「日頃の見取り」 ができないと 「評定のための評価」 は難しい 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#46
評価は成績を付けるためだけではありません。日頃の子どもたちの理解状況を 「見取る」 ことも「評価」です。みなさんは授業を行う際には、成績のための評価、理解状況を見取る評価、それぞれ意識をしていらっしゃるでしょうか? 今回は改めて「評価」という視点で述べていきたいと思います。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.授業をするなら評価は必ずある
学校での授業である以上、授業には目標があり、その目標が達成されたかどうか、評価する必要があります。
目標のない授業は「場当たりで、はいまわる授業」になりやすく、評価のない授業は「子ども一人一人を見ずに、学級全体で単に授業を進めているだけ」「できない子どもを育てず、できている子を認めない授業」になりやすいといえるでしょう。
つまり、授業をする際には、「子どもたち一人一人にどのような力を育成するのか」という目標を明確にもち、学級全体をひとくくりにして学習状況を見るというよりも「子どもたち一人一人を見て育成する」という意識で関わりたいものです。
また、評価においても「学級として全体的にできているかどうか見る」というより、個々の子どもが成長をしているのか、そして、それぞれに、どのような課題があるのか見るという意識で関わりたいものです。
2.評定に繋がる評価
一般的に「評価」と聞くと「成績をつけるため」に行うことが想像されやすいのではないでしょうか。もちろん、ある程度学習を行ったときに、「資質・能力の三つの柱」に対応する形で「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3つの観点で評価します。
それぞれ評価の観点では、どのような場面でどのように評価するか、ある程度決まっています。
例えば、教科書会社のWEBサイトや教師用指導書などには、どの場面でどの観点を評価するとよいか、推奨する場面、観点、内容が書かれています。私たちは、そのような資料を参考にしながら、「評定に繋がる評価」を行うわけです。
そして、こうした資料には、「評価の記録をする場面」という項目があることにお気づきでしょうか(下図赤枠)。単元計画の一覧表をご覧になってみてください。「記録」とか「評価の記録」などといった欄に「◎」などの記載があれば、そこが「評定に繋がる評価」を行う場面になります。
3.指導に生かすために理解状況を 「見取る」 のも評価
この表組みの中には、「評価の記録をする場面」の欄に「◎」がついていないところもあります。
「ということは、評価をしなくてもいいということ?」
とも思われるかもしれませんね。実際はどうなのでしょう?
「◎」 のついていない授業は、評価の記録をしない授業。
つまり、評定に繋がる評価の記録をしない、という意味です。
しかし、「◎」 のついていない授業では、どんな見取りや記録も行わなくていいのか? というと、そうではありません。
「資質・能力の三つの柱」に対応する形で、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3つの観点での評価の記録はしません。
しかし、3つの観点の力を高める指導をしつつ、子どもたちが成長しているか見取ることや、3つの観点の力以外で大切だと思われる力を育成する指導を行い、子どもたちの定着状況や成長を見取ることも行います。
このように「評価の記録をしない授業」は、子どもたちの理解状況や定着状況を見取り、課題のある点に対して一斉または個別で指導を行う場面といえるでしょう。
このような評価を「形成的評価」や「アセスメント」と呼んだりします。
⑴ 共通点から「仲間分け」をして、モノを詳しく見ることができる
理科では、問題解決において物事を分類することも多いです。
例えば、豆電球の実験では、導線の間に様々なモノを挟んで、「豆電球が点く」という共通点、「点かない」という共通点で、モノの仲間分けをします。
また、リトマス紙では、「青が赤に変わった水溶液」、「赤が青に変わった水溶液」、「両方とも変わらなかった水溶液」などで仲間分けをします。
このように比較することで、共通点から「仲間分け」ができ、さらにその仲間分けから、例えば「豆電球が点くモノは、何でできているのだろう?」と共通点を考えるなど、モノを詳しく見ることができるメリットがあります。
【注意】教科書会社のWEBサイトや教師用指導書に書かれている「評価の記録をする場面」はあくまでも「推奨」であり、全体のバランスを考えたときに「ここで記録したらどうですか?」と、1つのモデルを示しているものです。実際は授業者の先生方皆さんが、子どもたちの実態に合わせて3観点の記録の場面、記録しない場面を考えます。
4.「日頃の見取り」 ができないと 「評定のための評価」 は難しい
ここで述べる 「見取り」 は、子どもたち個々の理解状況や課題を的確にとらえることを意味します。つまり、理科の内容に関わらず、教育一般のことや生徒指導的なことも含まれます。
しかし、今回は理科の記事ですので、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という評価の3つの観点について、第6学年の「物の燃え方と空気」の授業で見取る例を挙げてみます。
【学習場面】
第6学年「物の燃え方と空気」の単元で、「物が燃え続けるには」を考える場面とします。この場合、評価の観点の例として以下のようにしたとしましょう。
「知識・技能」は、学習後に理解しているか、ノートやテストで確認することで見取ることができます。学習直後は理解していたが、しばらくしたら忘れていないか、といった時間による変容や、定着度の見取りもできます。
「思考・判断・表現」の欄の2つの内容については、【問題を見いだす】【より妥当な考え】の観点で以下に示します。
【問題を見いだす】自分自身で書いた問題の表現が、妥当な問題になっているかどうか、個人のノート記録で見取ることができます。また、問題を考えている最中で、手が止まっているかどうかや、事象との出合いがあまり理解できていない、書き方が分かっていない、といったことも、子どもに直接ヒアリングすることで見取ることができます。
【より妥当な考え】より妥当な考えをつくりだすことができたかどうかは、考察がどのように書けているかによって見取ることができます。
今回であれば、例えば「集気びんの上だけ、下だけ、上下両方に空気の通る穴を宙けてろうそくの火が燃え続けるかかどうか調べた結果、上側が空いていれば、ろうそくは燃え続けた。また、線香の煙をびんに近づけたところ、上側に穴を空けたびんでは煙が出たり入ったりし、下だけ空けたびんだと煙の動きがなかったことから、上側を空けると空気の入れ替えがあることがわかった」と書ければ完璧で、そこにどこまで近づいているかになります。
「主体的に学習に取り組む態度」は、授業の様々な場面で関心・意欲が持続しているかどうかで見取ります。例えば、問題を見いだす場面で積極的に問題を考えたり、発表したりしていたか。計画を自分の力で考えたか、観察を精緻に見ようとしていたか、等、複数の場面で関心・意欲の継続を確認することになります。
◇
このように見てみると、評定のための評価をする上で、「日頃の見取り」ができないと評定のための評価の記録も難しいように思えます。
今回述べたことは、子どもたち個々の学習状況の見取りをしっかりすること、そのためには、子どもたちのどのような姿を見取るのか、子どもたちの状況がどのレベルまでできたらいいのか、などの判断基準をもつことが重要だということです。
授業の指導法に意識が行きやすいのですが、評価という視点で日ごろの授業を見直してみてください。
イラスト/難波孝
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。