リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #40 二宮金次郎像|山崎克洋 先生(神奈川県公立小学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットを機能させて教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は山崎克洋先生のご執筆でお届けします。

執筆/神奈川県小田原市立足柄小学校教諭・山崎克洋
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

ごあいさつ

現在、神奈川県の小田原市で公立小学校に勤務しています。
元々、神奈川県出身ではない私ですが、早いもので神奈川に来て14年になりました。
出身の三重県と似ていて、温暖な気候の小田原は住みやすく、首都圏にも行きやすいため、快適な毎日を過ごしています。
小田原のことを全く知らなかった自分にとって、教師として授業をする中で出会う小田原の文化は、どれも新鮮で感動するものばかりでした。
かまぼこ、小田原城、松原神社例大祭、ミナカ小田原など地域の財に触れながら、その地域を知る活動が私のライフワークとなっていました。
そんな中で、今回は小田原の偉人の一人である「二宮金次郎」を題材にした実践を紹介したいと思います。

1 身近な素材、地域の素材で考える実践

対象:小学4年
主題名:郷土を愛する
内容項目:C-16 郷土愛伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度
 我が国や郷土の伝統と文化を大切にし、国や郷土を愛する心をもつこと。

写真を見せて、「見たことがある人?」と尋ねます。

多くの子が「二宮金次郎!」と答えます。
小田原生まれの二宮金次郎は小田原では有名人です。
『この二宮金次郎さんの銅像は、小田原市の全ての小学校に置かれています。
 でもね、小田原だけではありません。
 全国各地の学校で、昔から二宮金次郎の銅像は、置かれてきました。』

発問1 「二宮金次郎の銅像」は、何のために学校に置かれたと思いますか。

金次郎みたいに勉強してもらうため。
よく働く大人になるため
真面目な子供になるため。
勉強しないと、薪を背負わせるぞと先生が叱るため。
国の偉い人が、二宮金次郎に憧れていたため。

説明

そもそも二宮金次郎とはどんな人か、そこから話をします。
『二宮金次郎(二宮尊徳)は、江戸時代、小田原の栢山(かやま)の農民の子として生まれました。
小さい頃に、父親と母親を亡くして、おじさんの家に預けられて生活をするなど苦労の多い人でした。
しかし、そんな大変な中でも勉強が好きで、余裕ができればわずかな時間も無駄にしないで勉強をしました。
その成果もあり、貧しかった金次郎ですが、次第に自分の土地を増やし、23歳の若さで立派な農家となりました。
それだけでなく、その頑張りは小田原藩にも認められ、藩の財政を立て直したり、大飢饉で困っていた多くの農村や藩を救ったりしたのでした。
そのような模範的な姿を多くの子供たちに真似してほしいという願いから、昭和初期に次々と銅像が建てられるようになったのでした。』

『さて、そんな二宮金次郎の銅像、実は全国的に減り続けています。
時代の流れの中で、「歩いて本を読むのは危ない」「もう学校に置くのは、時代に合っていない」といった意見が出てきて、撤去されるようになってきました。そんな中、今でも二宮金次郎の銅像を作り続けている会社があります。
富山県高岡市にある株式会社平和合金です。
この会社で作られる金次郎像は年間何体だと思いますか?』

(50体、100体……などと子供たちの予測が出た後で)

『実は10体だけです。はっきり言って、10体ではほとんど儲かりません。』

発問2 どうして儲からないのに「二宮金次郎像」を作り続けているのですか。

子供たちに金次郎のようになってほしいから。
金次郎のことが好きだから。
頼まれて、断れないから。
お金以上に、金次郎に価値があるから。
いつか売れるようになると思っているから。

※途中、あなただったら、作りますか? と揺さぶっても良いと思います。 

『藤田社長は次のように言っています。

「なんで作っているか言うたら、それはやっぱり二宮金次郎の哲学(考え方)を売りたいからですよ。」

「金次郎が苦労して家の再興を果たしたように、この会社もやっぱり先祖からの預かりものなんですよね。」

「技術的にも、うちは金次郎像を手がけたことで、それまで花器など小さなものを手がけていたのが、大きな銅像も任されるようになり、今があります。」

「こうして先祖の預かりもので商売させてもらう以上は、像を通して二宮金次郎の哲学や生き様を知ってもらうことが、何よりの恩返しで、また次の仕事にもつながっていくと思っています。銅像を作りながら、日本の誰もが知っている人の思想を広められるってすごいことじゃないですか。」

「中川政七商店の読みもの」

『藤田社長が売りたいのは銅像ではなく、何でしたか?』

(金次郎の教え、考え、生き方……等、子供たちの意見が出揃った後で)

『みんなの故郷、小田原の偉人はそれだけ尊敬される人物なのですね。』

2 各教科の単元とのつながりとタイミング

この話をしながら、次の教科領域につなげることができそうです。

①4年生道徳「15 二宮金次郎の働き「人の役に立とう」【C 勤労、公共の精神】」(教育出版『小学道徳4 はばたこう明日へ』)

内容項目としては変わってきますが、教育出版のこの題材と関連して授業をすることが可能です。
その際、教科書の方に内容項目を合わせる形で、もう少し端的に導入として扱うこともできます。
また、その反対に、一枚画像の内容項目をベースにして、教科書教材に触れることも可能でしょう。

②4年生社会科 「昔から今へと続くまちづくり」
 ⑷ – イ -(イ)
当時の世の中の課題や人々の願いなどに着目して、地域の発展に尽くした先人の具体的事例を捉え、先人の働きを考え、表現すること。

神奈川県や栃木県に限定される部分はありますが、地域に尽くした偉人の一人として、社会科で取り上げることが可能です。
小田原市では、『尊徳学習』と題して、総合的な学習の時間とも関連させながら、二宮金次郎について学ぶことがあります。
その導入として、この授業を扱うこともできると思います。

おわりに

上の写真は、私の勤務校にある金次郎の像です。
小田原市内にある二宮金次郎の銅像は、どれも一つ一つ形が違い、その違いだけでも一つの授業ができるくらい多くの発見があります。
全国的には二宮金次郎の銅像は減っていくのかもしれませんが、平和合金の藤田社長も話されていたように、金次郎の生き方や考え方は後世に伝えていきたいと私も思います。

みなさんも地域の偉人の銅像から、その人の生き方や考え方を考えてみるのも面白いかもしれません。

【参考文献
「中川政七商店の読みもの」

今後の連載予定
第41回 高橋 優(神奈川県・小田原市立報徳小学校)
第42回 樋口万太郎(香里ヌヴェール学院小学校)
第43回 和泉慶子(埼玉県・さいたま市立春岡小学校)
第44回 篠原諒伍(北海道・網走市立南小学校)
第45回 山本晃佑(神奈川県・横浜市立駒林小学校)
第46回 若松俊介(京都教育大学附属桃山小学校)
第47回 葛原祥太(兵庫県・西宮市立夙川小学校)
第48回 松尾英明(千葉県・袖ケ浦市立蔵波小学校)
第49回 渡辺道治(瀬戸SOLAN小学校)
第50回 木原一彰(鳥取県・鳥取市立大正小学校)

<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
第23回 象には絶対に乗らない
第24回 誰かの便利は、誰かの不便
第25回 美しさの見つけ方
第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
第29回 学びの「値段」
第30回 東日本大震災
第31回 「一枚画像」から道徳を問う
第32回 誰の姿が見えますか?
第33回 五輪で戦うためには…
第34回 なまはげ
第35回 「だれでもピアノ」開発に込められた思い
第36回 どうして育ててもらえないの?
第37回 あなたはどこで待ちますか?
第38回 住んでいる地域の魅力
第39回 どんな言葉をかけますか

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