「個別学習」と「個別最適な学び」の違いから小学校理科の「学習の個性化」を考える 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#43

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

個別最適な学び、協働的な学びが最近言われるようになりました。GIGA端末が普及することによって、これまでよりも「子どもに委ねる授業」ができるようになったことから、より個々人に対応した「個別最適な学び」ができるように教師側も指導方法を工夫しようということです。個別最適な学びには、つまずいた子どもに対して個別に対応する「指導の個別化」と、子どもの理解状況に合わせて目標や解決を子どもに委ねる「学習の個性化」があります。今回は小学校における「個別学習」と「個別最適な学び」の違いから、子ども一人一人の解決方法が異なる「学習の個性化」について考えたいと思います。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.これまでの授業と「個別最適な学び」の授業

これまでの授業は、一斉授業で「同じ実験を同じ順番でみんな一緒に」行っていました。しかし、「個別最適な学び」は、複線型で子ども一人一人の問題解決を行うことになっていきます。
下の図の左側の事例では、ふりこの授業の実験1から実験3まで、自分の予想とは関係なく、すべての実験をみんな一緒に行っています。
また、右側の事例のように、予想はそれぞれで考えますが、あとは一斉に行っています。

資料1

これに対し、個別最適な学びでは、子どもにどれだけ委ね、自分自身で考えさせるか、理科で言えば、自分自身でどれだけ問題解決ができているかにかかっていると思います。個別最適な学びの授業では、予想から考察まで学級の中でも個人の考えがバラバラだということを活かし、それぞれの考えに応じて解決をしていきます。
下の事例では、学級問題が同じでも、個々人によって予想や実験方法が異なり、それに伴って考察までが異なってきています。学級としては、それぞれの結果を持ち寄って、全体のまとめをすることになります。

資料2

2.理科における「学習の個性化」をどのレベルで考える?

個別最適な学びで、「学習の個性化」をするときには、どのくらいまで子どもに学習を委ねればいいのでしょうか? 小学校理科については、私は2つのレベルがあると考えています。

資料3

1つめは、理科の学び方に対する学習の個性化です。
どの単元かは関係なく、自分自身の成長を目的にして理科の学習に取り組むというものです。
2つめは、問題解決の方法や学習内容を習得することを目的にして学習に取り組む、というものです。
小学校では、どちらかと言うと後者に重点が置かれるのではないかと思います。

3.「個別学習」と「個別最適な学び」とは?

「個別最適な学び」は、「子どもに何をどれだけ委ねるか」だと思いますが、現時点で実践が紹介されているものは、「個別学習」と「個別最適な学び」の大きな2つの流れに分かれていると思います。
1つめは、子ども自身が「最適な学習」の判断ができる、という立場。これは「個別学習」です。
2つめは、子どもだけでは「最適な学習」の判断ができないため、教師が介入することが前提となっていいる立場。これは、「個別最適な学び」です。

どちらの立場に立つかで、授業の方法は全く異なります。ただ、世の実践例の中には、実際は個別学習であるものを「個別最適な学び」と称して、すべてを子どもに委ねる「這いまわる授業」になりかねない危険な授業方法を提唱しているものも見られます。 学校の授業である以上、教師の指導(教えるべきことを教える)や子どもたちとの協働学習が必要なのにもかかわらず、学校での「個別学習」を推奨しているわけです。

資料4

「個別学習」は、子ども自身が「最適な学習」の判断ができるという立場であり、理科でいえば、①学習の「目的」「方法」「(観察・実験などの)実施」など問題解決の判断を完全に学習者に委ねていることを指すと考えられます。
また、②「目的、目標」又は「やること」を教師が与え、以降は学習者が判断するといった、教師が方向性を指示して子どもは指示に従って学習を個別に行っている指導スタイルも「個別学習」といえるでしょう。

最近のGIGA端末の実践事例では、「個別最適な学び」と称して、(本来、教師の指導が必要にもかかわらず)教師がほとんど介入しない個別学習の環境づくりに力を入れているものもあるので、留意が必要です。

ここで1つの事例として、学級の子ども全員の考えをタブレットに共有し、どの答えがいいのか、どの情報が適切なのかを考え、自分の考えを整理させる場合について考えてみましょう。
「個別学習」は、「子ども自身が適切に判断できる」という立場であるため、教師は「(実際には他者の意見を適切に判断することは難しいのに)他者の意見を見せたら、子どもは勝手に理解する、情報を共有さえすれば、あとは子ども自身が最適な学びを判断するだろう」と考えます。
すると、教師が教えるべきことを教えない、間違えやすい留意点や間違った意見など、確認すべきことを確認しない、ということが容易に起こり得ます。
そうなると、子どもたち一人一人が考えることが分散化したり、理解に差が生じてしまったりして、学級内で大きな学力差が生まれるわけです。

一方の「個別最適な学び」は、子どもだけでは「最適な学習」の判断ができないため、教師が介入する前提に立つ立場であり、教師が子どもに委ねられる範囲(最適な学び)を判断することが必要だと考えられます。
教師から子どもたちへの委ね方も、
①「(子どもの主体性を重視して)やる気にさせ、最適な学習方法自体を気づかせる」
②「最適な学習方法になるように(方法を指示されていると感じないように)誘導する」
③「(方法をしっかり教えることを重視して)最適な学習方法を指示する」
など、場面に応じて幅のある対応をする必要があると思われます。

イラスト 子供たちの実験の様子

イラスト/難波孝

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寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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