卒業文集では、手本を見てイメージをふくらませよう【卒業文集の指導③】
松下先生による卒業文集の指導アイデア第3弾は、作文が苦手な子どもも意欲をもてるようになる工夫の紹介です。これまでの卒業文集に触れる一連の活動で、「書いてみよう!」「自分にも書けるかも!」と子どもたちが感じるようになりますよ。
■手書き卒業文集は、ひらがなの書き方確認から始めよう!【手書きの卒業文集の指導①】
■手書き卒業文集は、文字の「大きさ」と「濃さ」に気を付けよう【手書きの卒業文集の指導②】
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
作文が苦手な子どもも安心して書ける工夫
作文が苦手な子どもにとって、卒業文集はとてもハードルが高いものです。卒業文集に向けての作文は初めてで(当たり前なのですが)、イメージがもてないからです。
手放しで書かせると、6年生で体験した「修学旅行」をテーマに選ぶ子どもが多くなります。実際に体験しているので書きやすいのだと思います。本当に書きたくて、「修学旅行」を選んだのならいいのですが……。
修学旅行での出来事を羅列してそのまま書き起こしたような「説明文」になってしまったことがありました。私が何の指導、何の工夫もせずに書かせてしまったからです。
今日から、卒業文集を書きます。卒業文集は、6年間の学校生活で1番、思い出に残ったことや、将来の夢について書きます。
と言ったたけで、何の手掛かりもなく、具体的なイメージももたせないまま書かせてしまったのです。
この失敗以来、次の工夫をするようになりました。作文が苦手な子どもも「書いてみよう!」「書けるかも!」と、意欲と希望をもてる工夫。それは、これまでの卒業文集を見せることです。
学校に保管されているこれまでの卒業文集をそのまま見せてもいいのですが、過去の卒業文集の中から、教師が選んだ作文ベスト10を印刷して渡すのがおすすめです。
選んで印刷するときのポイントは、次の3つです。
- 印刷する枚数は、生活班の数。
……班で回し読みしするようにすれば、印刷枚数を減らせます。 - 印刷するときは、書いた子どもの名前を消しておく。
……それぞれの作文のタイトルの上に、1~10の番号を書いておく(理由は後述)。 - 「行事」「将来の夢」「学級・学年への思い」をテーマにしたものをまんべんなく選ぶ。
ベスト3を決めよう!
『教師が選んだ作文ベスト10』の中から、さらにベスト3を決める活動を行います。
自分のベスト3を選ぶ
子どもが班で回し読みしているときに、
どの作文がいい? ベスト3を選んでみよう。
と言って、選んでもらいます。国語や自由帳のノート、メモ用紙にどの作文を選んだか番号を書きます。
子ども同士で交流する
自分と全く同じベスト3を選んだ人は、いるかな?
と言って、子ども同士で交流します。
班としてのベスト3を決める
数人の子どもに、なぜその作文を選んだかの理由を言ってもらいます。
班(あるいは隣同士)で話し合って、ベスト3を決めよう。
と言うと、教師が良い作文の観点を教えなくても、子どもたちが自ら見つけるようになります。
もし、子どもから出ない場合は、次のように具体的に聞きます。
一番、読んでみたいと思うタイトルは?
一番、読んでみたいと思う書き出しの一文は?
一番、印象に残る最後の一文は?
作文を書くのが苦手な子どもや、やんちゃな子どもは、次のように聞くと意欲的になります。
一番、おもしろくないタイトルは?
一番、おもしろくない書き出しの一文は?
一番、おもしろくない最後の一文は?
「将来の夢」をテーマとした作文の手本として、スポーツ選手や歌手や芸人、ユーチューバーなど、有名人の卒業文集を紹介するのもおすすめです。パソコンを使っての調べ学習で、子どもに調べさせるのもいいでしょう。
みんなも有名人になったときに、たくさんの人に見られるかもね!
と言うと、ものすごくやる気をもってくれました。「恥ずかしいこと、書けないね!」などと言っても、楽しくなりますよ♪
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ 横井智美