小学校理科の “校内研修” 、何をする? 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#26
私は仕事柄、“学校として” 理科の研究をやっている学校に伺うことが多いのですが、どこの自治体(市区町村レベル)も“学校として”理科の研究をやっているところは、ほんの数校…。地域によっては “ない” と言っていいくらい少ないと感じます。各校は、研究指定校になったことや、校長先生が理科の得意な先生であること、伝統として研究を続けていることなどから取り組んでおられますが、理科は「主要教科」と呼ばれているにも関わらず、本当に少数です。以前は “科学立国” と呼ばれた日本ですが、理科教育という観点からは、結構厳しい状況と考えています。そのような中、“学校として” の研究とまでは言いませんが、少なくとも “校内研修として” くらいは充実させたいものです。今回は、理科専科が進んでいる中で、校内研修をどのようにしていくかについて考えていきましょう。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.理科の専科制が進む中で
これまで理科の授業は担任の先生が行うことが多かったのですが、最近は専科の教員が担当し、複数の学年や授業を一括して受けもつことが増えました。これまでも専門性の高い音楽科や家庭科などに専科の先生がいたことを考えると、同様に「理科も専科で」という考え方は分からなくもありません。
ただ、理科の専科だからと言って、必ずしも理科が得意な先生が担当をしているというわけでもない状況です。一般的な担任をやっていた先生が、「同じ先生が同じ授業をしたほうが合理的」というような考え方で専科を担当しているのです。つまり、小学校の理科を担当している人も研修を続ける必要がありますし、他の先生方の助言を受けながら、校内研修することが必要です。
2.理科専科制だから、専科以外の先生は関係ないのか?
理科専科の先生が配置されると、理科をやっている人が学校内で一部の先生だけになってしまいます。そのため、研修の開催に躊躇する学校も多いのではないでしょうか。国語や算数が優先され、これらの研修は数多く開催されますが、「理科はちょっとわからないから」「私は理科を担当していないし…」といった気持ちから、学校全体の研修計画としても積極的に行われていないのではないでしょうか。
理科が専科制だと、専科以外の先生は関係ないのでしょうか? 答えはNOです。国語や算数同様、重要な教科なので、十分な研修は必要ですね。私の立場から申し上げると、理科が専科制であったとしても年間1~2回は理科をテーマとした研修をぜひお願いします。
3.研修のテーマを工夫すれば、理科が専科制でも関係ない
小学校の理科はそれほど専門性が求められる教科なのでしょうか? 確かに、「実験がうまくいかなかったらどうしよう」という心配や、器具・薬品などに不慣れなことからの不安はあると思います。
しかし先述のとおり、「同じ先生が同じ授業をしたほうが合理的」という考え方から専科制を採用していることが多く、中学・高校のように、理系の学部を出た人がなる場合が多い、ということではありません。現に、小学校の理科免許というのはありませんよね。
言わば小学校の理科は、教える技術こそ大事ではあれど、高度な科学的知識や素養が必要というわけではないのです。そのため、小学校ではどの先生が理科の授業を見ても何かしらのコメントはできるはずです。
では何をテーマにして、理科の授業について研修をすればよいのでしょうか。校内研修を見ていて、以下のような観点で皆さんと考えてみるとよいのではないかと思います。
①子どもの理解度に関する観点
子どもたちの発言や記録、行動を見てどのように理解をしているのか観察し、教師の指導の在り方を考えるものです。授業方法は教科書通りの方法であっても、子どもたちの普段の学ぶ姿から何を指導していくのか見つけ出すような視点です。
テーマの例としては、以下のようなものがあります。
●子ども一人一人の顕微鏡を扱う実験技能はどの程度あるのか
●実験結果からどのように解釈し、考察を書くのか
●根拠ある予想を書く際に、どの程度の経験があり、どのような根拠を書くのか
②先生の発言の仕方や教材に関する観点
こちらは、先生側のあらかじめ準備した授業展開や教材の有効性を観察し、授業の流れや教材の在り方を考えるものです。授業者があらかじめ指導展開や教材を活用する意図とゴールとしての子どもの姿を設定し、開発した授業展開や教材が有効なのかを検討していくという視点です。
テーマの例としては、以下のようなものがあります。
●子どもが問題を見いだすことができるようにするための教師の発言の在り方
●経験を生かした「ものづくり」をするために、どのような段階を踏んで指導するか
●ワークシートを活用するうえで効果的な作り方、使用方法とは何か
③学習指導要領に書かれていることの達成度に関する観点
こちらは、理科の研究校がよくやっているようなものですが、学習指導要領が変わって何年経ったとしても、校内で共通理解するのは時間がかかります。
テーマの例としては、以下のようなものがあります。
●〇〇単元で「見方・考え方」をどのように考え、どのように「見方・考え方」を働かせるか
●子どもが問題を見いだす授業展開と、見いだした問題をどのように評価するか
●一人一人が主体性をもった理科授業を行うための手立てをどうするか
このように見てみると、③だと先生方皆さんが理科の学習指導要領を理解しておかないと、同じ土俵の上で話ができないかもしれません。しかし、①②のような観点であれば、どこの学校においても、どんな先生でもできそうではありませんか?
私が申し上げたいのは、理科の授業は理科の専門の先生でないとできないというわけではありませんし、校内研修においても理科は避けられがちではありますが、結構できることは多いのです。
専科でなくても校内研修を数多く開催していただきたいですし、理科を “学校としての” 研究テーマにして、誰がいつ理科専科になってもいいように一度しっかりやっていただけるといいなと思っています。
「進め!理科道」は、隔週金曜日に更新いたします。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。