌い」だと言われ、保護者のクレームを受けたりするうちに若手教員は学校を辞めていきます。そこにCC部があれば、一人で苦しまなくていいのです。
ベテランにとっても同様です。ベテラン層はこれまでの学校の当たり前に固執しがちですが、過去の価値観で子どもと向き合っていたら、その指導力が強い権力となって子どもに「言葉の暴力」を浴びせ、それが子どもの「学校に行きたくない」気持ちにつながってしまうでしょう。そうならないためのCC部です。教員が一人で指導したり、子どもが教員の指導に苦しんだりすることがないシステムがCC部なのです。
A先生、リーダーになってすべての子どもの学習権を保障する「みんなの学校」をつくってくださいね。まずはCC部の具現化を‼︎
学級担任制からシャッフル授業に
もうお一人の先生のお悩みも紹介しましょう。
小学校のB先生
大空小学校の実践の映画は衝撃的でした。こんなに子どもたちが先生が生き生きしている学校なんて。せめて自分のクラスだけでも子どもの目線でやりたいと思う毎日です。
私は主任ですが、同じ学年の新任の方のクラスがうまくいかなくなってしまいました。1学期から目にしていた子どもが廊下で不満そうにしている光景がとても気になり、周囲の人にも管理職にも本人にもアドバイスを求めて、何とか改善できないかと頑張ってきました。
子どもが「分からない」とプリントを先生に投げ、そのプリントを先生がゴミ箱に捨ててしまったことで、ある子どもからの信頼関係が完全になくなってしまいました。そのことで子どもが暴れた後から暴言暴力。担任ご本人が子どもに匙を投げてしまい、子どもの話を無視する行動も。私の支えていこうと思う気持ちも切れてしまいました。 学びの気持ちがない方に何とか子どものためにと踏ん張っていただきたいのですが、良いアドバイスはありますか?
子どもと教員が対立する……あってはならない関係性が生まれてしまっています。新任の方が権力を行使して子どもを抑え込もうとすればするほど、子どもは学校に来なくなり、保護者は学校に文句を言い、最後は新任が教員の仕事に疲れ果てて辞めていくパターンにはまっていく気がします。
B先生としてはとても気を遣うことだと思いますが、まずは子どもを優先順位の一番に行動してみてください。授業のシャッフルから始めませんか。明日からでも新任の方と相談して「シャッフル授業にチャレンジしましょう」とか何とか、楽しそうなイメージで子どもたちに提案してみるのです。新任の方とどの教科を担当するかを決めて、学年のすべての子どもにB先生が授業で関わることから始めてみてはどうでしょう。もう学級担任制は通用しない時代に入っています。今こそ、ベテランの背中を子どもにも新任にも見せてやってください。
〇教員が一人で指導したり、子どもが教員の指導に苦しんだりしている状況を打破するためには、子どもに情熱をもつ教員が中心となって子どもの困り感に関われる新しいシステムを立ち上げてみよう。
〇子どもとの関係に苦しむ教員を何とかしたいと思ったら、授業のシャッフルで、ベテランがすべての子どもに関われるシステムをつくってみよう。
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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。