教員のための効果的な「叱り方」とは? ~児童を伸ばすコミュニケーション術~
初任者のせんせい方から、「叱り方ってわからないんです。どうすればいいのですか?」と聞かれることが多いです。そうですよね。叱り方って、難しいですよね! わたし自身も、「叱る」とはどういうことなのか、適切にお示しする方法を改めて考えてしまいました。どうせ叱るなら、児童を伸ばすようにしたいですね。一緒に考えていきましょう。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
目次
1「不適切にもほどがある」!
あなたは、理由もなく叱られたことはありますか? わたしはしょっちゅうありました。学生時代の部活動では怖い顧問や先輩から、社会では新人教育という名目で様々な叱責を受けました。教員の世界でも、私が初任の頃は、何かする度に教頭から呼び出され、机をドンと叩かれ、大声で叱られていました。別の学校に赴任した同期は、校長室に軟禁状態に置かれ、一つの行動だけでなく、過去のことや一連のことで長時間にわたって叱責を受けていたようです。最近話題になったドラマ「不適切にもほどがある!」(2024年1月よりTBS系でオンエア)でも、理不尽な叱り方が横行していた時代が描かれていました。
実は当時、こうやって叱る人は「きちんとした仕事をしている」と評価されていました。とんでもない話ですね。叱られた側はたまったものではありません。ただ嫌な感情だけが記憶として残ってしまいます。
実際、わたしは何が原因で叱られたのかは覚えていないのです。ということは、やはり自分に非がないことばかりで、反省なんて微塵もしませんでした。
現代では、「○○ハラスメント」にならないように、と配慮することが多くなりましたが、配慮のあまり「叱る」という概念が揺れ続けているのではないかとさえ思えることがあります。そのためいろいろな支障も生じていると、あなたも周囲を見回して感じませんか?
2「叱る」ことの難しさ
「叱る」ということは、「こうあるべきである」という、一般的に正しい概念があって、そこから逸脱した行動を正す、ということです。
ですから例えば、児童が正しくない行動をしたとき、
「なぜ、君はそんなことをしたんだ!?」という言い方をする人も多いのではないかと思います。
しかし、「なぜ?」という言葉は、児童を追い詰めてしまいます。
不適切なことをした児童は、内心では「しまった」と少なからず思っています。
そこに対する「なぜ?」という問いかけは、自分の行動を自ら見直し、自己反省をせよと言っているに等しく、言い訳や言い分が入り込む余地はありません。
つまり、「なぜ?」は人格否定の言葉として受け止められてしまいます。そして、児童の心にいやな感情が生まれ、 自分の間違いを認めにくくなってしまいます。
そうではなく、
せんせい:「どうしたの?」
と聞くと、
児童:「○○○だからなのです」
と答えます。そこで、
せんせい:「そんなことがあったのか」
と、児童の人格ではなく、正しくない行為を改めようとしている姿勢を示します。
児童は、せんせいが自分自身を否定しているのではないと感じ、素直に反省するようになります。
ただ、児童の気持ちに共感して終わりではいけません。高学年の児童は、「優しいせんせい」は「甘いせんせい」ととらえ、「なんだこの人、簡単だ」と見透かされてしまいかねません。間違った行為をしっかり正し、見逃しなどはしないようにしましょう。
規律(最低限のルール)保持の姿勢が、児童の自律を促し、児童の集団の質を高めていきます。
3「叱る」側の心得
企業研修講師として活躍する岡本純子氏は、叱り方について多くの人々に示唆を与えており、その教えの中には学校教育にも活かせるものが多数含まれています。
① 黄金比率「ほめるとき6:叱るとき1」でいってみよう!
ほめることは大事ですが、ただほめているだけでは、指導になりません。児童のやる気も出てきません。普段はほめてくれるが、叱るときは叱る。そんな黄金比率を意識してみましょう。ほめるときは6回に対して、叱るときは1回。そのくらいがちょうどいいです。ほめることに困るようでしたら、当たり前にやっていることや当然の行動でも、ほめればいいのです。ほめる回数はぐんと増えます。
② やめて!「ほめる→叱る→ほめる」パターン
叱るのが好きな人はいません。そこで叱る前にまずほめて、雰囲気をマイルドにしよう…などと考えていませんか?
これは絶対に止めたほうがいいです。私も、そういう上司から指導を受けたことがあります。この上司がわたしのことをほめだすと、「うわあ来るぞ来るぞ!」と身構えたものです。そして、ほめ言葉は全然頭に入って来ません。ネガティブワードに引っ張られてしまい、ほめ言葉は無駄遣いになります。
ほめ言葉も叱られるべき内容も、相手には伝わらないわけです。
やはり、ほめるときはほめる。叱るときは叱る。と、場面を分けたほうがいいですね。
③ 嫌われるせんせいの叱り方、これだけはやめよう!
なぜか児童から信頼されない、嫌われるせんせいにみられる「教員が避けたい叱り方NGパターン」が5つにまとめられます。
ア だめ出し:児童の行動や生活など何に対しても否定ばかりする
イ 押しつけ:児童の話を聞かないで自分の意見ばかりを押しつける
ウ 決めつけ:かなり根拠が薄いのに思い込みで話す
エ 長い説教:長時間にわたって延々と今回叱るべきこととは違うことまで説教する
オ 感情にまかせて:感情的に怒りをぶつけて怒る
これらは時々やりがちですが、実は相手は防衛本能が働き、心を閉ざしてしまうため、建設的な方向にはいきません。学級の荒れもこのNGパターンから表出することもしばしばあります。この5つのNGパターン、絶対にやめていきたいです!
④ 正しい叱り方はこれだ!
叱り方の基本は、相手の心にしっかりと届くようにすること、「建設的なネガティブフィードバック」をすることです。
つまり、批判的な評価を伝え、改革を促し、解決策を自分で発見させるようにします。
具体的な流れは以下の通りです。
ア 叱るべき事実を伝える
イ なぜ、それがダメなのか理由を伝える
ウ それについて自分はどう思うか話してもらう
エ 解決策を考えてもらう
<具体的な例>
状況:小学2年生の太郎君。元気いっぱいでアクティブな児童です。授業中も活発に発言する熱心な姿がみられます。しかし、授業中に友だちと話したり、席を離れたりして、集中力が途切れてしまうことが時々あります。ある日、算数の授業中にまた席を離れて学習とは関係ないことをしている太郎君を見つけた担任のせんせいは叱ることにしました。
せんせい:太郎さん、ちょっとこっちに来てくれる?
(太郎、せんせいの前に立つ)
せんせい:太郎さん、授業中に席を離れているよね。そのことで、ちょっとお話ししたくてね。
太郎:えっ、何かした?
せんせい:算数の授業中に、友だちと話したり、席を離れたりしていたずらしていたよね。授業に集中できていないようだけど、どうしたの?
太郎:だって、つまらないんだもん。
せんせい:算数がつまらないと思う気持ちはわかるよ。でも、授業中はせんせいの話を聞くことが大切なんだ。友だちとしゃべっていると周りの人の迷惑にもなるし、あなたも勉強がわからなくなるよ。
太郎:そうだよね…。
せんせい:じゃあ、これからどうしたらいい? 何かいい方法はないかな?
太郎:静かに座って勉強すること…?
せんせい:そうだね。それとね、わからないことがあったら、せんせいに質問するようにしようよ。できるだけ、対応するからね。
太郎:はい、わかりました。
せんせい:じゃあ、今日のお話はこれで終わり。
<実際の教室では、児童の発達障がいの問題や教室でのルールの現況などで、さまざま条件は違っているとは思いますが、例としてお示ししました>
4「ほめ方」もスキルが必要です!
前述の岡本純子氏の考えを基盤に「ほめ方」についても見ていきたいです。
① 児童にとっての「最高のほめ方」とは?
多くの場合、「全体でほめる」と「個別で叱る」という指導が行われています。しかし、中には「全体でほめられると、あとで個別指導されるのでは」と不安を感じたり、「恥ずかしいからやめてほしい」と感じる児童も少なくありません。
そこで重要となるのが、児童一人一人に寄り添った、個別最適な「ほめ方」を見つけることです。
② 児童が喜ぶ「ほめ方」のヒント
ア 本人の希望に耳を傾ける
まず、子ども自身がどのようなほめ方を望んでいるのか、じっくりと話を聞いてみましょう。「どんな時にほめられたらうれしい?」「どんなほめ言葉が好き?」など、具体的な意見や考えていることを引き出すことが大切です。
イ 具体的な行動や努力をほめる
単に「すごいね!」「頑張ったね!」ではなく、「算数のテストで○○点を取って、クラスでトップクラスだったね!すごいね!」のように、具体的な行動や努力に対してほめ認めることで、達成感を味わい、さらなる意欲を高めることができます。
③ 個別での「かげほめ」を活用する
高学年女子の場合、人前でほめられることに抵抗を感じる子も多いようです。そこで効果的な指導が、「かげほめ」です。
これは、本人に直接ではなく、周りの友だちに「○○さん、今日の発表、すごくわかりやすかったよね!」と伝えます。
担任以外の教員にも伝えておき、「○○さん、□□せんせいから△△△△△ってほめられてたよ!」とさりげなく言ってもらいます。
すると、口コミ効果で本人に直接ほめるよりも深い印象を与え、モチベーションアップにつなげることができます。
④ 成長過程を認めて、励ましの言葉を添えていく
テストでいい点を取ったことだけでなく、以前より点数がアップしたなど、過去の自分との比較で成長を認めてほめるのも効果的です。「努力が実を結んだね。とてもうれしいよ!この調子でね!」という励ましの言葉とともに、自己肯定感を高めることができます。
⑤ ほめ言葉で子どもの心を伸ばす!「す・ぐ・き」の魔法
信頼されるベテラン教師が実践する、児童の心を伸ばす魔法の「ほめ方」を、「す・ぐ・き」の3つのポイントに秘訣を凝縮してみました。
【す】すぐに行動をほめる
児童の行動の直後に「すごい!」「さすが!」と声をかけることで、「自分は認められているんだ」という実感を与え、モチベーションアップに繋がります。
【ぐ】具体的にほめる
単に「いいよ」ではなく、「発表がわかりやすかったね。声も聞き取りやすくて、みんなが集中して聞いていたよ」のように、具体的な行動や成果をほめることで、児童の自信を高め、自己肯定感を育むことができます。
【き】気持ちを込めてほめる
「○○さん、ありがとう。おかげで助かったよ」のように、感謝の気持ちを伝えることで、児童の貢献を認め、協調性を育むことができます。
この「す・ぐ・き」のポイントを押さえた「ほめ方」は、自己存在感を感じさせる「ミカンほかん」の原則にも通じます。
「みとめる」: 存在や行動を認め、子どもの自己肯定感を高める
「共感」: 気持ちに寄り添い、安心感を与える
「ほめる」: 具体的な行動や成果を評価し、自信と意欲を高める
「感謝」: 貢献を認め、協調性を育む
これらの要素を意識したほめ言葉は、児童にとってかけがえのない宝物となるでしょう。
「す・ぐ・き」のポイントを意識したほめ言葉は、子どもの心をぐっと掴み、健やかな成長を後押しします。児童にとっての「最高のほめ方」は、一人一人の個性を尊重し、心の声に耳を傾けることから始まります。ここで紹介したヒントを参考に、児童の笑顔を引き出す「ほめ言葉」をたくさんかけていきましょう。
◇
上手に叱ることで、子どものやる気をぐっと伸ばし、教員と児童との信頼関係を築くことができます。一方、コミュニケーションを軽視することは、児童の成長を阻害する最大の要因となります。適切な距離感で常に児童とのコミュニケーションを図っていきたいです。児童の行動のモチベーションを高め、健やかな成長を促すためには、「ほめる」ことと「叱る」ことを適切なタイミングで行い、さらにそのベストマッチを考えることが重要です。
イラスト/イラストAC
【参考資料】
・世界最高の伝え方―人間関係のモヤモヤ、ストレスがいっきに消える!「伝説の家庭教師」が教える「7つの言い換え」の魔法/岡本純子/東洋経済新報社
・世界最高の話し方―1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた! 「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール/岡本純子/東洋経済新報社
・「叱らない」が子どもを苦しめる/藪下遊・髙坂康雅/筑摩書房
・お年頃の高学年に効く! こんな時とっさ!のうまい対応/松尾英明/明治図書出版
・高学年児童と「ぶつからない」「戦わない」指導法!/城ヶ崎滋雄/学陽書房
こんな問題を抱えているよ、こんな悩みがあるよ、と言う方のメッセージをお待ちしています!
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マスターヨーダの喫茶室は土曜日更新です。
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。