学校を出て、校区を歩こう 【連載|女性管理職を楽しもう #2】

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元北海道公立中学校校長

森万喜子

学校の女性管理職の数はまだまだ少ないですが、女性管理職だって「理想の学校」をつくることができます。前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生が、女性管理職ライフを楽しむコツを伝授します。
第2回は、<学校を出て、校区を歩こう>です。

執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子

1ヶ月経って…

女性管理職の皆さん、管理職ではなくても学校で働く皆さん、お元気ですか。2023年は4月が土曜日から始まったので新年度の準備期間が短くて大変、という悲鳴があちこちから聞かれました。日数に余裕があってもなくても、気が急いて、緊張する4月を無事に終わらせることができてよかったですね。大型連休は少しだけゆっくり、リフレッシュできたらいいですね。私はゆっくり風呂に浸かっているときにアイデアが浮かんだりしました。

地域に出かけていますか

勤務先の学校の校区の様子は、自分の目で見て人と会って話してわかることが多いものです。学校管理職が地域の方々と交流する場面といえば、地域行事などで自治会長さんをはじめ地域の重鎮の方々と会うことが多いのでしょう。それも大事だけど、私は自分で校区をうろうろして、地域の人と会い、フラットに語り合うことが大事だと思っています。だから、仕事帰りに食材を買うのも校区のスーパーです。「あっ、校長先生、こんにちは」と声をかけてくださる親御さんがいらっしゃると、「学校、楽しく行けてますか?」、「何か気になることあったら遠慮なくお知らせくださいね」とか、何度か顔を合わせるお母さんとは「今日の晩御飯は何にしようかしら」なんて会話をすることもありました。表舞台に出てくることは少ないけれど、学校を支えてくれる人がたくさんいることに気がつくのです。

Kさんのこと

初めて校長になり赴任した学校での話です。教頭が「実は学校のすぐそばにお住まいの年配の方が時々学校に苦情を言われます。早朝出勤したら、玄関先で待っていらして、生徒が下校時にうるさいとおっしゃいまして……」と告げました。なるほど。そこで私は名刺をもってそのお宅を訪ねました。

「今年度からこちらに赴任しました。色々ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」。玄関先に出てこられたKさんは「どうせ、うるさい爺さんがいると聞いて来たんでしょう」と硬い表情。「いえいえ、中学校のそばにお宅があると、中学生が溜まってお喋りしたり、声がうるさかったり、どこの学校でもそういうことがあるので……子どもたちには指導しますが、私たちも気が付かないことがあるので仰ってくださいね」と話しました。

聞くと、下校時にきれいに除雪した敷地の雪の壁を蹴って雪を散らかす、大きな声を出すことなどがあったようです。「この近所は身体が悪くて自宅で介護されている人もいるし、夜勤で昼間休んでいる人もいるからね」と私たちが知らない情報も教えてくれました。

その後、出退勤の際にお見掛けすると、挨拶をかわすようになり、私が校門前の花壇の草取りをしたり、花を植えたりしていると「校長先生、熱心だね。コーヒーでも飲んでいかないかい?」と声をかけてくださるようになりました。

やがて秋になり、文化祭間近となりました。学校では文化祭の時にPTAがコーヒーやパンを販売します。私は、自作のコーヒーチケットを数枚作り、文化祭前日にKさんをはじめ、学校のすぐ近くの数件を訪問し「文化祭で合唱の発表などがあるのですが、お時間があったらおいでになりませんか? バザー会場でこのチケットを出してくだされば、コーヒーは無料です」と伝えました。もちろん、PTAの方には、「このチケットを持参した方がいたら代金はもらわないでください。あとから私が払うから」とお願いしました。

文化祭当日、体育館の後方にはKさんの姿がありました。体育館の後ろで生徒の合唱を聞いてくださっています。休憩時間にKさんに駆け寄りお礼を申し上げると「いやあ、中学生は立派だね。すごく楽しませてもらったよ」と言ってくださいました。私はその学校には2年間勤務しましたが、翌年の文化祭にもKさんはお越しくださり、前の年より長い時間観覧くださいました。離任の時に挨拶に伺うと「ここの学校の生徒は素晴らしいよ。変わったんだね」と仰いました。

子どもたちが変わったのでしょうか。私はKさんが変わったのだと思っています。そして、Kさんが学校の理解者、応援者になってくださったのは、学校の中の人、私たちのKさんに対する対応と見方が変わったから。困ったクレーマーじゃなくて、近くで学校を見守ってくれる友人になったからでしょう。地域の学校って、そんな風に、周りの人に支えてもらえる。ありがたいことです。

地域は学びの宝庫だ

今は教員不足で管理職でも授業を担当したり、担任を兼務する教頭がいるとも聞きますが、基本的に管理職は授業の時間に縛られない働き方ができます。会議や来客との面談、デスクワークもたくさんあるけれど、授業の時間に縛られないということは貴重なのです。校長は特に、自分の裁量で仕事の優先順位をつけることが可能です。だからちょっとの時間でも地域に出ていくようにしたらいいですよ。校区の人たちと顔なじみになり、学校の様子、実現したいビジョン、力を貸して欲しい事、そんなことがフラットに話せるようになるってすてきなことです。

実は、校区には「学校のために何かお手伝いしたい人たち」がたくさんいるのです。キャリア教育で仕事の話をしてくれる人、何かの分野のスペシャリスト、進路選択に役立ちそうな体験談や学び方のアドバイスをくれる大学生、教員一人ではてんてこ舞いしそうな家庭科のミシンや調理の実習のアシスタント、ガーデニングが得意な人等、地域にはすごい人たちがいっぱいいるのです。そんな宝がいっぱいあるのに、全て学校だけで抱えてなんとかしようとして、疲弊して、教育の質も上がらないなら勿体なさすぎです。コミュニティ・スクールが導入されていない地区や学校でも、地域とのよい関係性を作るのは今日からでもできます。学校の先生方は同質性が高くなりがち、そして内向きになりがち。外の人に何か言われるのではないか、と恐れることはない。地域と関わらずして、社会に開かれた教育なんて言えないですよね。女性はコミュニケーション能力に長けた人が多く、地域の縁の下の力持ちの人たちと仲良くなれます。

さあ、さわやかな季節だ、校区に出てみようよ。


<プロフィール>
森万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年勤めた後、2校で校長を勤め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名を持つ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。


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