【相談募集中】管理職でもない私が特別支援学級の環境を改善するにはどうすれば?
重度の知的障害児がいる特別支援学級を受け持つ40代の女性教諭から「みん教相談室」に相談が寄せられました。人材不足や物理的環境の改善を管理職に求めても、状況があまり変わらないそうです。この悩みに回答をしたのは、特別支援学級を担当している東京都公立小学校教諭・渥美卓哉先生。具体的な手立てを挙げてアドバイスをしたその内容をシェアします。
目次
Q.管理職でもない自分が、人材と物理的環境をよくするにはどうすれば?
経験年数は10年以上になりますが、特別支援学級(知的)担任としては3年目になります。私が立ち上げから受け持っているクラスです。何もないわからないところから1人で環境を整えてきました。学校が買ってくれるものは少なく、自腹で教材を買ったり作ったりしています。
ダウン症児は3人いて、手帳A1レベルの児童が3人です。言葉の習得が進まず、国語と算数で1、2時間学習するのがやっとですが、ご家庭は支援学校は希望されないとのこと。支援員は1人いましたが昨年産休に入ってしまい、そんな6人を1人でみています。
情緒学級もあり、支援員がおりますが、こちらに支援に来ていただけるのは給食時と1、2時間程度です。4月から転入生が増え、情緒の支援員も辞めて減るので、環境がかなり厳しくなっています。仕事は確実に辛く苦しいのですが、それでも身近な家族が知的障害をもっていることもあって、異動年に達するまでは私が子どもたちに尽くしたい気持ちがあります。
私のような状況の学校は他でもあるのでしょうか? 管理職に環境改善を頼んでも、毎年人が変わってあまり状況は変わりません。人数が少ないから通常学級より問題を軽くみられているように感じます。管理職ではない私がどうやったら、人材と物理的環境をよくすることができるのでしょうか?
(まっちん先生・40代女性・特別支援学級担当)
A.管理職へ理解を促すことが大切ですが、先生ご自身もできることがあります
特別支援学級の立ち上げから、一人での運営ということで、大変なご苦労があったことと思います。これまでのご尽力に頭が下がる思いです。これはまっちん先生の熱意があったからこそ実現できたのだろうと強く感じました。
まずは、まっちん先生の学級の状況ですが、特別支援学級としては学級運営が難しい状況にあると感じます。ダウン症の子どもたちと、A1という最重度の知的障害がある子どもたちで6人というのは、担任1人で適切な教育をしていくことはかなり難しいと感じます。ある地方自治体では、担任の加配があり、1学級2担任となるところもあります。
それを踏まえると、学級経営の難しさを管理職に理解してもらうこと、これを継続して行うことが大切であると思います。立ち上がったばかりの学級でもあるので、現状の理解を求めていくことは、まっちん先生が異動した後の状況改善にもつながっていくと思います。
人材不足をどう改善していくか
学級の子どもたちの障害の状態を考慮すると、安全管理の上でもすぐに介助員や支援員をつけることがよいと感じます。以前、給食の時間に支援員の方が来てくださっていたということは、それなりの理由があるのだと思います。
そこで、一つ提案となるのが、制度を利用することです。特別な配慮を要する児童がいる場合は、個別に支援員を申請できる「特別支援教育支援員」というものがあります。文科省の「特別支援教育支援員を活用するために」(2007年6月)という手引きでは、「食事、排泄、教室移動の補助といった学校生活における日常生活の介助」を支援する目的とされています。
支援が必要な状況を担任と保護者の間で確認し、保護者からの要望として管理職に伝え、動いてもらうことも一つの手段であると思います。給食の時間も担任一人になってしまうという状況を考慮すると、安全管理上の観点からも人を配置してもらうことは早急に行うことをおすすめします。また、保護者からの要望として公的な手続きになれば、管理職が変わっても進めることができると思います。
また、まっちん先生の勤める市区町村の介助員や支援員の制度において、募集に対して人材が集まらないという現実もあると思います。私の学級でも介助員が足りない状態で、私の知り合いを通じて人を探しています。特別支援教育に関心を持っている方は意外にも多くいて、募集を知らずにいる人もいます。様々なところからアプローチを試してみるのもいいかもしれません。
物理的環境をよくしていくためには
まっちん先生の相談では、自腹で教材を購入しているということで、「物理的環境をよくする」という言葉は、教材教具の充実であると思います。教材教具が充実することで、子どもたちの学習の質が上がります。予算の拡充により、物理的環境を良くしていくことが理想です。ですが、まっちん先生の現状は厳しいようです。そこで以下の手立てが考えられます。
管理職に現場を見てもらい理解を促す
予算を獲得しやすくするためには、やはり管理職に現場の状況を知ってもらうことが一番必要です。そのために、管理職による授業観察の機会を活用してみるのはどうでしょうか。子どもたちの様子から、教材教具が必要となるポイントを明確に示す。そして、授業後にアドバイスをもらう時に教材教具の重要性を確認する。このような地道な取組で現場を知ってもらうことが、遠いようで一番の近道だと思います。
学校全体の予算を考慮して教材教具を購入する
これは校長判断にもよりますが、通常級の各教科の担当者に、共通して使える教材を購入してもらうことも一つの手だと思います。例えば、算数の百玉そろばんは通常級の1年生でも使えるものですし、学校内で共有して使えるものだと思います。
予算を掛けずに教材を作成する
特別支援教育の教材は子どもたちの学習状況に合わせるため、購入品を実際に使ってみるとうまく活用できない時があります。私も自身のお金で教材を購入することはありますが、ほとんどは、学校にある消耗品や自宅で不必要になったものを活用しています。子どもたちの学習に合わせようとすると、教材を自分で作成することも必要になってくるのではないかと思います。
まっちん先生の子どもたちに合った教材を吟味する
まっちん先生の学級は、子どもたちの障害の状態を考慮すると、おそらく教育課程は特別支援学校の学習指導要領を参考にしていると思います。そうすると、子どもたちの学習は生活に根差した学習に重点を置くことができます。相談の中に、言語の習得が進まず、国語や算数の集中がもたないとありました。
また、6時間という授業時間の過ごし方についての不安もみられました。実際にどのような学習内容を行っているかはわかりませんが、まっちん先生の学級では、教科の学習を自立活動とともに行い「自立した生活をしていくこと」を中心に据えて学習を進めていいのではないかと思います。その際には、「特別支援学校学習指導要領 自立活動編」にある「自立活動の区分と内容」を参考にして教材教具を作成するのがいいと思います。
では、どんな教材教具をつくっていくことができるのでしょうか。
①普段使っているものを教具にする
朝の準備で上着を畳むのであれば、子ども自身の服が教具になりますし、体育着や白衣なども教具になります。食事の仕方の学習であれば、コンビニでもらった割りばしやスプーン・フォークも教具となります。ブロックなどのおもちゃで遊んだ時に、片付けをするのも自立した生活に向けた活動になりますので、ブロックや片づける箱も教具になります。このように、普段の生活の中にあるものも教材教具として捉えるのもよいかもしれません。
②インターネットの教材教具ライブラリーを活用する
特別支援教育に携わる先生方は、子どもたちに合わせた教材を常に作り続けています。でも、それを知る機会は少ないです。そこで、教材教具や指導法のアイデアを共有しようという取組があります。そちらを参考に教材教具をつくっていくこともいいと思います。
例えば、埼玉県立総合教育センターの「特別支援教育自作教材教具ライブラリー」では、毎年、先生方から応募された教材教具を写真付きで詳しく紹介しています。このアイデアを参考に自分なりに工夫してつくることで、教材教具を増やしていくことができます。
その他にも、「特別支援教育わくわく教材」というwebサイトでは、プリント教材やビジョントレーニングを取り扱っています。他にも様々なwebサイトがありますので調べてみてください。
③子どもと一緒に教材をつくる
人手が足りないのであれば、教材教具作りを学習活動にいれてしまうのはどうでしょうか。例えば、言葉の学習と作業の学習を一緒にしてみるというのも一つの手だと思います。
まず、果物の絵をラミネートしておきます。教室で、「○○さん、りんごの絵を取ってください。」と、子どもに取らせます。次に、それをはさみでりんごの縁に沿って丁寧に切らせます。これにより、作業に必要な動作の活動と言葉の学習をすることができます。その後、切ったものを「りんご」と書かれたかごに入れることで文字の一致も学習できます。
このように、子どもたちの活動の中に、名詞の絵カードをつくることを設定してしまうというのも工夫の一つとして考えられます。(さらに、もう一枚、りんごの絵をいくつかに切り分ければ、絵合わせのパズルにもなります。)
最後になりますが、まっちん先生の特別支援学級は立ち上がったばかりです。一人で頑張らず、まっちん先生自身が支援をもらうことも大切です。そこで、「特別支援学校のセンター機能」を利用することをおすすめします。特別支援学校はその高い専門性を生かして地域の小・中学校役割を積極的に支援していくことが求められています。まっちん先生も、特別支援学校に様々な相談をすることで、地域の実情に合ったアドバイスがもらえるでしょう。ぜひ、活用してみてください。まっちん先生の熱意は必ず学級の状況をより良くしていけると思います。応援しています。
【参考文献・サイト】
・文部科学省「『特別支援教育支援員』を活用するために」2007年6月
・文部科学省「特別支援学校学習指導要領・学習指導要領解説 自立活動編」2018年3月
・埼玉県立総合教育センター「特別支援教育自作教材教具ライブラリー」
・ミンハイ(2024)「特別支援教育わくわく教材」
・文部科学省「特別支援教育のセンター的機能の具体例」2009年9月
みん教相談室では、現場をよく知る教育技術協力者の先生や、各部門の専門家の方が、教育現場で日々奮闘する相談者様のお悩みに答えてくれています。ぜひ、お気軽にご相談ください。