「令和の日本型学校教育」とは?【知っておきたい教育用語】
「令和の日本型学校教育」は、2021年1月に出された中央教育審議会の答申(文部科学大臣の諮問を受けて、審議結果を意見として示すもの)の中に登場した言葉です。日本の学校教育のこれまでの成果を踏まえつつ、変化の予測が難しいと言われるこれからの時代の形成者を育成する学校教育はどうあるべきか、その姿を端的に表現したものと言えます。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴
目次
中央教育審議会の答申の背景
「令和の日本型学校教育」が登場した答申の正式なタイトルは、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」です。
この答申の背景には、人工知能(AI)やビッグデータ、ロボティクス等の最先端技術の高度化による社会の劇的な変化、また、未曾有の新型コロナウイルス感染症の拡大などがありました。「予測困難な時代」を踏まえたこれからの学校教育のあり方を検討しなければならない背景がありました。
この答申が出された2021年は、コロナ禍以前の2015年〜2018年にその内容を検討し、告示された学習指導要領の完全実施期(小学校2020年~、中学校2021年~、高等学校2022年~)にあたっていました。人類の生命や生活に甚大な影響を及ぼしたコロナ禍を踏まえた教育のあり方を改めて提起する必要があったと言えます。
「令和の日本型学校教育」とは?
答申では、明治時代から続く「日本型学校教育」の良さをさらに発展させ、その成果を生かしながら、今日的課題である「学校の働き方改革」やGIGAスクール構想を進め、学習指導要領の趣旨を実現することを強調しています。
つまり、「令和の日本型学校教育」とは、学習指導要領に示す、誰一人取り残すことのない持続可能な社会の創り手の育成をめざし、そのツールとしてのICTを基盤としながら「日本型学校教育」を発展させる、2020年代を通じて目指す学校教育の姿だとしています。
「個別最適な学び」の重視
これまでの学校教育でも、児童生徒一人一人の「個に応じた指導」が重視されてきました。答申では、学習指導要領に示されている、児童生徒一人一人の興味関心や発達の状況等を踏まえて、それぞれの個性を伸ばし、資質・能力を高めていくことの重要性を一層強く述べています。
その際、子ども一人一人の特性や学習の状況に応じて指導の方法や扱う教材、時間などを柔軟に考える「指導の個別化」と、一人一人の学習経験等に基づく興味・関心に応じた活動や課題に取り組む機会を用意することで子ども自身の学習活動が最適となるように調整する「学習の個性化」への留意が必要と示しています。さらに、「指導の個別化」と「学習の個性化」を教師側から意味を整理して言い表した言葉が「個に応じた指導」であり、「個に応じた指導」を学習者側から言い表した言葉が「個別最適な学び」であるとしています。
ところで、現行の学習指導要領に示されている「個に応じた指導」、答申で扱われた「個別最適」という概念も、決して新しいものではありません。1989年改訂の学習指導要領の総則には「個に応じた指導」が明記され、それ以降も引き継がれて学校現場でも重視してきたものです。指導の個別化や学習の個性化という視点を重視した授業づくりは1980年代にすでに行われていたということです。
「日本型学校教育」で大切にされてきた「協働的な学び」
これまで日本の学校教育では、学級集団や学習集団において、子ども同士や子どもと教師、子どもと地域の方々など、多様な他者との関わりを通して、よりよい学びを創り出すために、学び合い、高め合う関係性を大切にしてきました。
学校における学びの協働的な関係性は、社会に出てからも様々な課題解決に対して求められる重要なものです。答申では、「個別最適な学び」が「孤立した学び」にならないよう、「協働的な学び」とセットで重視していくことが確認されています。
GIGAスクール構想の推進
「日本型学校教育」がめざす教育を実現する手段としてのICTの活用を一気に推し進めたのが、GIGAスクール構想です。2019年12月には文部科学大臣が国の補正予算でこの構想を進めるメッセージを出しました。コロナ禍で子ども一人一人が自立した学習者として学び続けることができるよう、国の施策で児童生徒1人1台の端末が配付され、学校教育のICT化が進みました。その理念の実現に膨大な予算がつき、迅速に進められたことは学校教育の進展ということでは喜ばしいことです。
しかし、コロナ禍と同様、急速なICT化を予測していなかった学校が、短期間で環境整備と授業での活用の検討・実践に多くの時間とエネルギーを費やしていることも確認しておきたいところです。
「令和の日本型学校教育」を実現する教職員集団
2022年12月には、中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について〜『新たな教師の学びの姿』の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~(答申)」が公表されました。タイトルが示すように、令和の時代に求められる「新たな教師の学びの姿」を実現する必要性と、その方針が明示されています。
そこでは、「教師不足」や養成段階からの育成の在り方、多様化する教育問題に対応できる専門性の高い教職員育成などの現状と課題が整理され、この答申の理念としての総論と、実現のための各論が述べられています。
「教育は人なり」とは不易の言葉ですが、社会情勢の複雑化・多様化に伴い、「人なり」の意味もさらに広がっているようです。令和の時代の学校教育において、質の高い「教職員集団」の形成という人材育成を中核に置いた組織マネジメントが重要となることは明らかです。
▼参考資料
中央教育審議会(PDF)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」2021年
渡辺敦司「学習指導要領『次期改訂』をどうする」ジダイ社、2022年
中央教育審議会(PDF)「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について〜『新たな教師の学びの姿』の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~(答申)」2022年
文部科学省(PDF)「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育 ICT 環境の実現に向けて 〜令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境〜《文部科学大臣メッセージ》 」2019年