テストでバツになるのは悪いことではない!? ポジティブに捉えよう!ー松丸亮吾さん【みん教×EDUPEDIAコラボインタビュー】後編

関連タグ

2023年4月に謎解きの楽しさを活かした学習法で、考える力の素地となる”地頭力”を育てる塾「リドラボ」 を開校した謎解きクリエイターの松丸亮吾さんに、勉強の本質について伺いました。子供たちを勉強嫌いにせず、課題に対し“ひらめき”を頼りに楽しんで解決する力を育むという新しい教育の試みです。後編は、学校教育の課題と希望について語っていただきました。また、同時期に上梓された書籍『松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て』(小学館)についてもお話しいただきました。

前編の記事はコチラ▶︎子供を勉強嫌いにしないために最初に学ぶべきスキルとは?ー松丸亮吾さん【みん教×EDUPEDIAコラボインタビュー】前編

勉強の「順位制度」と「数値化」は自己肯定感を失う元凶 
バツを乗り越えられるか?

──なるほど、思考力と主体性がつながる瞬間みたいなものが、今、見えた感じがします。自分でできるかもと思うことは、自己肯定感にもつながっていきますね。

松丸 そうですね。自己肯定感はすごく大事で、 勉強が苦手になる子って、バツが付き始めて、ほかの人と比較して成績が低いとなった時に「自分ってダメなんだな」ってなったり、「苦手だからやりたくない」ってなるわけですよね。

大体小学3年生頃が一番の峠と言われているんですけれど、 1年生、2年生ではあんなに丸が付いて楽しかったのに、3年生になったら覚えることが多くなってバツが付く。子供にとって、このバツを乗り越えられるかどうかっていうのが、すごく大きくて……。で、学校のテストでは100点満点に対しての数値がはっきり出ちゃうので、そこで劣等感が生まれ勉強が嫌いになる。 この仕組みが良くないなと思います。

リドラボの場合、人と比較して評価する塾ではなく、あくまで過去の自分がもっていた能力測定の結果と比べて、それが授業を通してどう高まったか、どう伸びたか、を見ます。つまり自分の得意分野がどこで、逆に克服していきたい部分がどこかを、一人一人パラメーターごとに過去と照らし合わせていきます。これも、勉強の大切な本質だと思っています。

学校の勉強って、人と比較して自信をなくしたりするじゃないですか。でも、本来勉強って知らなかったことを知ることができるようになっていれば、オッケーですよね。できなかったことができるようになっていれば、それは勉強です。

僕がよく、成績が悪くて落ち込んでるって子に話をするのは、「君は、そのテストを1年前に受けたら、何点だった?」ってことです。つまり、テストを受けた結果、45点だったとしても 、1年前にこのテストを受けたら、絶対に0点だったわけですから。「今45点分勉強した。残りの55点をどうすれば伸ばせるか?」と考えればいいだけだと思うんです。

逆に、「学年で202番だった、次は200番を超えるぞ!」みたいな他人との比較って、勉強の目標としても勉強効率としてもズレているのでは、と疑問に思うんです。

だから、リドラボの中では、あくまでも過去の自分との比較でしか能力は語れないと思っていて、それも重要なコンセプトの1つです。

──他者比較ではない“学びの主体性”を、現在の学校現場に導入するとしたら、例えばどういう工夫があると思いますか。

リドラボ開校イベントの様子

松丸 「順位制度」って残酷だなと常に思っていて、例えばスウェーデンでは、横並びの能力比較って、子供たちにほとんどさせないんですよね。

順位を出してしまうと、上位の一部の人たちは嬉しいんですけど、それ以外の人にとってはどうしても劣等感が植え付けられてしまいます。結果、一握りの人にしか向上心を植え付けられないんです。そういう意味でも、順位教育はあまり良くない教育法だな、と個人的には思います。

先生が工夫できることとしては、難しいとは思いますが……例えば 「順位をあんまり肯定しすぎない」っていうのと、「バツが悪いことじゃないということをいかに教えるか」の2つかなと思います。

バツがあって当たり前だと僕は思っていて、逆に全部マルの試験って、受ける意味ないじゃないですか。テストって苦手なところの診断みたいなものですよね。「テストで診断をした結果、あなたの伸ばせるところが見つかりました」と、ポジティブに捉えてほしい試験なのに、それを「バツが〇個、うわっ! 全然ダメだ、自分!」みたいに捉えてしまう。本来そういうものではないはずなんですよね。そのテストの点数で成績が決まって、内申点が決まるのも、よく考えたらちょっと変ですよね。それで、内申点が出て、また差がついて、多くの人にとっては、やればやるほど勉強を好きになるチャンスが奪われていると思うんです。

自己肯定感を大切にしながら
「非認知能力」を「認知できる力」に変換したい

──人と比較しないで、過去の自分と比較してどれだけ成長したかを見るっていうのは、今の学校教育では十分にできていない部分なので、すごく大切だなと思いました。謎解きと学校教育との大きな違いは他にありますか?

松丸 僕が「謎解き」に関して大事にしているのは、問題をパターン認識で解くことができないように、なるべく初見の問題を多く提供するようにしていることなんです。 あくまで、その答えをひらめくまでのプロセスを繰り返し体験することが大事だと思っているので。

対して、学校教育の場合、教科書にその解法が載っていて、最初にそれを読み込んで、こう解けばいいんだなって分かった上で反復する。なので、実際は0からひらめいてはいないんです。そこが大きな差だと思っています。自分で気付けた、自分で解いた、という感覚。つまり、「自分で何かを考えれば、アクションを起こすことができる」っていうのが、一番持ち帰ってほしい体験だと思っています。

──それは非認知能力ということでしょうか?

松丸 広い意味では、非認知能力になると思いますが、リドラボのSPECC(スペック)をもとにしたカリキュラム自体が、非認知能力を認知できる形に変えていこうっていうコンセプトなんです。

非認知能力の1つである自己肯定感は、結果としてついてくるものですが、いわゆる発想力や、多角的思考など、「非認知能力の中で、認知能力に転換できる部分を明らかにすること」を、リドラボでは目的にしています。

非認知能力に関しては、本当にいろいろな研究が進んでいます。例えば、幼少期に教科学習だけでなく、非認知能力に関しての学習を受けている子と受けていない子で、大学卒業後の収入や職業に明確な影響が出るというデータもあります。ですから、非認知能力に関しても積極的にアプローチしていきます。ですが、あくまでそれを認知できる形に変換することを最終目的としているということです。

SPECC(スペック)…リドラボを運営するRIDDLERが提唱する、「地頭力=考える力」を構成する5つの能力。多角的思考力、論理的思考力、発想力、試行錯誤力、解釈表現力の5つ。

──数値化できない能力、つまり非認知能力を高めることって、具体的にどんな方法があるんでしょうか。

松丸 僕の場合だと、小さい頃よくやってたのは、新しい遊びを考えるとか。鬼ごっこや、かくれんぼなど、みんなが知ってるような遊びをちょっと改造して、こういう遊びにしたら面白いんじゃないか?と発案していました。

例えば僕、「文房具バトル」っていうのをクラスで流行らせたんです。元々 “消しゴムを飛ばして、相手を落としたら勝ち” みたいなゲームはあったんですけど、シンプルすぎて面白くないなと思って、 組み合わせOKにしたんです。「消しゴムと鉛筆を組み合わせて輪ゴムで留めて」みたいな。ただ、どんなにパーツを組み合わせてもいいけど、1パーツでも外れたら負けっていうルールも付けて。

これって今聞くと、ただの子供の遊びだよねって気もしますが、実はポケモンのカードゲームにしても、 すごく似た発想で作られていることが最近分かりました。組み合わせて強化することや、勝ち負けのパワーバランスを考えて戦略を練るというのは、実はゲーム作りの基本発想らしいです。

教育現場の先生へ 
子供たちの幸せな教育のためにできることを共に

──小学校で実施する、謎解きプロジェクトというものも実施されていますね?

松丸 はい。全国の小学生の子たち向けに、 <謎解きやろうプロジェクト>っていうのをやっていて、これはもうほぼ原価で利益はほとんど関係なく謎解きをご提供しています(笑)。学校中に問題の紙を張って、 30分間でマックス50問の問題を解きます。チームに分かれて、子供たちが探検しながら問題を見つけて、解いて、解答欄に書くというオリエンテーリング的なものです。これがまた、1位になる子が勉強は苦手だったりして、すごく面白いんです!

いわゆる勉強ができるっていうのと、地頭の部分っていうのは、実は相関関係がそんなにないのかもと思ったりしています。

ある学校で1位になったのは、サッカー少年で走るのが好きな子なんです。サッカーっていろんな戦略を考えたりもするわけじゃないですか。どうすれば最も効率よくシュートが打てるか?とか。その子は、<謎解きやろうプロジェクト>でも、 適切な場所に人を配置して、こっちから回って、あっちから回ってって、作戦を立ててみんなに指示していたらしくて。そういうリーダーシップ力って、勉強だけでは測れないですよね。

こちらのプロジェクトは、まだ学校単位で募集を受け付けていますのでぜひご応募ください!

謎解きやろうプロジェクト……松丸さん率いるRIDDLERが提供している、小学校の校舎を会場として使った謎解きウォークラリーイベント。申込期間を延長して受付中。ご応募はこちらから

──松丸さんの新著『答えがない時代の新しい子育て』の中で、学校の先生に特に読んでほしいと思う部分は?

松丸 第2章の探究学舎代表・宝槻泰伸さんの「今の学校の勉強は苦行。それをエンタメにする!」という話は、絶対ヒントになると思います。

あと、すごく面白かったのは、第7章の元・麹町中学校校長で現・横浜創英中学高等学校校長の工藤勇一さん。 「試験を無くしたら、成績が伸びた」みたいな話はとても面白かったです。担任制廃止とか、もうホントにすごいと思いますね。実際に結果も出していらっしゃるので、もっといろんな学校の改革をお願いしたいぐらいです。

第8章の教育経済学者・中室牧子さんの話「親が『子どもの能力は伸びる』と理解するだけで学力が向上。そんなデータもあります」は、今まで当たり前だと思っていたことが全部否定される感覚が面白くて、学術的なエビデンスがきちんと存在してる大発見ですね。絶対読んでほしいです。

──最後に、全国の先生方に一言お願いします。

松丸 10年後、20年後、リドラボに通った子供たちがどんな人になるのか、僕自身楽しみにしています。先生方にもリドラボでやっていることが1つのヒントになればいいなと思います。逆に先生が教育現場で感じていることも、リドラボにぜひフィードバックいただきたいです。

子供たちが、どういう教育を受けたら最も幸せになってくれるかなって、一緒に考えていくことが、僕は大事だと思うんです。“親に言われてたくさん勉強して、良い大学に行くことはできたけど、そこからやりたいことが見つかりません”のような、親の期待と子供の心のギャップがある教育って、もったいないですよね。

今の教育環境をより改善していくために、教育機関や塾など、いろいろなところが手を取り合って情報共有していければ、もっともっと素敵な社会になるかなと思うので、ぜひ僕らに何かできることがあれば、そして僕らに伝えたいことがあれば、何でも教えていただきたいと思います。

──ありがとうございました。

<参考URL> 
リドラボ edu.riddler.co.jp/ridlabo/

松丸亮吾/まつまる・りょうご
東京大学に入学後、謎解き制作サークルの代表を務め、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている〝謎解き〞の仕掛け人。監修の書籍『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)は累計185万部以上に。現在は「考えることの楽しさをすべての人に伝える」を目標に東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともにあらゆるメディアに謎解きを仕掛けている。


『松丸くんが教育界の10人と考える 答えがない時代の新しい子育て』

著/松丸亮吾 小学館刊

謎解きクリエイター・松丸亮吾さんと教育界の10人のカリスマたちとの対談集。

【対談者】高濱正伸さん(花まる学習会 代表)/宝槻泰伸さん(探究学舎 代表)/藤本徹さん(ゲーム学習論研究者)/石戸奈々子さん(CANVAS代表)/齋藤孝さん(教育学者)/中島さち子さん(数学者・ジャズピアニスト)/工藤勇一さん(横浜創英中学・高等学校校長)/中室牧子さん(教育経済学者)/小宮山利恵子さん(スタディサプリ教育AI研究所所長)/篠原菊紀さん(脳科学者)
これからの社会で生きるための子育てについて、リアルな教育現場や世界の実証データをもとにした説得力ある教育論が満載です。


取材/武村愛雛・並木未菜・千葉菜穂美(以上、EDUPEDIA編集部)
写真/五十嵐美弥(小学館)
文・構成/田口まさ美

●これと関連したインタビュー記事が「EDUPEDIA」でも配信されます。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました