「教育機会確保法」とは?【知っておきたい教育用語】

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不登校児童生徒などに対する教育機会の確保を目的とした教育機会確保法(正式名称は「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」)。その制定の背景や、今後の課題について解説します。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

教育機会確保法制定の背景

日本では、憲法や教育基本法などの法律で、国民に等しく教育を受ける権利が保障されています。しかし、十分に学校教育を受けているとはいえない不登校児童生徒数が増加の一途を辿っている状況があり、また、戦後の混乱期に生活困窮のために十分に義務教育を受けられなかった義務教育未修了者が一定数います。このことを踏まえて、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」いわゆる「教育機会確保法」が平成28年に制定されました。

この法律が制定された前年、平成27年度の義務教育段階の不登校児童生徒(年度間に「欠席日数」30日以上)は約12万6000人で、そのうち年間の欠席日数が90日を超えている者が約7万2000人でした(文部科学省、平成27年)。年々増え続ける不登校児童生徒が、安心して教育を十分に受けられるような教育施策を進めてきているにもかかわらず、その改善が図られない状況がありました。

また、平成22年に行われた国勢調査では、戦後の混乱期に生活困窮などの理由から昼間に労働や家事に従事しなければならず、学校教育に十分に通うことができずに義務教育未修了である者が約12万8000人いることが確認されました。義務教育未修了者には、夜間等、特別な時間に学校教育を受けることができる仕組み作りが求められていたわけです。

教育の機会の確保に関する基本方針

平成29年3月には、この法律の趣旨を実現するための施策を進める上で基本とする考えをまとめた「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本方針」が文部科学省から出されました。基本方針では、不登校児童生徒と上記の義務教育未修了者の2者を対象とした教育機会の確保のための施策を進める上でのポイントが具体的に示されています。

例えば不登校児童生徒の多様で適切な教育の機会として、不登校特例校や教育支援センターの設置について、自治体で促進することが示されています。同様に、義務教育未修了者や不登校生徒等の多様な生徒の受け入れ先として夜間中学の積極的な設置を自治体に求めています。

教育機会確保法制定後の状況と課題

教育機会確保法の施行から3年を経た令和元年6月には、文部科学省より「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律の施行状況に関する議論のとりまとめ」が出されました。そこには、この法律施行後に設置された不登校特例校は2校で、全国で12校にとどまり、また、夜間中学は法律施行時全国31校だったところに2校が新設されたとあります。不登校児童生徒と義務教育未就学者を受け入れる特別な措置の学校の設置は不十分だと指摘しています。

その後の経過に目を向けると、不登校児童生徒については、令和4年度には19万6127人とさらに増加しています。特例校は令和4年度には全国で21校に増えていますが、特例校に通学できない児童生徒の対応も含め、教育支援センターやフリースクールなどの民間の団体との連携の重要性が改めて確認されています。

夜間中学については、全ての都道府県への設置、同時に夜間中学へのスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置も積極的に取り組むことが今後の課題となっています。

▼参考資料
文部科学省(PDF)「児童生徒の問題行動等生活指導上の諸問題に関する調査」平成27年
文部科学省(PDF)「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本方針」平成28年
文部科学省(PDF)「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会等確保等に関する法律の施行状況に関する議論の取りまとめ」令和元年

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