小学校理科で「比較」することの意味を考える 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#39
みなさんは、理科の授業において「比較」をどのくらい行っていますか? 実は理科の問題解決においては、様々な場面で「比較」する活動を行っています。子ども主体で考えるならば、子どもにどれだけ「比較」させるかということは、とても重要な視点なのです。今回は、小学校理科でそのような場面で具体的に「比較」を使い、「比較」することの意味を考えてみましょう。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.理科で「比較」が大切と言われるけど、どんな時に使うのか?
理科では「比較」を様々な場面で使っています。どのような場所で比較しているか問題解決の過程に沿って確認してみましょう。
このように一覧で見てみると、いろいろなところで比較をしていることがわかります。理科は「比較」なしにはやっていけない教科と言えるでしょう。
また、このようにつぶさに見てみると、問題を見いだすときと、自分の考えの妥当性を判断するために様々な場面で友達の考えと自分の考えを比べるとき、というのが、比較の主な使い方と言えるでしょう。
2.「比較さえすれば問題が出る」のは間違い
以前は「比較できたかどうか」が評価の観点であったため、子ども一人一人が問題を見いだせなくても、比較して違いが見いだせたらよかったわけです。つまり、比較させること自体が目的だったわけです。そのため今でも問題を見いだす際に、「比較させればよい」と考えがちです。問題を見いだす場面での授業研究で、「どのように比較させればよいか」だけ考えて安心している授業が見られます。しかし現在は、しっかりと、子ども自身が自分の力で「(比較を通して)問題を見いだして表現している」ところまで育成したいです。
ただ単に「比較さえすれば問題が見いだせるか?」と言えば、そうではありません。「問題を見いだす力」を育成したり、評価したりするようになった現在では、目的(比較を通して問題を見いだす)と手段(比較する)を間違えないようにしたいものです。
今回、3年の「どんなものが、じしゃくにつくのだろうか」という問題に導く導入場面で考えてみましょう。ここでは、「注目」と「着目」を以下のように使い分けていますのでご注意ください。
「注目」(視線をそそぐこと:ある事象に気にならなかった、見ていなかったものを「見るようになる」)
「着目」(関心を寄せること:注目した自然事象から疑問や問題を見いだす際に、面白いとか不思議など「心が動く」、どうしてこうなっているのか、どういう関係なのかなど「考えたりする」)
磁石で何が付くのか、身近なものを試してみると「磁石に付くもの」「磁石に付かないもの」を比較することになります。しかしながら、それだけでは「どのようなものがじしゃくに付くのだろうか」まで導くことができません。
磁石に付く、磁石に付かないという2つの事象から、先生があらためて「どうしてこんな違いが出たのかな」という、「磁石に付く共通点は何か?」に着目させるための教師のフレーズが必要になるわけです。
このように考えると、ここでの「比較」の意味は、「磁石に付くもの、磁石に付かないものがあることに注目する」ことまでになります。
これは「比較さえすれば問題が見いだせる」と漠然に考えていると、導入がうまくいかないという好例です。つまり、「比較すること」自体が大切なのではなく、本来は比較を通して、子どもが「注目すること」が大切なのです。また、「どうしてこんな違いが出たのかな」のように、さらに問題に繋がる「着目させるための先生の言葉」が必要になることも忘れてはなりません。
授業づくりをする上で、比較を通して何に注目させたいのか?注目させる方法として、何と何を比較するといいのか? を考えることが必要ですし、比較させた後の問題に繋がる着目させたことは何か?も一緒に考えましょう。
ちなみに、この「着目」させる対象は、見方が含まれていることが多いと思います。「理科の見方」と導入を絡めてぜひ考えてみてください。
イラスト/難波孝
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。