小学校理科で「個人の問題」を「学級の問題」へ集約するには 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#42
「子ども自身が問題を見いだせたどうか」は、主に3年生の「思考・判断・表現」の評価の観点です。教科書に書かれてある「問題(~は、~なのだろうか)」のようなことを、子ども自身が書けるようになることが求められています。しかし、導入の授業場面で子どもたちに問題を書かせた場合、「子どもたちの観点が多様すぎて、学級の問題を設定するときにとても困る」という指導者からの声をよく聞きます。そこで今回は、「個人の問題」を「学級の問題」へ集約するにはどうすればよいのかについて考えていきます。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.「個人の問題」と「学級の問題」
⑴「個人の問題」は、評価することを前提に
「個人の問題」は、主に3年生の「思考・判断・表現」の評価の観点です。したがって、子ども自身が問題を「書けるかどうか」を確認する必要があります。子ども自身が問題を「書けるかどうか」を確認し、評価するならば、問題を書く時間を十分に設定する必要があります。
昔の教師主導の導入の授業や「問題を見いだせるかどうか」を評価しない導入の授業であれば、教科書の問題を一斉に読んだり、先生が問題を板書して「ではこの問題を読みましょう」と言ったりして、最初から学級の問題を設定していましたが、それでは子ども自身が問題を「書けるかどうか」を確認することができないわけです。
このように考えると、「個人の問題」と「学級の問題」を考える時間を分け、学級の問題を設定する前に個人の問題を書くようにします。
⑵評価の必要がない「学級の問題」は先生が積極的にコーディネートしよう
学級の問題は評価の観点ではないため、子どもたちだけで設定させる必要はありません。そのため、先生が積極的に関与して学級の問題づくりをしてよい、と私は考えています。
子どもたちそれぞれが考えた問題が多様であればあるほど、子どもの力だけで学級の問題を設定することはできなくなってきますし、そもそも理科の授業としては、学級の問題づくりで子どもに考えさせることはメインではありません。他にも考えさせたいところはたくさんあり、ここにこだわって時間をかけたくないのです。
先生は、子どもたちの考えた問題を発表させ、何がポイントか、どのように整理したらまとまるか積極的にコーディネートをしてほしいです。つまり、学級の問題づくりにおいては「子どもに任せる」ことを重視する必要はないと思います。
2.学級の問題をつくる際の授業事例
学級の問題づくりは、学習内容や子どもたちの実態によって、様々な方法が想定されます。どれがいいとかというよりは、様々な方法を知っておき、適した方法を使うことがよいと考えます。以下、いくつかの学級の問題づくりの方法の例をご紹介します。
⑴ 子どもに「どういう問題にしたらいい?」と問い、学級の問題を一緒につくる
学級の問題をどのように設定するか(書けばよいか)を子どもたちに聞いてみる方法です。手順としてはまず、各自が書いた個人の問題を、学級全体で確認します。可能な限り当てて発表させてもよいですし、端末を使ってどのような問題が学級で書かれているかを一覧で共有しながら、さらに何人かを当てて、その問題を書いた理由を聞く方法でもよいでしょう。
また、子どもたちの書いた問題からキーワードになる言葉を見出し、それを板書して次第に問題にしていく方法もありますし、何人かの問題の共通性から学級の問題にしていく方法もあるでしょう。
⑵ 想定している「学級の問題」に近いことを書いている児童を中心に発表させ、教師主導でまとめる
机間指導をしながら、子どもが書いている問題を確認し、先生が想定している学級の問題に近いことを書いている子どもを意図的に当て、学級全体の方向を導く方法です。昔の授業で一部の子どもを当てて学級の問題をづくりをすることと同じ方法です。理科の授業として学級の問題づくりがメインではありませんので、無駄に時間をかけないように効率よく学級の問題設定を進めるためには、こういった方法も考慮してよいと思います。
⑶ 個人の問題自体が広がらないようにする(個人の問題がほぼ学級の問題と同じになるような授業の工夫をする)
先程の2つの事例は、子どもの問題に多様性があるため、学級の問題づくりの場面で教師がしっかりとコーディネートする、という方法でした。
本例は、そもそも幅広い問題が出ない(みんなが同じような問題になるようにする場合もあり)ようにあらかじめ指導する方法です。
つまり、「個人の問題」を「学級の問題」へ集約するところに力を入れるというよりは、「個人の問題」をつくる前の導入場面の指導に力を入れることになります。つまり、個人の問題を見出す前に、調べる対象や観点を絞ることで、問題が分散化しないようにするわけです。
ただ「個人の問題を見いだす」という視点を大切にするならば、この方法をやりすぎると「教師誘導型の授業」になりかねないので注意が必要です。
⑷ 個人の問題をそのまま生かす(学級の問題は設定しない)
そもそも、学級の問題を設定しないという方法です。ものづくりなど、授業によっては最初から子どもに委ねる場合には、このやり方もよいですね。
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。