自分の心の状態をコントロールするには?【伸びる教師 伸びない教師 第30回】
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今回のテーマは、「自分の心の状態をコントロールするには?」です。教師として発する言葉は子供にとって重く、一生に関わることもあります。しかし、教師にも心に余裕がない時があります。日々、心の状態を把握し、コントロールすることが大切だという話です。豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載です。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を歴任。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
伸びる教師は自分の心の状態をコントロールし、伸びない教師は自分の感情をそのまま相手に向けてしまう。
目次
20年経っても教師の言葉を忘れない
以前、5、6年生を担任した教え子から連絡がありました。結婚や就職で地元を離れる子がいるので送別会を開くとのことでした。
送別会当日、教え子たちとは久々の再会でしたが、ごく自然に話をすることができました。
看護師として患者さんと向き合う子、自分の夢を追いかけ東京に行った子、教師として日々子供と格闘している子など、みんなそれぞれの人生を歩き始めていました。
お酒が進むにつれ、近況報告から昔のことへと話題が移りました。
「あの時、けんかして先生に叱られたよね」
「女子が強くて、いつも男子が言い負かされていたな~」
など、当時のよもやま話に花が咲きました。
話を聞きながら,子供たちは20年近くたった今でも、私が言ったことを実によく覚えていることにびっくりしました。私がかけた言葉だけでなく、しぐさや癖、着ていた洋服まで克明に覚えていました。
「良くも悪くも、子供にとって教師という存在は大きい」
そんなことを改めて思いました。また、同時に教師として発する言葉の重さも感じました。
教師の一言で救われる子もいれば、一生消えない傷を負う子もいます。昔の自分はそんな言葉の重さを知らず、自分の感情をそのまま言葉にして子供たちにぶつけていただけだったと反省しました。
日によって機嫌が違うことに気付く
当時担任していた子供の保護者からこんなことを言われたことがありました。
「最近娘が、先生の機嫌が悪くて叱られてばかりって言うんですよ。先生だって人間なんだから、忙しくて疲れている時もあるでしょうと、言い返してやるんですけどね」
今考えると、保護者の方は冗談交じりに私に何かを忠告してくれたのかもしれません。
その当時の私にはプライベートで心配事があり、気持ちが安定していない時期がありました。自分では、プライベートのことを仕事に持ち込んでいないつもりでしたが、学級の子供たちには伝わっていたのだと思います。また、自分ではその日の機嫌で指導を変えることは絶対にないと思っていましたが、そうではなかったということもわかりました。
それからというもの、自分にはその日その日で機嫌があるのだということを受け入れるようにしました。
そうすると、毎日していることでも日によって感じ方がまったく違うのだということに気が付きました。朝、目覚めがよく、すっと布団から出られる日もあれば、学校に行くのが億劫で布団から出たくない日もあります。
そんな布団から出たくない日は、学校に行っても子供たちのできない部分ばかりが見えてきました。
「宿題を忘れました」と言う子供に対して、機嫌の良い日は「後で提出してください」と軽く流すのですが、機嫌の悪い日は「この前も忘れたよね」「どうしてできなかったか理由を説明しなさい」などとしつこく問い詰める自分がいました。
どちらの指導がよいかは別として、このように教師の機嫌で態度や対応に一貫性がないと、学級の子供たちの気持ちを不安定にさせてしまいます。
心に余裕がない日はゆっくり歩く
今は、その日の自分の機嫌の良し悪しを察知するよう心がけています。
例えば、朝、正門から職員玄関まで歩く間の心持ちでわかる時があります。
心に余裕がある日は、歩きながら、咲き始めた花や色付きはじめた葉、鳥のさえずりなど周りの景色に目が向き、さわやかな気分になります。
余裕がない日は、景色を眺めるゆとりもなく、次々と終わっていない仕事が頭に浮かんだり、意味もなくため息が出たりします。
私の場合、「今日は心に余裕がない日」だと気付いた時には、いつもより「ゆっくり歩く」「相手の話を最後まで聞く」「丁寧な言葉で話す」などを心がけています。
人と関わることが仕事である教師という職業において、自分の心の安定を保つことはとても大切なことです。感情の起伏を少なくすることは、学級の子供たちだけでなく、周りにいる人みんなを安心させることにつながります。
ただ、教師も人間です。体調がすぐれない時もあれば、忙しくて心に余裕がない時もあります。そんな時、一歩間違えると体罰や暴言につながってしまう危険性があります。
一時の感情で、相手の心や体を傷付け、教師として一生取り返しのつかないことになる前に、自分なりの方法で心の状態を把握し、コントロールすることが大切です。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。