教師の多忙感を撃退する「やらない勇気」とその方法
もし今あなたが、「やらなきゃならないことでいっぱい」「とにかく辛い!」と思っているとしたら、ふと立ち止まって考えてみてください。
それは、本当にあなたがやらなくてはならないことですか?
子どものためになっていますか?
子どもの前で笑顔でいるために、「やらない」勇気を持つことも時には必要です。この記事では、「やらない」を決めるためのヒントと、その代案例を紹介したいと思います。
執筆/ 神奈川県立総合教育センター指導主事・鈴木夏來
目次
仕事は膨大、時間は有限。だから「やらない勇気」
恥ずかしい話です。採用3年目の頃の私は、
「睡眠時間を削り、土日も残業するなど、頑張ってつい無理をする」
↓
「疲れがたまったのか、風邪等で体調を崩す」
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「数日間学校を休んで、子どもや保護者、先生方にも迷惑をかける」
↓
「遅れを取り戻そうと、また頑張る」
・・・という悪循環を繰り返してきました。
以下は、そんな反省から生まれた仕事術です。やらねばならないと思っていたことが実は、やらなくて済んだり、それほど力を入れる必要がなかったり、やらないほうが結果として子どもが伸びたりすることが、多々あります。そんな「やらない」仕事術を紹介します。
紹介するのは私。決断するのは、あなた自身です。
「学級通信」をやらない勇気
学級通信を趣味で書いている場合、心身の健康にもつながるので継続する価値があります。しかし、学級通信を書くために多くの時間を割き、またそのことが苦痛になっている場合、改善する必要がありそうです。
「やらない」ための代案例
・週案部分と通信部分を分けて発行します。いわゆる「学級通信」は、左半分に学級通信のタイトルや小ネタ、右半分に来週の予定が載っていますが、この右面・左面を分けて出します。
・週案部分は原則として毎週発行。その際、給食当番とマスク用意の依頼、図工等で必要な持ち物の依頼等の連絡事項を書きます。
・一方で、クラスの様子や担任の考えなど、通信部分は不定期発行にします。疲れていてやる気が出ないとき、書くネタがないときに悩まずに済みます。
・通信には、写真や個人名を入れないようにします。それは、写真の掲載許可や個人情報云々でトラブルになるのを避けるためです。個人情報が入ると、持ち出し手続きが面倒になり、時間を浪費してしまう恐れがあります。
・子どもの作文や図工作品を通信に載せないようにします。誤変換へのクレーム、誤字脱字をそのまま載せたことへのクレーム等、良かれと思ってやったことが逆にトラブルの種になることもあります。また、掲載作品に偏りがあると、「○○さんの子ばっかり!」と保護者から不満の声が出ることもあります。載せる手間、火消しの労力、いずれも時間泥棒となるでしょう。
「放課後の教室掃除」をやらない勇気
子どもを帰した放課後、教室のゴミを掃いたり、落ちている雑巾や上履き袋を元に戻したりしていませんか? 良かれと思ってやっている掃除なのかもしれませんが、それらは係や当番がおざなりで、クラスの決まりやシステムが不安定な証拠。再考し、時間を生み出しましょう。
「やらない」ための代案例
・本棚、雑巾、フック、ロッカー等の乱れは、担任は絶対に直さないようにします。それぞれ当番や係に指導し、責任を持って仕事をさせることが大切です。棚や引き出しは個人に片付けさせます。
・帰りの支度時に棚や引き出しの中、身の回りのチェックを行い、合格の子やグループから教室後方に並ばせ下校させます。これを定期的に行うことで、「片付けなければ帰れない」という意識が子どもたちに芽生えてくるでしょう。
「日記や作文の返事」をやらない勇気
宿題の日記や作文について、一人ひとりに返事をしたり、文章添削をしたりすると、一日30分は簡単に使ってしまうでしょう。日記により、子どもの様子を把握したり、作文力の向上を図ったりすることを目的とするならば、次のような方法が効果的です。5分でできます。
「やらない」ための代案例
・「見ました」や「検」のハンコのみにします。
・B、A、AA、AAAといった評価のみとする。その規準は別途明示します。
「2行以上の連絡帳の返事」をやらない勇気
欠席や遅刻の連絡への返事、保護者からの質問・クレーム等に対する回答、いずれも2行以上になるようならば、再考の余地があります。
「やらない」ための代案例
・欠席連絡の場合、「承知しました。お大事にしてくださいね。」等、簡単な文章で済ませます。代わりに、電話をかけて直接様子を聞くのもよいでしょう。
・保護者からのクレームが連絡帳に書いてあった場合、絶対に連絡帳で反論したり、言い訳したりしないことが得策です。文章は後に残るので危険です。「後ほど、ご連絡します」程度に済ませ、電話や家庭訪問等で対応するようにしましょう。
「宿題の丸付け、提出率チェック」をやらない勇気
宿題は出せば出すほど、自分への宿題となって返ってくるものです。丁寧に丸付けや提出率のチェックをしていると、時間がいくらあっても足りません。ここは、改善の余地がありそうです。
「やらない」ための代案例
・宿題が計算プリントの場合、丸付けは、保護者にお願いします。保護者に丸付けをしてもらうために、事前に計算プリントの解答一覧を別途配付しておきます。担任は翌日「検」、「見ました」のハンコを押す作業のみ。学年でそのことを統一すれば、保護者も理解し、クレームをしてこないでしょう。
・宿題が漢字練習の場合、全ての漢字をチェックすると、全員分を確認するのに時間がかかってしまいます。時間を有効に使うために、一番下に書かれた漢字のみを見ます。下部に小さな○や「検」の印のみ付けます(誤丸予防線の丸)。大きな丸や花丸は絶対に付けないようにします。誤りを見逃しているのに丸をすれば、「先生は間違っているのに丸をしている」と保護者に不信感を持たれてしまう恐れがあります。
・提出率チェックは、週1や月1で。チェックそのものも、チェック当番にやらせます。
「校内研究・指導案」をやらない勇気
校内研究は、個人研究を披露する場ではありません。教師個人がどれだけ勉強しようが、思いや主義主張があろうが、そこで戦っていては時間の無駄。ストレスもたまりますし、子どもにも悪影響が出ます。ここは潔く素直に、上の指示にしたがいましょう。浮いた時間を自分の好きな教材研究等に使いましょう。
「やらない」ための代案例
・提案授業は、まずは言われた通りにやってみます。自分が良いと思っている授業と、他人が良いと思う授業はそもそも違います。そこに気づくのも勉強です。
・指導案は、学校研究のテーマやねらいに沿って、簡潔に書くようにします。
・指導案の単元観や指導観は、書き直される可能性が高いです。したがって研究の大きな方向性が決まるまで、多くを書かないようにしましょう。
・指導案には、自分の主義主張を入れないようにします。
・指導案は、細かく書く前に、管理職や研究推進委員長に随時見せて確認してもらいましょう。
「経験者研修の報告書・指導案」をやらない勇気
経験者研修も、個人研究を熱く披露する場ではありません。報告書や添付指導案は、「書類」としての価値が強く、内容よりも誤字脱字や体裁等に重きが置かれるケースがあります。
「やらない」ための代案例
・個人の力だけでなんとかしようとしないことが重要。経験者研修を直近で行った、先輩の報告書や指導案を参考にするのがいちばんです。
・不平不満等はあっても書かないようにします。怒られ、直され、二度手間となるだけです。
・誤字脱字やワープロソフトの校閲機能等を活用してチェックします。日時・曜日のチェックは入念に行いましょう。
・必要以上に多く書かないのもポイントです。多く書けば、当然チェックが多くなり、修正箇所も多くなります。
いかがでしたか?
日常的に若手教師を指導する立場にあり、現代の先生の苦しい実情を知っている先生だからこそのアドバイスです。
ご自身の状況に合わせて、勇気を持てるところから、取り入れてみるのも良いかもしれません。
イラスト/宇和島太郎
『小一教育技術』2016年1月号より