夏のタスク ~ひと育てと働き方カイゼン~ 【連載|女性管理職を楽しもう #3】

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元北海道公立中学校校長

森万喜子

学校の女性管理職の数はまだまだ少ないですが、女性管理職だって「理想の学校」をつくることができます。前例踏襲や同調圧力が大嫌いな個性派パイセン、元小樽市立朝里中学校校長の森万喜子先生が、女性管理職ライフを楽しむコツを伝授します。
第3回は、<
夏のタスク ~ひと育てと働き方カイゼン~>です。

執筆/元小樽市立朝里中学校校長・森 万喜子

6月って疲れる

皆さんこんにちは、日本全国で梅雨明けを迎えた頃でしょうか。私の住む北海道には梅雨がないので、たまにこの時期、道外にでかけると、蒸し暑さに耐性がないため、すぐにバテます。

でも梅雨明けの夏空は格別ですよね。

さて、学校は夏休みが待ち遠しい頃となりましたね。私が現職の頃、中学生はこんなことを言っていました。「4月は入学や進級で新しい環境に慣れるために緊張するけど、連休を楽しみに頑張れた。連休明けは5月末の修学旅行とか宿泊研修などの旅行行事を楽しみに頑張った。でもね、先生、6月ってなにもない! 祝日もない! テストだけだよ! テストが終わったら部活の試合があって、だから6月って辛い。めっちゃ疲れる

なるほどね、と共感しました。同じように、この時期学校スタッフも相当疲れていますね。生徒はテストを「受けたら終わり」だけど、多くの先生方は採点や評価があり、通知表を作り、学期末の保護者会の準備や夏休みを控えての諸々。学校は夏休み中に様々な設備点検なども入るので、大型連休を取ることもままならない管理職の先生方もいらっしゃることでしょう。学校の大人たちも、6月は疲れます。

夏休み、仕込みの時間

私自身、特に教頭時代は、学期末は本当に忙しく、倒れこむように夏休みに突入していました。だけど、夏休みに入り、少し落ち着いてから「しまった。ここの仕込みをやっとくべきだった」とか「このタイミングで校内研修をいれておけばよかった」なんて後悔することもありました。夏休みは、日頃忙しくて大変だったぶん、職員の皆さんにはゆっくり休んでほしいと思う反面、この夏休みで下ごしらえをしておくと2学期以降の仕事が楽になる、とわかっていることも多いのです。そのためのひと手間を、ひとりじゃなくてみんなでやったほうがいい仕事を、できれば夏休みの前半にやっておくのが大事だな、と考えるのです。

たとえばICTの研修。1人1台端末の活用はほとんどの学校で定着しているだろうけど、他の自治体から転入した方、新採用の職員など、今まで使っていた端末とOSやアプリが異なるため、自信をもって使えない人はいませんか。誰かに聞けば解決するといっても、誰もが忙しそうな毎日、他人の手を止めさせてものを尋ねることを躊躇する人もいます。だから、時間をとって、みんなで研修をするのは有効。稼業日の放課後に比べると急な生徒指導や保護者対応も入りにくい。端末活用については、まだ苦手意識をもって尻込みする人もいるでしょう。私が勤務していた学校では「便利なものを導入する時、初めは面倒くさいです。覚えなくちゃいけないこともある。だけど、使いこなせるようになったら、仕事は格段に楽になります。やりましょう」と教務主任がいつも声かけして、よいタイミングでミニ研修をしていました。自動車運転免許みたいなものです。運転免許を取るのはお金も時間もかかるし、忙しい身には大変です。正直、面倒くさい。だけど、自分で車を運転できると、行動範囲は格段に広がるし、時間も有効に使える。最初のちょっとした面倒がその後の人生を楽にするなら、今やろうよ、ってことです。

学校の新陳代謝を促す、夏

化粧品のCMでは「お肌の角質を取り、ターンオーバー周期を整えます」というフレーズを見聞きしますが、肌の細胞が一定の周期で生まれ変わるしくみをさすようです。お肌の新陳代謝のことね。私が夏にお薦めするのは、学校のターンオーバー。つまり、備品や消耗品の点検と整理整頓です。たとえば、学校図書館の本、特別教室と準備室、教材室などをみんなで見て、「ここ、きれいにしちゃいますか!」というターゲットの場所を選び、スケジュールを組んで片付ける作業です。最も手を入れやすいのは「教材室」という名の「魔窟」です。誰のものでもない場所には、いろいろなものが漂着し、そして忘れられるのです。今となっては使えない古い地図の掛図とか、修理しないと使えない三脚とかパイプ椅子とか、行事のために作ったらしい道具とか、いろいろ格納されていませんか。全部、部屋から出して、掃除して、必要なものとそうじゃないものに仕分けする作業は、夏休みにぴったり。冷たい飲み物と作業用手袋を用意して、みんなでわいわいやりましょう。学校の財務、施設のプロであるリソースマネージャー、学校事務職員がリーダーとして活躍してくれるでしょう。さらに、この作業の効能は、もちろん部屋がきれいになるだけでなく、共同作業ができるという点です。経験年数の多寡も性別も職種も関係なく、みんなでできることはチームビルディングの基礎にはとても有効です。午前中で終わらせて、お昼には家庭科室のキッチンでそうめんなんかをゆでて、これも手分けして、ネギを刻んだり、つゆを作ったりしてランチにします。職場の雰囲気がぐっとよくなるので試してみてください。

若い人を育てる、夏

先ごろ、新任教諭の退職率が高くなっていることが報じられました。せっかく就いた教職を、希望や自信を失ったり心身の不調になったりして辞する人が多いのは胸が痛みます。学校現場自体に余裕がない今、初任段階の先生に対する目配り・心配りが薄れているようで気になります。みなさんの職場は大丈夫でしょうか。若い人たちは「わからない」が言いにくいです。忙しそうにしている人に「教えてください」が言いにくいです。勇気を出して尋ねたことに「普通はこのくらいわかるでしょう」と言われると傷つきます。2020年、新型コロナウィルスの影響で、教育実習ができないという事態が生じました。特例措置で、教員免許は取得できましたが、実習を経験せずに採用されて、現場に立つ先生方の不安感を想像すると同情します。でも今、多くの現場では、そのことすら忘れていないでしょうか。

この夏休み、なにもかも初めてだった初任者に、管理職がすべきこととして、①これから3月までにやるべき仕事と忙しさの度合いを見える化して、見通しをもたせること、②夏休み中にルーティンワークの仕込みを進めて、2学期以降の日々の仕事を減らす工夫を促すこと、③博物館や美術館、映画や校区の町巡りなど、主体的な学びを推奨すること、これらの3つをお願いしたい。そして、長い時間働くとか休日返上で働くことを絶対に称賛しないことも。私たちは昔から、時間をかける人、自己犠牲を払う人をねぎらったり誉めたりしてきた。でもそれって、よくないことだったのよ。しなくていい仕事を捨て、本質を見極める夏にしましょう。


<プロフィール>
森万喜子(もり・まきこ) 北海道生まれ。北海道教育大学特別教科教員養成課程卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市で美術教員として中学校で勤務。教頭職を7年勤めた後、2校で校長を勤め、2023年3月に定年退職。前例踏襲や同調圧力が大嫌いで、校長時代は「こっちのやり方のほうがいいんじゃない?」と思いついたら、後先かまわず突き進み、学校改革を進めた。「ブルドーザーまきこ」との異名を持つ。校長就任後、兵庫教育大学教職大学院教育政策リーダーコース修了。


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