小学校理科の「ものづくり」の役割 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#22

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

理科の授業では、昔から「ものづくり」をすることが多くありました。私が子どもの頃も「ものづくり」という言葉はなかったものの、実際いろいろなモノを作っていました。以前の記事でも書いたように、私が理科に興味をもつようになったのも小学校2年生の「ものづくり」体験です。私にとっても非常に思い入れのある「ものづくり」ですが、現在はどのようになっているのか、ご紹介していきたいと思います。
単にモノを作れば良いというわけではありません。「ものづくり」を通して子どもたちに “考えさせる” ことが大切になるわけです。では、「ものづくり」を通して、どのようなことを考えさせるのか、そして、それにどのような役割を担わせるべきなのかについて、述べていきたいと思います。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.ものづくりとは

「ものづくり」とは、理科の授業の中で子どもが実際に考えながら製作する活動を指します。各学年ともに「A 物質・エネルギー」の領域において、2種類ないしは3種類以上「ものづくり」をするようにと学習指導要領で規定されています。

これは一般的な授業で行われるような実験や観察での活動とは別で、主に以下の3つのパターンがあります。

①授業後に、学んだことを使ってものづくりを行う場合
例:「水は温められると体積が大きくなる(温度によって体積が異なる)」という学習を利用して、温度計を作る
②学習に入る前に実際にものを作ってみてから自然事象の不思議を感じるためにものづくりを行う場合
例:ふりこの授業に入る前に、1秒ふりこをつくってみて「ふりこ」の規則性を知る
③ものづくりをしながら授業を進めていく場合
例:電気や風やゴムの働きの教材キットを使って学んでいく

一般的には、教科書には「これが 『ものづくり』 です!」とは示されていませんが、教科書の単元の中や、巻末に掲載されています。

上述①のパターンの場合ですが、学習指導要領解説理科編には以下のように書かれています。

学んだことの意義を実感できるような学習活動の充実を図る観点から,児童が明確な目的を設定し,その目的を達成するためにものづくりを行い,設定した目的を達成できているかを振り返り,修正するといったものづくりの活動の充実を図ることが考えられる。

つまり、まずは設計図を作ることを通して、「何のために」「何を」作りたいのかという、「ものづくりの目的」を決めます。そして、その目的に対して「どのような学んだことを活用するのか」を明らかにしてものづくりを行うことが大切です。

これは、「とにかく体験する、ものを作ること自体が大切なんだ!」という考えのもと、子どもたちに何も考えさせず、教科書に載っているものづくりの例や、教材キットをプラモデルのように単に作らせるだけではダメということです。

2.ものづくりの役割は

ものづくりの役割として、私は主に、A.学習したことを生かす(知識等の活用)、B.目的をもって取り組む(主体性が生かせる学習場面づくり)、C.理科の日常生活での有用性の理解、があると考えます。

A.学習したことを生かす(知識等の活用)

授業の中で学んだことを使って、自分の作りたいものを作ります。上述ではのパターンになりますが、学習後に、設計図を作って自分の目的に合わせものづくりをしていきます。その際、「どのような学んだことを使ってものづくりをするのか」ということを明確にしてものづくりの活動を行います。

学習後にものづくりを行うことで、学習したことが何だったのかということを再度思い出すという、振り返りの機会をつくり、知識を理解するだけではなく活用する機会をつくる役割として機能しています。

B.目的をもって取り組む(主体性が生かせる学習場面づくり)

目的をもって取り組む。つまり設計図を使い、材料を選びながらものづくりに取り組むことは、自分事としてものづくりに取り組むことを意味します。人によって出来上がるものが異なってくるわけですから、「自分だけのもの、より良いものを作りたい」という気持ちが、ものづくりでは強くなると考えられます。このように、学んだことを使って主体性を発揮する学習の役割として機能しています。

C.理科の日常生活での有用性の理解

ものづくりは、日常生活にあるものを自分で作ってみるということも多いです。実際に「どのような仕組みで作られているのか」ということを学ぶことができます。このことは、理科で学んだことが日常生活で生かされていることの理解につながり、日常生活での理科の有用性を理解する役割として機能しています。

3.どのような「ものづくり」の授業をする?

Ⅰ.授業後に学んだことを使うものづくり

上述のパターン①になりますが、ここでは設計図を作成するポイントについて説明します。ものづくりをする際、設計図を作ることが比較的多くの実践で見られます。しかし、そこで差が出るポイントとして2点あります。

1つめは、設計図の中に「何を作りたいのか」だけではなく「何のために作りたいのか」という目的が示されているかということです。これが書かれていることで、「自分はこうしたいんだ」という自分の意思が表現されることになります。逆にこれを書かせることがなければ、教科書に書かれているものをそのまま写し、何も考えていない場合であっても、ものづくりができてしまうことになります。
このように、子どもに「何のために作りたいのか」まで考えさせることで、主体性を高めていくことが大切なのです。

2つめは、どのような「学んだこと」を使ってものづくりをするのかということです。学んだことを使ってものづくりをするわけですから、これから作りたいものが「学んできたどのような知識やしくみを使っているのか」を子どもたち自身に確認させていく必要があります。このように、「学んできたどのような知識やしくみを使っているのか」を子どもたち自身に確認させることで、学習の振り返りや日常のモノと学習を適用できる力の育成、モノの仕組みの詳しい理解をすることが大切なのです。

設計図の中に上述の2点を書かせることで、目的をもって考え、ものづくりをすることに繋げていきます。

Ⅱ.教材キットを使って学習を進める場合のものづくり

私の場合は該当学年の最小限の教材を購入し、余計な遊びの要素が含まれているキットは購入してきませんでした。なぜならば、教材キットを使う場合は子どもたちに何かしら考えさせながらものづくりをしていく必要があり、考えさせずつくるだけでは遊びになる場合があるからです。

例えば3年生では、豆電球と電池、ソケットの3つを使ってどのような回路だと豆電球が点灯し、どのような回路だと豆電球が点灯しないのかということを体験を通して学びます。このとき、単に電池ボックスに電池を入れ、導線をつないで「豆電球が点灯したね」と操作させるだけでは、子どもたちにとって何も考える機会がないわけです。本来ならば、電池のどこの部分に触れたら豆電球が点灯するのか、導線が繋がっていない場合は絶対点灯しないのか、といったことに着目させながらものづくりをしていく必要があるわけです。それ以外のキット教材を使う場合は、うまく授業づくりを考えないと単なる遊びになってしまいます。

また、5年生や6年生で電気を使った車のキット教材を使用する場合でも、車を作って単に競走させるだけでは遊んでいるだけになります。5年生であれば、電磁石に関わる学習内容を行う必要があるため、車を作るならば、車を作ることと電磁石の学習がどのように関係しているのか理解した上で使用する必要があるでしょう(ちなみに私は、電磁石を作る材料のみ購入)。6年生の車のキット教材であっても同様で、本来ならばエネルギーの変換の学習や省エネに関する学習が6年生ではあるわけですが、その内容と車のキット教材とどのように関係しているのかを理解する必要があります。 教材キットは、採用段階でどのように使うのかを考える必要があるでしょう。

「進め!理科道」は、隔週金曜日に更新いたします。

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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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