青山新吾×南惠介 「インクルーシブな学級をどう実現するかー必要なマインドセットと具体的実践ー」【後編】



「インクルーシブな学級づくり」に必要なのは、どのようなマインドセットと実践なのでしょうか?
インクルーシブ教育を研究する青山新吾先生(ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授)と、特別支援をベースにした学級経営を追究し続ける実践者・南惠介先生(岡山県公立小学校教諭)の対談、第2回(後編)をお届けします。
後編では、課題のある子どもとのつながり方のポイント、「子どもが主体」の授業づくりの大切さなどについて聞きました。
目次
子どもが好きなマンガや番組を知っていますか?
――学級担任が課題を抱える子どもとつながるためのポイントは何でしょうか?
青山 毎年、春頃に大学の卒業生たちが、「教室に気になる子がいる」と相談にやって来ます。そのときに、課題の分析とは一切無関係な質問、例えば、「その子はどんな漫画を読んでいるの?」とか「どういうテレビ番組が好きなの?」といった、その子の生活についての知識を問う質問をすると、ほとんど答えることができません。
見落とされがちかもしれませんが、担任にとって、「生活視点で子どもとつながれるか」は、とても重要です。時々、その一点突破で1年間を凌ぎきる先生すらいらっしゃいます。いつも課題解決、個別対応しか頭にない教師が近づいてきたら、子どもはたまらないだろうと思います。
もう一点は、学習規律やルールは確かに必要だけど、子どもたちへの指導の仕方は考えなければならないということ。「こうしましょう」と言われても、子どもはできないから困っているのです。現状と目指す先、その間にあるプロセスをきちんと把握し、プロセスに価値を置いて子どもと一緒にやろうとすることが大事です。
「こうなったら、楽しいと感じる人が増えると思うんだ。だから、先生と一緒にそこを目指してやっていこう」と言うのと、「こうしなさい。これがルールです」と言うのでは、同じ内容でも子どもが受ける印象には雲泥の差があります。
南 さきほど(前編参照)、担任が注意すべき3つ目のポイントとして挙げた「ルールやマナーは示す」というのは、そういう意味です。教師が目指すべき姿を示さないと、子どもたちは何をすればよいのか分かりません。
インクルーシブな学級づくりに限らず、子どもとつながることは何事においても基本です。生活視点をベースに子どもたちとつながることが、4月、最初にやるべきことではないでしょうか。
昔から言われる「難しい子とはまず遊べ」が、若い先生方にとって、生活視点で子どもとつながる一番簡単な方法なのだと思います。

青山 はい。生活実感でつながろうというのが基礎中の基礎です。しかしながら一緒に生活していると、生活実感のつながりだけでは、どうにもならない課題に直面します。そんなときは、もう少し踏み込んで、考え方を聞くことです。そして、そうするときのポイントは、「共感と理解は違う」という見地に立つことです。
例えば、ある子が友達を殴りました。その理由が「相手が少しでも悪いことをしたら、やっつけてもよい」と考えていたからだとしたら、どうでしょうか。共感はできないけど、考え方なら努力すれば理解できるはずです。このように、考え方を理解しようとしないと、つながりにくい子たちもいるのです。「相手のことを考えてごらん」と、学校の価値観で迫っても絶対につながることはできません。
「共感と理解は違う」という見地に立って、「どういう考え方なのだろう?」と、プロとしてつながりにいくのです。すると「初めて僕の考えを聞いてくれる大人が現れた」とその子が感じ、そこからつながれる場合があります。
大人たちのインクルーシブとセットでなければ機能しない
南 そうですね。共感しようとするときは、子どもとの距離を近づけますが、理解しようとするときには俯瞰してみるといいと思います。「そう考えるんだ。へえ、おもしろい。でも困るけどなあ…」という感じです。
子どもを理解しようとするとき、出来事としてではなく、「ストーリー」として理解することも大切です。ストーリーが理解できないと、例えば、自閉症スペクトラムの子どもの行動は理解しづらい。なぜなら、彼らは完全に自分のストーリーで動いていますから。「テレビを見たい」と言われれば、「見たいよね。じゃあ、いつ見ようか?」と、その子のストーリーに一度乗っかるようにします。
青山 さすが南さん。では、僕からも、若い先生方でもすぐに使えるスキルを1つ紹介しましょう。それは、この刺激に対して、こう反応してしまうなら、刺激自体を変化させる必要性があるのではないかという視点をもつことです。
例えば、教室にボールを置いておくから教室内でボールを投げる子が出てくるわけで、事前に除いておけば、問題は起きません。子どもたちにマイナスの刺激を与えるものは他にもないか、私が刺激となって子どもを興奮させているのではないか、と考えるようにするのです。
だから、環境調整は大切です。朝から教室がゴミだらけだったら、当然子どもたちはゴミに反応します。どんなに辛くても、放課後に頑張って掃除をして、机もきれいに磨いて、黒板に「おはよう」などのメッセージを書いてから帰宅する。多少の時間はかかっても、その刺激は子どもたちに必ずプラスの反応をもたらします。
その際にできれば、他の先生方も手伝って、何人かで笑い合いながら掃除してほしいのです。
孤立させてはいけないのは、子どもだけでなく、教師も保護者も地域の人も同じで、インクルーシブな学級は、大人たちのインクルーシブとセットでなければ機能しないのではないでしょうか。
