学級づくりと授業づくりは別のものではなく、つながっている【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第12回】
全国の優秀な先生は、若手の頃から何をどのように学んで身に付けていたのかを紹介するこの企画。今回は、兵庫県神戸市の授業マイスター(小学校・理科)である小湊拓也教諭が、学級づくりについて元同僚から学んだことや、若手の先生方へのメッセージを紹介していきます。
目次
学級づくりで一番大事にしているのは安心感
これまで授業づくりについてお話をしてきましたが、学級づくりに関して私が一番大事にしていることは安心感です。今年度もそうですが、毎年、年度はじめに新しいクラスの子供たちと出会ったときに、「どの子も安心感をもっていられるような学級にしていこう」と思っています。そうした学級づくりの考え方は以前の同僚からの影響で学んできた部分も少なくないように思います。
以前お世話になった校長先生は、若いときに生徒指導が大変な地域の学校にいたのだそうですが、そのときに考えたのは、「楽しくなければ学校ではない」ということだった、とよく話しておられました。楽しいというのは、友達と楽しく遊べるというような楽しさもありますが、「分かった」「できた」という楽しさが大切ですし、何よりも安心していられる居場所があるという学校生活すべての基盤となる楽しさもあります。もちろん小学生のことですから、「ああ、自分には居場所がある」と自覚するというよりも、何となく感覚的に安心感をもてる場所になっているということですね。
あるいは、特別活動の研究会をリードしていた元同僚は、「自分たちのクラスなんだから、自分たちで企画して自分たちが楽しくなるようなことをやっていこう」「自分たちが楽しくなるようなクラスにしていこう」という働きかけをしていましたが、私もその考え方に賛同しています。ですから、私も年度はじめには子供たちに同様の話をするのですが、そのときの私の立ち位置はどこかというと、「自分たちのクラス」の中です。自分も含めたクラスという考え方なので、保護者の方から「子供がとても楽しいと言っていますよ」と声をかけていただいたときには、「いえ、私が一番楽しんでいるので」と返すくらいです。
つまり自分自身も楽しみながら、どの子も同様に安心して楽しめる学級にしていきたいというのが私の学級づくりの考え方です。もちろん、安心できる居場所があるというのは、当然「自分がこんなことを考えたよ」と自ら進んで言える場所だと言えますが、話すことが得意ではない子もいるわけですから、「Aさんがこんないいことを言っていたよ」と、友達の言葉で学級全体に共有されることによって、居場所をもてるということがあってもいいと思っています。
そういう学級づくりの考え方は、実は授業づくりの考え方とも通じているわけです。ですから、授業でも年度の最初の頃に、答えが一つではなく多様な考え方が認められるような授業を意図的に組むことがあります。そして、授業後の板書を見ながら、「みんなが意見を出せたね」とか「みんなで一生懸命勉強したから、こんなにたくさんの考え方が出てきたよ」と話すのです。そのときに感じる充実感こそが、学級で多数の友達と共に学ぶ良さでしょう。もし一人の優秀な子の意見だけで授業が進み、学びが進むのであれば、家で参考書や問題集、パソコンを使って一人で勉強をしていても同じだと思います。
そうではなく、多面的・多角的な意見を出し合って対話をしていくことが学びを深めるのだし、「みんなで意見を出し合ったから、こんな考えにたどり着いた」と思えるほうが、満足感や達成感が高いと思います。その前提としては、誰もが安心していられる居場所であることが大切です。それと同時に、授業を通して多様な考えをもつ友達と一緒に学ぶからこそ「分かった」「できた」「楽しい」という体験ができれば、また一人一人が安心していられる学級であることの大切さも感じられるのではないでしょうか。
ですから、「まず学級づくりが…」とか「まず授業づくりが…」というように、それぞれが別のものなのではなく、どちらもつながっているのだと思っています。私自身、初任のときに学級づくりも授業づくりも苦労したという話をしましたが、子供同士が意見を出し合いながら学びを深めていけるような授業ができるようになった頃に、ちょうど学級づくりもうまくいくようになっていった気がします。それは両者が連関しているものだからではないでしょうか。
自分なりの考え方をもち、それを軸に他の先生の授業を見る
最後に、私の在籍校では今年度神戸市の指定事業として、「問題発見・解決能力」に関する授業づくりについての実践研究を始めました。その実践を通して、本校の若い先生方も前向きにチャレンジしようという雰囲気になってきているところです。そうした場で、若い先生方にも伝えたいし、これを読んでくださっている若い先生方にも伝えたいと思うのは、まず自分なりの考え方をもつということと、その考えを軸に他の先生の授業を見るということです。
研究授業をするために指導案を作る経験をすると、経験の浅い先生でも自分なりの考え方や授業づくりのポイントが少し見えてくると思います。そのポイントを軸にして、自分と比較しながら他の先生の授業を見ることが大事なのです。何もないまま、ただ指導案を見ながら、「へ~、こんな授業のしかたがあるのか」と見ているだけでは、学べることは少ないと思います。そうではなく、自分の考えを軸にして比較しながら見ると、「自分はこうしていたけれど、こんな展開のバリエーションもあるのか」とか、「こんな子供の意見に対し、そういう切り返しの方法があるのか」というように、より具体的に自分の授業改善の方法やバリエーションが見えてくるはずです。
それは授業だけに限らず、例えば、朝の会一つをとってもそうですが、経験不足であっても、常に自分なりの軸をもって、自分と比較しながら他の先生の実践を見て学ぶことが大事だと思います。
おそらく教師という職業だけに限らないと思いますが、前例や他者の方法を踏襲することで考えることを忘れてしまっているということはないでしょうか。子供たちに「考えよう」と言いながら、ついつい自分の授業や言動について考え直してみることを忘れてしまっているということはないでしょうか。
自分なりの考え方の軸をもっていれば、実践した結果がうまくいっても、うまくいかなくても、考えたことは必ず次に役立つものです。自分なりの考えがあって実践したことであれば、うまくいかなくても、「ああ、こう考えていたけれど、ここが間違っていたな」と考え直し、次に修正ができると思います。しかし、自分なりの考えがないままやってしまうと、修正はききません。なぜなら、何のためにそれをやったのかが明確でなく、当然、修正すべき部分も分からないからです。だからこそ、常に自分なりの考えをもって、他の先生の多様な授業(や教育活動)を見て、学んでいってほしいと思います。
おそらく、若い先生方は1年間に多様な研究授業を参観する機会があると思います。そのすべてに参加しなければいけないわけではありませんし、ただ「みんなが行くから」と、明確な目的もなく行ったのでは学べることはあまりありません。やはり自分が何をしたいか、何を学びたいかを明確にして自分が前向きに研修に向かうことが大切です。その前向きな気持ちをもって向かえば、そこに集まる人は前向きな人たちばかりなので、そこから学べることはたくさんあると思います。
ですから、少しくらいつたなくてもよいので、どうか自分なりの考え方の軸をもってたくさん授業を見て、学んでいってほしいと思います。
【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」】次回は、6月8日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之