授業を変える校内研修のあり方 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #24】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第24回「コミュニケーション科」の授業は、<授業を変える校内研修のあり方>です。

教師主導の授業スタイルから抜け出せない

「授業を変えたい」と、学校ぐるみ・地域ぐるみで研修を依頼される機会が増えました。単発でイベント的に講演に呼ばれるのではなく、継続して授業のあり方を考えていく姿勢に、私も刺激を受けています。

そうはいっても、長い間培われてきた “教師主導の授業スタイル” から早々に抜け出すことができないのが現状です。

校内研修では、相変わらず指導案をもとに、教師の指示や発問を振り返る内容がほとんどです。こうした研修で幅をきかせるのは、一部の “強く主張する” ベテラン教師です。話す内容も、至らなかった点や反省点を中心に批判的なものになりがちです。研修を繰り返せば繰り返すほど、若手の教師は萎縮し、他の教師も「言ってもやり返される」と口を閉ざしてしまいます。このような研修を繰り返しても、意味のない時間がただ過ぎていくだけです。

授業を変えられない理由を尋ねると、カリキュラムの過密化や特別な支援が必要な子への対処、保護者への対応などが挙げられます。そして、学校現場が疲弊しているから、と。

しかし、最も大きな要因は、知識中心の学力に重点を置いた教師の “指導” のあり方を省みないことではないでしょうか。

「学びに向かう人間性」こそが、身につけたい学力

子供に身につけさせたい “学力” は、次の3つの要素があります(図参照)

①知識
②思考・判断・表現
③学びに向かう人間性

前述した研修で中心になっているのは、“教師の授業内容伝達言葉” をベースにした①の知識です。「教師と子供、子供同士のかかわり合いは大切」だと言いつつ、所詮は①の “ふりかけ” 程度であるという感覚でいる教師は少なくありません。

しかし、対話・話合いを中心にしたアクティブ・ラーニングの授業では、教師も子供も “自己表現的言葉” で学び合う、③の学びに向かう人間性こそが “主食” であり、最も目を向けるべきではないでしょうか。

「いかに指導案どおりに授業が進められたか」ではなく、「子供たちがどう学んでいたか」にスポットを当て、授業者である「教師」から、「子供」に視点を置くのです。

そのためには、当然、研修も変えていかなければなりません。

まずは、子供たちの学ぶ姿を直に見る必要があります。そして、実際の授業だけでなく、授業動画を見ながら、「普段手を挙げない○○さんが手を挙げたのはなぜか」など、教師と子供たちのかかわりをみんなで振り返るストップモーションで進めていくのです。授業動画のストップモーションの具体的な進め方は第18回をご参照ください。

意見の主語を「私」に

ストップモーションのグランドルールとしては、「何を言ってもいい」「否定的に見ない」ことを徹底しましょう。

テーマは、「子供たちの表情が変わった言葉がけ」「○○さんへの対応と周りのかかわり合い」など、子供の実態からつくっていくといいでしょう。

①の授業伝達言葉を中心に授業を見ていくと、「あの場面ではこんな発問にすべきだった」「意見を言えるよう、書く時間をもっと与えるべきだった」という、“べき論” に陥り、否定的なとらえ方になります。「○○すべき」の根拠は、「学習指導要領」や「指導書」で、あくまでも他者の受け売りです。「教育委員会が……」「もともとうちの学校は……」と他者が主語である意見は、言い換えるならば、責任転嫁です。

一方、③の自己表現的言葉で見ていくと、「授業者の『間違ってもいいんだよね』という言葉がけで、いつも発表しない○○君が発表した」と、子供の実態から授業を見ることができるようになります。「あのタイミングで言葉がけをした意図は?」「それでも発表しなかった場合、どうすればいいか」など、1つの言葉がけに対して、様々な意見が出てくることで、授業分析がより深まっていきます。

さらには、「自分はどうだったか」「私は今後どうしたいか」という自らの経験に照らし合わせるようになります。子供の姿を通して考えていくことで、意見の主語が「私」になるのです。

こうした研修を重ねるうちに、授業における教師の視野が広がっていくのではないでしょうか。

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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