新しく女性管理職になったあなたへ 【連載|女性管理職を楽しもう #1】
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学校の女性管理職の数はまだまだ少ないですが、女性管理職だって「理想の学校」をつくることができます。前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生が、女性管理職ライフを楽しむコツを伝授します。
第1回は、<新しく女性管理職になったあなたへ>です。
執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子
目次
はじめに
新年度から学校管理職として昇任、採用が内定した皆様、おめでとうございます。せっかくのキャリアですから、すてきな学校づくりに楽しく邁進していただきたいと願います。学校は子どもたちが幸せを自分の手でつかむために学び、自分も他者も大切にされる存在だと実感できる場所。安心して失敗し、学び、育つことができる場所をつくる仲間として、心から歓迎するとともに、応援します。今月から、6回にわたり、みなさんに伴走します。質問や相談も歓迎します。どうぞよろしくお願いします。
川を下りながら……
私事になるが、先日定期的に通っている病院で、二十数年前に中学生として自分が担当する部活動の部長だった子と再会した。今は2人のお子さんを育てながら看護師として働いているワーキングママだ。後で待合室の私のところにやってきてくれた彼女と短い時間言葉を交わした。
「先生、今校長先生なんですってね。すごい! バリキャリ。かっこいい。昔から校長になろうと思っていたの? あの頃から野望があったんですか?」と尋ねられて思わず、あはは、と笑ってしまった。中学生だった彼女から見ると、当時の管理的な色彩が強い学校において、私はどちらかというと「自由人」。当時の学校管理職と私のイメージが結びつかなくて驚いたのだろう。それにしても、バリキャリとか野望という言葉と、今の自分が全くそぐわなくて可笑しい。
キャリアには「山登り型」と「川下り型」があると言われている。山登り型は、最初から独立するとか、社長になるとかの目標をもって、その目標達成のために努力や経験を積むタイプ。弁護士や医師などを目指す人はゴールが明確だ。漫画の島耕作も山登り型かもしれない。山登り型で目標を定め、キャリアをスタートさせた場合、別の仕事をする時には一度山を下りなくてはならないというリスクもある。一方、川下り型は、環境や出会いがキャリアを作るタイプ。カヌーでゆるゆると川下りをしながら、気になった平瀬で船を降り、陸で暮らしてみたり、また船に乗って別な場所へ、というように、自分の好奇心や状況にまかせて柔軟にキャリアを積んでいく。その後、ある程度の年齢と経験を積み、このフィールドで高みを目指そうと山登り型にシフトする人もいる。
私自身はまさしく後者。自分が専攻していた美術の面白さを伝えたくて美術教師になった。途中教科指導以外にも学校図書館経営や「総合的な学習の時間」のカリキュラム・マネジメントに興味を持ったり、出産や子育てを経験し、学校を親の視点で見ることもできた。一番大事にするものも、その時々で少しずつ変わっていった。
そもそも、教員を志す若い人が最終ゴールを「校長」に置くというのはかなりのレアケース。学びの楽しさを伝えたい、子どもたちを支えたいという願いから教職を志す方がほとんどであろう。そして年を重ねて、気づくのだ。「理想の学校、いい学校をつくりたいなと願っている自分」に。
あなたのありかたで管理職を楽しもう
昔、女性管理職がきわめて少なかった時代、校長になった女性の中には、服装から言葉遣いまで、いわゆる「男のように」振舞った方もいた、と聞いたことがある。女のくせに、女の分際でという言葉が横行していた時代だったのだろう、職員や保護者、地域の人や他の校長や児童生徒から、なめられないように、と。重圧だったのだろうな、と当時の女性管理職の方をねぎらいたい気持ちになる。けれども今は、(世界的には日本は大きく遅れているけれど)民間には女性の役員管理職も多く、成果をあげている会社やNPOもたくさんある。学校はまだまだ女性管理職が少なくて残念な状況だが、少ないということは、確固たるロールモデルがいないということでもある。だからあなたのありかたで、管理職の一歩を踏み出してみよう。自分に似合う色とスタイルのスーツを買おう。管理職は大人と対応することが激増するので、キャリアにあったスタイルは必要。名刺入れやネームホルダーも自分のテイストで用意するといい。形から入ったっていい。楽しそうな大人は、子どもたちにとっての素敵なロールモデルになるから。そして、あなたのご家族にとっては、あなたの存在は誇らしいもののはず。言葉で表されなくても、応援されていると感じることがあるはず。
あなたにはミッションがある
心の準備がすこしできただろうか? 大事なのは、「なぜあなたは学校管理職になったのか」という問いに、いつもシンプルに答えられるように、ゆるぎない軸が自分の中にあると確認すべし、ということ。それから、勤務校が決まったら、「あなたにはどんなミッションが課せられていて、どんな結果をださなくてはならないか」ということをしっかり引継ぎ整理すること。私の立てた軸は、「子どもが主語の学校を作る」だったけど、その時々に押し寄せる事案や、解決しなくてはならない課題に、時に心折れそうになることもあった。だけど、立ち返るところを再確認し、一つ一つ進めていくこと。すてきな学校をつくるのは、あなた。
あなたが校長の場合は、学校はあなたのものではない。ひとりで校長室に閉じこもらないで。自校スタッフと対話し、児童生徒の姿をよく見て、保護者や地域の人たちの思いを聴き、最適解を出して行動して。副校長、教頭や部下はあなたの家来ではない、と自覚してほしい。
副校長、教頭になったあなたは、よい組織を作る要は自分だということを忘れずに。子どもたちを、スタッフを、そして校長を孤立させないようにする気配りは大変だと思われるかもしれないけど、旅館の女将さんみたいに、学校の在りようを最先端で感じとれるのはあなただ。
私は、外の人から「よい学校だね」と褒められたら、それは自分ではなく副校長・教頭の尽力のたまものだと考えている。
この春の、あなたのあたらしい一歩を祝福します。
<プロフィール>
森万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年勤めた後、2校で校長を勤め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名を持つ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。