子どもの事実から学び合う、新しい校内研修のあり方とは【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #18】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します
第18回「コミュニケーション科」の授業は、<子どもの事実から学び合う、新しい校内研修のあり方とは>です。

客観的な “事実” を示す授業動画を活用

ようやく収まったかに思えた新型コロナウイルスの感染が、今年(2022年)に入ってから見る見る間に拡大し、学校教育に再び大きな影響を及ぼしています。

この2年間ほど、これまでの授業のあり方を見つめ直す機会はなかったのではないでしょうか。私自身、3学期に予定していた学校での授業や研修会の延期が相次ぎ、時間に余裕ができたことから、授業についてじっくりと見直すようになりました。

授業を振り返る際に最も役立ったのが、自分の授業動画です。自分で書き留めたノートや写真、参観者からのレポートなど、授業を思い起こす資料は様々ですが、そこには、自分の思い込みや記憶違い、参観者の主観など、どうしても曖昧な要素が多くなり、報告者の“視点”が入ってしまいます。一方で、動画には確実な“事実”が残っています。もちろん、すべての事実が映っているわけではありませんが、客観的に見直すことができることに大きな意味があります。

公立小学校で教師をしていた頃、時間があるときは、授業の写真を撮ったりビデオを回していました。自分の授業力向上のためだけでなく、子どもたちの学びの姿を残しておきたいと考えていたからです。

当時、授業や学級経営について学び合うサークル「菊池道場」をほぼ毎週末、自宅で開いていました。そこでは訪れた先生方と一緒に授業動画を閲覧し、意見を交わしていました。気になる場面で動画を止め、「なぜこういう声かけをしたのか」「この指示はどういう意図か」等、先生方の質問に答えていく、ストップモーションの方法で進めましたが、話し合いが過熱すると、3分間の授業の導入場面について2時間もかけて話し合うこともしょっちゅうでした。参加者は、小学校だけでなく、中学校教師や保育士、学生、一般企業に勤める社会人もいました。そういう人たちも積極的に参加することができたのは、授業動画という、客観的な“事実”を示す材料があったからこそです。時には、小学校の教師では思いつかない視点からの意見も出され、私自身も多くのことを学びました。

授業動画は自分の実践の振り返りだけでなく、学び合う材料としても、大いに役立つことを実感した私は、全国の学校に呼ばれるようになってからも、授業動画を見ながら話し、参加者に意見を出してもらう学び合いを大切にしています。

全員参加型の研修を

校内研修に呼ばれると、疑問に感じることがあります。担当教師が作成した指導案を見ながら、意見を交わし合うという“昭和”時代の研修から未だ抜けきれず、実のある研修になっていないのです。

発問や挙手指名のあり方、時間の配分など、授業の観点が“教師”に置かれ、学び手の中心である “子ども” の姿に目が行かないのです。また、指導案や資料が中心となるため、意見を求めても、一部のベテラン教師が述べるだけ。経験を十分に積んでいない若手教師が意見を述べるのはなかなか難しいのが現状です。このような研修スタイルは得てして、ベテランから若手への一方的な“指導”の場となり、全員参加型の研修とはほど遠いものになってしまいます。そのような一部の参加者だけで進める形骸化した研修ではなく、全員が参加できるよう、授業動画を活用するのです。

授業動画のストップモーションは、全員が参加できる研修として非常に効果的です。校内研修会でもぜひ活用してほしいと考えています。

菊池道場では、授業動画をもとにした学び合いが翌朝まで続くこともしょっちゅうだ。

発問だけでなく、非言語にも目を向ける

それでは、どのように行えばいいか、具体的に提案していきましょう。

授業ビデオを使った授業検討は、「ストップモーション方式」という名称で1980年代後半から注目を浴びました。その頃20代だった私も、ストップモーション方式に関心を持ち、様々な研究会に参加しました。しかし、教師主導の一斉指導が主軸だった当時、ストップモーションで使う動画は優れた “リーダー格” の先生の授業で、動画を見ながら教師の教授行為について学ぶというものがほとんどでした。発問や指示など教師の発信にストップをかけ、その先生から説明を受けるというものです。これでは、従来の “昭和” 時代の研修と何ら結果は変わりません。

対話や話し合いをベースにした温かい教室・人間関係づくりを目指すのであれば、教師の “伝達言葉” だけを取り上げるのではなく、教師が子どもたちをほめて・認めて・励ます“感情表現言葉”にも目を向ける。言葉だけではなく、表情や受け答え、うなずき、立ち位置など“身体表現”である非言語にも目を向けるという視点が必要です。むしろ、非言語の対応にこそ、重点を置くべきです。

一部の意見に左右されないように気を配る

研修に使う授業動画ですが、教室の前から撮影しましょう。教室の後ろから撮影した動画の場合、教師の表情のみで、子どもたちの表情が映らないからです。できれば3台くらい用意し、1台は教室の前から、もう1台は教師の動きと板書が見えるように後ろから、そして最後の1台はハンディーにし、子ども同士の話し合いの中に入って撮影してもいいでしょう。

研修会は、司会者と、授業者、担任(担任が授業を行った場合は同一)、参加者で行います。実際の授業を参観できなかった場合、研修の前に動画を見ておいてもらうといいでしょう。

45分間の授業すべてを1回の研修で行うのは時間的に難しいので、〈導入の3分間〉〈子どもの話し合い場面〉など、司会側があらかじめポイントを決めておきます。

ストップモーションは、参加者全員が気づきや疑問(質問)、感想を自由に出し合うことが大切です。司会者は、ベテランや一部の教師の意見に左右されないように気を配ります。

最初の発表者がなかなか出ない場合は、司会者から授業者に向けて「教室全体を見渡してから、中に入ったのはどういう意図があったのですか?」と質問し、授業者に答えてもらいます。サンプルを出すことで、参加者も意見を出しやすくなります。サンプルを示すポイントは、「教室に入ってすぐ、窓側の最後列の子のところに向かったのはなぜ?」「最前列の子にしか聞こえないような小声で話すことで、騒がしかった教室が一瞬で静かになりましたね」など、非言語について触れること。「発問以外に触れてもいいんだ」「こんな細かいところを聞いてもいいんだ」と感じてもらうのはもちろん、次に動画を見るとき、もっと広い視野で授業をとらえてもらうためです。

子どもたちの主体的な学びを育てる土壌となる、活発な意見を交わす場をつくるために、どうやって空気を醸し出していくか。教師の発問だけでなく、パフォーマンス力(身体表現力)にも目を向けることが必要です。非言語のアプローチは、指導案や資料からは見えにくいですが、授業動画ならつかみやすいはずです。

同じ動画を見ても、一人ひとり視点が異なります。それを出し合うことが大切であり、そのためにも全員が参加できるように司会は気を配ります。時間の節約のため、3~4人くらいのグループに分けてフリートークにするケースもよく見られますが、フリートークにすると、ベテランや意見を言いたがる人、やってる感を出したい人が主導権を握ってしまいます。十分な人間関係が築けていない学級でグループトークを行う子どもたちと同様、“強い人” に押されてしまうのです。このため、最初の頃は全員で意見を出し合うようにした方がいいでしょう。

授業を見る目が共有化され、視野も広がる

ストップモーションに慣れ、全員が発表できるようになってきたら、テーマに沿って意見を出し合うように舵を切っていきます。例えば、「少人数での対話に必要なことは何か」というテーマで、子ども達の話し合いの場面の動画を流します。同性同士かたまって話し合っている子どもたちに対して、授業者がどのような対応をしたか、どんな言葉かけをしたか、当事者と周りの子達の反応やリアクションなど、的を絞って意見を出し合い、さらに、今後どのように指導をしていけばいいと思うかを研修で話し合うのです。ぼやーっとした感想や主観的・批判的な私見ではなく、建設的な意見が出てくるはずです。

こうした研修を繰り返していくうちに、参加者の授業を見る目が共有化され、視野も広がっていきます。具体的な対応策も出るようになり、やがて1年間を見通した指導が見えてくるようになります。授業者はもちろん、参加者にとっても大きな学びになるのです。

ストップモーションは、初任者向けや若手向けなど、状況に合わせて対象を絞った研修にも活用できます。研修のキモになる司会者はしっかりと目的をつかみ、進めていきましょう。今の段階でどこまで深めるか、テーマやポイントについては、校長をはじめとした管理職が共通理解し、見通しを持って研修を進めていくことが大切です。

厳しくも温かく成長できる、実りのある研修会になってほしいと願っています。

『総合教育技術』2022年春号より

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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