総合学習の勉強会は、資質・能力や概念形成という部分で対話できるからこそおもしろい 【先生たちの「探究」勉強会レポート #04】

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國學院大學人間開発学部教授

田村学

去る7月16日、第4回の「探究」勉強会が新潟の会場とネット参加のハイブリッド方式(参加者90名)で開催されました。前回、中学校における行事をいかに「探究」に生かすかについて深めたことを受け、今回は「校種を問わず、学校にとっては不可欠な修学旅行。探究的な学習とするにはどうすればいいの?」をテーマに、参加者の先生方が「探究」していきました。

アントレプレナーシップ教育を取り入れることで、学校の特色を出す

毎回、3部制で行われているこの勉強会。まず第1部では、新潟市立新潟柳都中学校の井上美恵先生が自校の取組について紹介し、第2部での対話の話題を提供します。井上先生は、総合的な学習の時間(以下、総合学習)を核にして学校の特色を出していくため、今年度リニューアルし、3年間分の年間計画を立てたと説明。アントレプレナーシップ教育を取り入れることで、教育目標である「自立 貢献 創造」の具現化を図ると話します。「自立」=夢や目標をもち、自ら具体的に考動する力、「貢献」=人や集団、地域を思いやり、考動する力、「創造」=課題の発見、解決に向け、失敗を恐れず挑戦、考動する力と設定した、と説明する井上先生。

各学年の具体的な学習内容についての説明に移り、まず1年生は3年間の学習の動機付けともなる導入として、1学期にアントレプレナーのミニ体験を実施。2学期以降に起業家からの話を聞く機会を設定し、冬以降、顧客のニーズに応えるアイデアについて学ぶ予定だと話します。続いて2年生は、地元「しもまち」で職場体験·地域調査を実施してから、その後に起業家から学ぶ機会をもった後、お金について学習し、3年の春期に行う修学旅行について学びつつ、旅行先での「しもまち」のアピールや商品企画·販売について考えていく予定だと説明。3年では、修学旅行(関西の予定)に行って、地元のアピールや商品販売などを実施。旅行後に改めて、地域の活性化を図る方法について考え、事業拡大を行うなど、学びを深めていく計画になっていると話します。

同校ではこうした学習過程で、インプットしたことを基にアイデアを出し、アウトプットしていくことを繰り返すこと、地域との連携を図ることや、地域の課題(高齢化)について行政や地域住民とともに考えることを大事にしたいと説明。修学旅行での活動・学習においては以前、同様の実践を行っていたことも踏まえて、こうした計画を立てたものの、実際に実現可能か不安も感じているし、めざす力を育むには別の活動をしていく方法もあるのではないかと考えており、多様なアドバイスを求めると話しました。

ここから第2部となり、司会者は、アントレプレナーシップという軸は変えずに、3年生の修学旅行先やそこで、どのような学習活動ができそうか(それ以前にどんな学習活動を進めたらよいか)などについて話し合ってほしいと説明し、提案者への関連情報に関する質問を求めます。すると、会場から「修学旅行先での商品販売は固定か?」(回答:商品販売に限らない)、「しもまちはどういう場所か?」(回答:町の状況などを具体的に説明)、「子供の地域に対する意識付けは?」(回答:1小1中の学区で、小学校で地域のことを学んでおり、それを土台に中学校の実践を進める)、「商品の企画販売には企業とのコラボが重要だが、現時点でどんな企業を想定しているか」(回答:以前は米菓、食品加工会社などと連携)などの質問が続いて出てきました。

そこから会場6グループとネット上のチャットルームに分かれて議論を展開。取材者が参加したルームでは、「自校は修学旅行は情報収集の一環とし、課題を設定して行っている。現実的に販売はむずかしいのではないか」「確かに修学旅行は探究のプロセスで言えば、課題設定や情報収集などになりそうだ」「京都や大阪には多様な老舗や企業もあり、この町はこんなことを生かし、活性化を図っているという情報収集の場にするのがより良いのではないか」などの意見が出ました。

参加者がグループに分かれて、対話しながら探究していった内容を整理した模造紙の実例。

35分間の対話の後、各グループから意見が出されていきます。「小学校で何を学んだか表現させることで、中学1年生なりの問題意識を確認、醸成できる」「目的意識を醸成するため、改めて1年生で地域に出て学んだほうがよいのではないか」「まず地域を十分に調べてから何を売るのかを決定し、どこへ行って誰に売るのかが決まってくれば、子供たちが具体的な作戦を立てられる」「他校で町の活性化とモノを売ることを分けることで成功している実例があり、その方向がある。販売をするのならば、企業としっかり組んで一過性のものにしないことが大切」「物を売る(アウトプットの)場とするのではなく、修学旅行先で同じような悩みを抱えた地域の生徒と交流する(インプットの場とする)方法もあるのではないか」「アウトプットの場とするなら、何のためにそれをするのかという土台づくりをしっかりやったほうがよい」「商品開発とは別の視点もあるのではないか。旅行会社とか(観光)関連の官公庁とコラボすると、もっと旅行先で行うことの可能性が広がる」「旅行先での活動自体も大事だが、帰ってきた後の活動を大事にしたほうがよい」などの意見が出ました。

学校行事を総合学習にカウントする際は、その学習活動が探究であることが大前提

休憩をはさみ、第3部。最初に田村学教授は「前回、中学校の総合学習について考えたが、現状の具体的な学習活動としての修学旅行や職場体験などから、うまく探究をつくっていくほうが現実的に意味があるということで、今回は修学旅行がメインになった」とテーマ設定の理由を説明。そして、学習指導要領の総則第2の3の⑵のエを引用しながら(資料1参照)、総合学習と特別活動の関係について説明し、「特別活動で行った学校行事をすべて総合学習にカウントしてよいということではなく、その学習活動が探究になっていることが大前提」と話します。例えば、職場体験もただ体験したというだけではなく、前後を含めて「自分が働く」ことについて探究していく学びになっているときに、一定程度の時間を総合学習と捉えることができ、修学旅行も同様に前後を含めて探究的な学びになっていれば、例えば2泊3日の中の1日あるいは半日を総合学習と捉えられるだろう、と田村教授。「実はこれが中学校の総合学習を変えていくのではないか」と話します。

【資料1】中学校 学習指導要領 総則第2の3の⑵のエ

総合的な学習の時間における学習活動により、特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施と同様の成果が期待できる場合においては、総合的な学習の時間における学習活動をもって相当する特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施に替えることができる。

今、高等学校の総合学習が変わってきた要因は、大学受験(の制度改革とその成果)とシンクロしているためで、それにより受験産業も多様な探究のテキストや資料を出すようになっていると説明。中学校はなかなか変化しなかったが、修学旅行は大きな予算が動くため、実際に旅行会社が探究関連の資料を作成し、旅行先となる各自治体の観光課も探究資料を作成していると田村教授は話します。そうした状況を踏まえ、どの学校でも行う修学旅行の前後をいかに豊かな探究にしていくかを考えてきたのが、今回のテーマだと説明します。

そして修学旅行は「どこへ行く」「何をする」が外せない鍵になることや、「修学旅行には非日常(人、モノ、こと)があるから生徒にとってインパクトが強く、それが学びを充実させる可能性がある」ために、それをどうコーディネートするかが大切、と話す田村教授。新潟柳都中学校の井上先生に尋ね、旅行先もまだ完全な決定事項ではないと確認し、参加者にどこへ行くのがよりよいように思えるか、周囲との対話を促します。意見を求めると、「立地が港町なので、同様の課題を抱えていそうな神戸や金沢、横浜などが良い」「防災という課題を踏まえて東北」「人を呼び込むP Rをするならば、上越新幹線沿線の群馬、大宮、東京などが良い」などの意見が出てきます。

それぞれが「同様の立地(課題)」「防災(課題)」「P R」という目的があることを確認し、どこへ行くかは前後の学習活動とつながる、と話す田村教授。「活動の連続は当然必要だが、子供たちがどういう問いをもって探究するかを考えないと、先生が無理やりやらせる学習活動になってしまう」と話します。そして、新潟柳都中学校では「災害時の高齢者の問題」「地域の活性化」「空き家の増加」といった問題意識が生まれそうだということを確認した上で、先の「港町という立地」「防災」という現状の課題解決をAとし、「新幹線沿線でPR」という未来に向けた活動をBとして、どちらが実践しやすそうか、参加者に投げかける田村教授。

意見を求めると、Bを選んだ参加者は「未来を創造するほうがアイデアが出そう」と話し、Aを選んだ参加者は「商店街的な町ではないと聞いたので、防災のほうが意識が向きやすそう」と話します。

そこで田村教授は、前者と後者は学習活動の場面が異なり、「前者はそこへ行って、そこで学ぶことで問題が見えてきて、モデルを学べる(ミッションの入り口)、後者はプロジェクトの構造が立ち上がっており、それを実現する(ミッション成熟場面)」と説明します。Aは課題や問題を見付けだして、自分たちができるものは何かを考える場面で「似ている地域」となり、後者はミッションがクリーンになっているので、それが実現する場所で「新幹線沿線など」となるのかもしれない、と田村教授。つまり、「修学旅行でどこに行くかということから、かなり単元づくり(前後の学習活動)が考えられるし、修学旅行とその前後をどう構造化して構成していくか、ということと結び付けて考えられる」と話します。

ごく乱暴に言えば、Aは単元の前半戦で利活用(input)するタイプ、Bは終盤戦で行う(output)タイプで、どちらかと言えば、事前にミッションができ上がっている必要があるBのほうがハードルが高いように見えると説明。こうした学習内容と、それに沿った利活用のバージョンをたくさんもっているほうが、学校の特質や子供の興味·関心や教員集団の固有性に合わせられる、と話す田村教授。

「アントレプレナーシップ」というキーワードを基に、最初から「商品開発をする」と考えると窮屈になるので、子供たちが「自分たちの町って、いい町だよね」「魅力的な人がいるよね」「いろんな人に紹介したいよね」となった結果、良さを伝えようということになるほうが自然だと話します。「修学旅行を行うとき、子供がどんな意識をもっているから何をやるか考えることが大事。その意識によっては、output場面での活用はむずかしいだろう」と話します。「最終的に我々が選択するときには、子供たちがどのように学びに向かおうとしているかが大事」と田村教授。

これまでカリキュラム・デザインについて学んできたが、言語化できるようになると説得力をもつし、構造的なものにできる、と田村教授。ここで学習指導要領の総則第2を引用し(資料2参照)、第2の1は、教育目標から教育課程の編成へと下ろしてくるところでカリキュラムの縦、第2の2は教科横断に関するところで(より具体的には2⑴は各教科の基盤となる能力、2⑵は現代社会の課題)カリキュラムの横の話だ、と説明します。カリキュラムは縦横で編み込むようになっている、と田村教授。

こうしたカリキュラムの真ん中に総合学習を置いて教育目標の具現化を図っている高校の実例を紹介しながら、今後、小学校でも同様の実践が求められるようになると説明。最後に、「今後は、各教科の専門はもちろんのこと、教育課程(カリキュラム)を語れる人が求められる時代になっている」と話し、勉強会を終えました。

【資料2】中学校 学習指導要領 総則 第2より

1 各学校の教育目標と教育課程の編成
教育課程の編成に当たっては、学校教育全体や各教科等における指導を通して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ、各学校の教育目標を明確にするとともに、教育課程の編成についての基本的な方針が家庭や地域とも共有されるよう努めるものとする。その際、第4章総合的な学習の時間の第2の1に基づき定められる目標との関連を図るものとする。  
2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
⑴ 各学校においては、生徒の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力 (情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力 を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。
⑵ 各学校においては、生徒や学校、地域の実態及び生徒の発達の段階を考慮し、豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を、教科等横断的な視点で育成していくことができるよう、各学校の特色を生かした教育課程の編成を図るものとする。

改めて子供の課題意識を大事にしないとダメなんだと思いました

この勉強会を通して、参加者の多様なアイデアや田村教授の説明を聞いた提案者の井上先生に、2学期に入ってから話を聞くと、次のように話してくれました。

新潟市立新潟柳都中学校の井上美恵先生。

「当初、私はシンプルに修学旅行で地域活性化と絡めた商品を関西への修学旅行で販売できればよいと思っていたのです。数年前にやっていたことがあると聞いていたので、やればできるだろうと考えていました。しかし、参加者の皆さんが、『まず地域のことをもっと知らないと深まっていかない』『関西で物販をするなら、地元新潟でプレ実践をやったほうがよい』などの意見を出してくださったことで、まず事前の学習を充実させていかなければならないということに気付かされたのです。

そして、そこに田村先生の、『修学旅行を単元はじめとしてのinput重視にするのか、単元おわりとしてのoutput重視にするのか』というお話を聞き、そもそもは、output重視の計画だったのかと、inputの場にするという方向性もあるのかと視野が広がりました。outputなら事前の学習活動の充実が必須ですが、inputなら単元はじめの位置付けで、時間をかけて考えられますし、クラスも職員も変わる状況を踏まえたら、単元はじめの位置付けのほうがよいのではないかと考えが変わってきたのです。実際にその話をもち帰って、学年部の職員間で話し合った結果、単元はじめの位置付けのほうが現実的だし、子供の力が伸ばせそうだという話になり、管理職にも相談し、旅行会社さんにもその方向で提案をしてほしい旨を伝えています。

私自身この勉強会を通して、改めて子供の課題意識を大事にしないとダメなんだと思いましたし、主体的に探究するという部分で、子供が『地域のためにこうしたい』とか、『あのとき、修学旅行で学んだこれが使えそうだ』と考えていけるようにすることが大事だと思いました。また多くの先生方のご意見を受けて、アンテナショップとか旅行会社とか企業とか、多様なところとつながりながら修学旅行に行くと、学習も広がるというのも大きなアドバイスだったと思います。『開かれた教育課程』が求められているわけですから、その点からも必要ですし、多様なつながりを模索していきたいものです。

もちろん新しいことに取り組むことは大変なこともありますが、私自身にとっても勉強になりますし、とても楽しく取り組んでいます。いずれにしても、この会で実際に使ってみたくなる多様な実践の可能性や考え方をいくつももち帰ることができたのは、とても良かったと思います」

続けて、主催者の1人である新潟県五泉市教育委員会の浅間一城指導主事は、この会での学びについて次のように話しました。

新潟県五泉市教育委員会の浅間一城指導主事。

「この会で得た学びは大きく2つありました。1つは、昨年度くらいから多く耳にするようになったアントレプレナーシップについてです。アントレプレナーシップ教育を推進するために、新たに単元などを創出しなければいけないという思いでいたのですが、十分に既存の総合学習の単元にその理念を溶け込ませることができるということを学びました。アントレプレナーシップ教育を1つの視点として既存の総合学習の単元を見直すことは、総合学習のより豊かな単元を構想することにつながるのではないかと思いました。

もう1つは、今回の提案は1年、2年、3年と通して行う計画でしたが、生徒たちが何のために起業家の方から学ぶのかというところが重要で、そのために1年時にしっかり『しもまち』に関わって、課題や魅力をinputしていくことが必要だということです。それがあってこそ、『こういう課題を解決したい』とか、『こんなふうに魅力を伝えたい』という意識が高まるし、起業家から方法知を学ぼうとか、修学旅行先でこんなことを学ぼうとか、こんな実践をしようということがより明確になるのだと思います。子供の学習活動が目的意識に支えられて進んでいけるようにすること、そのために体験的な活動を通したinputの場を大切にすること、この2つの重要性を改めて感じたところです」

最後に浅間指導主事は、この会の意義について次のように話してくれました。

「私は、生活科や総合学習の単元·授業づくりを探究している先生同士のネットワークづくりができることが、この会の一番の魅力だと思っています。新潟に限らず、総合学習を学ぶコミュニティは、他教科に比べてそれほど多くないのではないでしょうか。対面、またはオンラインでの参加により、新潟はもちろん全国の先生方と、しかも校種を超えてつながる機会がもてるのはとても貴重なことだと思います。特に、専門教科や校種を超えてつながれるのは、この探究勉強会ならではのおもしろさだと思います。

いずれにしても、実際に実践されている単元を基に、多様な可能性を語り合うところがこの会のよさで、特に『生活科や総合学習、探究がまだまだよく分からないけど、知りたい、勉強したい』という先生にとって、良い入り口になると思いますので、気軽に参加していただければと思います」

次回、第9回の探究勉強会は12月23日(土)15時〜17時、上越教育大学学校教員養成・研修高度化センターにて開催。直接&オンラインでの参加申し込みURL:https://forms.gle/ZXvEiiriKhmxNVbc9

取材・文/矢ノ浦勝之

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