小学校理科における「個別最適な学び」「協働的な学び」【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#37

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

「令和の日本型学校教育」というキーワードから調べると「個別最適な学び」という言葉が出てきます。よく見ると、「個別最適な学び」「協働的な学び」がセットで述べられることが多いですが、特に一人一台端末が出たころから言われるようになりました。端末が使えることにより、新しい指導法、学び方があるのではないかということです。本来、教育によって「自立した学習者」を目指していますが、実際に小学生にどれだけのことができるでしょうか。今回は、小学校理科における「個別最適な学び」「協働的な学び」について考えてみたいと思います。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.「個別最適な学び」と「協働的な学び」

⑴ 個別最適な学びとは

個別最適な学びは、きっかけとしては、一人一台端末が普及し、

インターネットから自分で調べたいときに検索ができる
デジタル問題集を解くことで、自分の理解度や進捗、苦手な部分が可視化される
子どもの理解状況やつまずきを教師がすぐに発見できるため、以前より早く対応でき、子どもが停滞する時間が減る

など、子ども自身で自学自習がやりやすくなったことがきっかけとなったといえます。

ただ、個別最適な学びは、一人一台端末がないとできないかというとそういうわけではなく、端末を使わずとも子ども自身の理解や判断に委ね、「子ども主体の学習をこれまで以上に進めよう」、「子ども自身が『探究型の学び』を行おう」という考え方といえるため、教育の様々な場面で当てはめることができます。

しかし、子どもに判断を委ねるということですから、子どもたちは判断するための材料(ある程度の知識)をもっており、さらに自分自身で解決をするための技能・スキルをもっている必要があります。
さらに、常に自分の理解度や目標を見つめなおし、次に何をすべきか計画できる力(メタ認知)がなければ、自分自身で解決することは厳しいでしょう。
ここまで必要な能力を考えてしまうと、
「小学生でそこまで力がつくのか」
「できない子どもへの対応はどうするのか」
「小学生が自分自身で探究できる場面はどれだけあるのか」
「実際にこんなことができるのか」
などと思ってしまいそうです。

確かに、今言われている「個別最適な学び」と「協働的な学び」の “理想的な姿” をもつ子どもはそれほどいないでしょうし、育てることも難しいと思います。なにしろ、現在中央教育審議会で言われている姿は、小学校に限ったことではないのです。
つまり、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の“理想的な姿”は中学校、高等学校…と、長期的に達成する目標なのです。
小学生の段階で自らの判断で自由に学ぶといった“自立した学習者”を育てなければ、などと思いつめない方がよいでしょう。

私は小学校段階では、教師は長期的な目標である“理想的な姿”を意識しつつ、自立した学習者になるための“基礎を育てる”こと。そのために「個別最適な学び」と「協働的な学び」の環境づくりを考えることが重要と考えています。

⑵ 個別最適な学び

個別最適な学びは、

社会的な変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となる資質・能力を育成。
学んだことを人生や社会づくりに生かす意識や積極性につなげる。
生涯にわたって能動的に学び続けることができる。

といった目的から重要視されることになりました。
現在の学習指導要領においては、
「個に応じた指導」を一層重視し、指導方法や指導体制の工夫改善により,「個に応じた指導」の充実を図ること
とされており、これは学校の学習場面においては、「指導の個別化」「学習の個性化」の2つに整理されています。

2.「指導の個別化」と「学習の個性化」

⑴ 指導の個別化

「令和の日本型学校教育」の答申では「指導の個別化」を、

基礎的・基本的な知識・技能等を確実に習得させ,思考力・判断力・表現力 等や,自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するため,
支援が必要な子供により重点的な指導を行うことなど効果的な指導を実現
特性や学習進度等に応じ,指導方法・教材等の柔軟な提供・設定を行う

と示されています。このことは、目標は学級で同じではあるが、その目標を解決するためのアプローチが個々で異なるものになる、ということです。
つまり、「指導の個別化」が目指すものは、「同じ目標を全ての児童生徒が達成することを目指し、個々の児童生徒に応じて異なる方法等で学習を進めること」といえるでしょう。*つまずきのある子どもに対してが指導の中心となると考えられる。

このように考えると、「指導の個別化」では、教師は解決のために個人の特性に応じてヒントを与えたり、様々な方法で解決したりするような、指導方法の多様性を目指すものといえます。

⑵ 学習の個性化

「学習の個性化」について「令和の日本型学校教育」の答申では、

基礎的・基本的な知識・技能等や情報活用能力等の学習の基盤となる資質・ 能力等を土台として,子供の興味・関心等に応じ,一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで,子供自身が学習が最適となるよう調整する

と示されています。
つまり、目標も難易度も個々で異なり、解決するためのアプローチも異なるものになります。
「学習の個性化」が目指すものは「個々の児童生徒の興味・関心等に応じた異なる目標に向けて、学習を深め、広げること」といえるでしょう。

このように考えると、「学習の個性化」では、教師は教科書の内容に関わらず発展的な学習や自学自習ができるような、学習内容の工夫や、「多様な目標や進度であってもよい」という心をもつことを目指すものといえます。

⑶「協働的な学び」で個人では学び得ない「深い学びへ」

自ら学習を進める「個別最適な学び」とセットで、「協働的な学び」も示されています。どちらかといえば、「個別最適な学び」の方がキーワードとして新しく、焦点化されがちですが、他者と協力し最適解を探る「協働的な学び」の方こそ、深い学びに繋がる重要な指導の視点といえます。

「協働的な学び」について「令和の日本型学校教育」の答申では、

「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう,探究的な学習や体験活動等を通じ,子供同士で,あるいは多様な他者と協働しながら,他者を価値ある存在として尊重し,様々な社会的な変化を乗り越え,持続可能な社会の創り手となることができるよう,必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」を充実 することも重要

集団の中で個が埋没してしまうことのないよう,一人一人のよい点や可能性を生かすことで,異なる考え方が組み合わさり,よりよい学びを生み出す

と示されています。学校教育の良さは集団で学習している点です。
ここに書かれているように、個別最適な学びの解釈が行き過ぎると、個人主義の「孤立した学び」に陥る可能性があります。学校は塾ではありませんし、暗記の学習ならともかく、「考えること」については個人の学習だけでは限界があります。
そこで「協働的な学び」の視点が必要ということになるわけです。

多くの人がいれば、それだけ様々な視点の考えが存在します。その考えの中には、自分では思いつかないことがたくさんあり、個人の学びを深めることにつながるわけです。

下の図をご覧ください。「協働的」と言うと、「他の人に積極的に関わる」というイメージを持たれる方がいるかも知れませんし、一番左の図のように、お互いに何を考えたか確認する(教える)レベルでもよい、と考える方がいるかも知れません。
私としては、「協働的な学び」として“確認レベル”は入れておらず、残りの2つの状態を指すと考えています。

1つは「学びを拡げる」ということです。真ん中の図のように、人それぞれで理解の範囲は異なります。人によって生活経験も異なりますし、学習履歴や興味も異なるからです。
このような人によって異なる理解の範囲を、集団での学習という学習環境を活かして拡げていくことが、協働的な学びによってなされるべきです。

もう1つは「学びを深める」ことです。一番右の図のように、一人の学びでは、理解の深度を深めることは難しいです。子ども同士の対話を通して次第に理解が深まっていくわけです。「協働的な学び」は集団での対話を通して様々な視点に気づけることを活かし、個人の学びを深めていきます。

3.小学校理科における「個別最適な学び」「協働的な学び」

では、これら「個別最適な学び」「協働的な学び」は、小学校の理科においては、どのようなことを指すのでしょうか。ここではいくつかの事例を簡単に紹介します。

⑴ 学習者のレベルなりの解決法を支援する【指導の個別化】

例えば理科でノートをまとめる際に、端末を活用することが増えてきました。その際、キーボードで入力するのが得意な子どももいれば、ペンで書き込むことが好きな子どももいます。端末ではなく従来の紙のノートのほうがいい、という子どももいるでしょう。
ノートをまとめるという目的から考えると、どのような方法でもよいわけで、そこを画一的にする必要はありません。

また、解決が苦手な子どもにはワークシートを配ってもいいですし、ヒントカードを配ってもいいでしょう。解決のために少し支援が必要な子もいれば、自由に活動させるほうが解決に到達しやすい子どももいます。このように、教師の都合で画一的な指導をするのではなく、子どものレベルや特性に合わせて指導方法を変える柔軟性が求められているといえます。

⑵ 学級の問題(予想)に繋がる多様な個人の問題を認める【学習の個性化】

これまでの授業では、教科書に載っているような問題を解決すること目指していました。
しかし、子どもが問題を作る際によく見られるように、子どもたち個々人が考える問題と、学級で最終的にまとめる問題(教科書に載っているような問題)は、必ずしも同じではありません。

例えば、振り子の実験では、教科書に「振り子の1往復する時間は何によって変わるのだろうか」という問題が書かれていても、「振り子の1往復する時間は重さが関係しているのだろうか」「長さと、重さの2つが関係しているのだろうか」など、子どもによって問題は様々になります。
そこで個別最適な学び(学習の個性化)においては、あくまでも授業の目標は「振り子の1往復する時間は重さが関係しているのだろうか」としますが、その問題を解決するためのアプローチは個々で異なっても構わない、ということになります。
「振り子の1往復する時間は重さが関係しているのだろうか」「長さと、重さの2つが関係しているのだろうか」のように、ある子どもは重さだけ調べ、別の子どもは複数の実験によって調べる等、様々な解決方法を使ってよいということになります。

⑶ 解決までの多様な「解決方法」を認める【学習の個性化】

複数の透明な水溶液があり、それらが何の水溶液かを調べる際、様々な方法が想定できます。例えば、リトマス紙を使って液性を調べることもできますし、蒸発させて何が溶けていたのかを調べる方法もあります。液性を調べるための実験の順番は本来決まっていません。これまでの学習では、学級で一斉に同じ実験をすべて行っていましたが、個別最適な学び(学習の個性化)の考え方からすれば、一斉にする必要もありませんし、何から検証してもよい、ということになります。

⑷ 既習事項を活かして考えたり製作したりする場面や時間を設定する【学習の個性化】

制作物などは、自分のやりたいことが先に来るため、個人の目標が異なっているといえます。理科で言えば「ものづくり」のようなものですね。子どもによって、作りたいものが難しかったり、簡単だったりしますし、教科書の範囲内であることもあれば、発展的なものの場合もあると思います。
ここでいう個別最適な学び(学習の個性化)は、個人の考えに沿って学習内容を自由に選択・決定することを意味します。従って、教師は自由に教材を選択できる環境づくりや教材研究が必要ですし、何より子どもたちに自由に任せてもそれを受け入れるという「教師の覚悟」が必要と思われます。

⑸ 対話することで学習が深まる課題を設定する【協働的な学び】

個人での考えには限界がありますが、人の考えを聞くことで考えの幅が拡がります。
ただ、簡単な課題について交流してしまうと、答えが簡単であるため、単に考えを確認し合う程度で学習が深まらずに終わるでしょう。

対話を通して学習が深まるには、子どもたちに多様な考えが出てくるような課題であることが必要になります。そうすることで、様々な視点があることや、自分が知らなかったことに気づくことができるのです。教師としては多様な考えが出る課題は何か、あらかじめ教材研究をする必要があります。

理科で言えば、問題を見いだす際の気づきの共有や、様々な人と交流して予想を聞きあうこと、目的を達成するための実験方法を検討したり、他の友だちや班の結果や考察を聞きあったりすることで、自分の考えが正しいのかを判断する(客観性や妥当性を判断する)場面が考えられます。

理科の授業で発芽の条件を話し合っている子どもたち

イラスト/難波孝

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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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