「学級開きと授業開きで子供の心をつかもう」保護者を味方にする学級経営術 #1
学級担任なら、一度は保護者対応に悩んだ経験があるのではないでしょうか。しかし、保護者が味方になってくれたら、こんなに心強いことはありません。この連載では、保護者が担任と学級を応援したくなるような学級経営について、その月の学校状況に合わせたアイデアを紹介します。第1回は、保護者との関係の基本的な考え方と学級開きを取り上げます。
執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真
目次
どんな学級をつくりたいですか
ごく粗く言ってしまうと、学級はおおよそ3つに分類できます。
A:保護者からクレームの多い学級
B:保護者から評判のよい学級
C:どちらでもない学級
一番多いのは3番目のCでしょう。
最初からそんなに批判的な保護者はいません。ですので、当たり障りのない対応をしていれば、「どちらでもない学級」で1年間過ごすことができます(もともと難しい保護者がいる学級は除く)。
しかし1つ対応を間違えると、クレームのある学級になることがあります。特に敵をつくってしまうと、次々にクレームが続きます。悪い評判が保護者の間で回り、余計にクレームが入りやすくなることもあります。Cから次第にAに変化していくわけです。
こうなると、精神的によくないですし、学級もますますうまくいかなくなります(学級がうまくいっていれば、あまりクレームは入らないもの)。
そこで学級経営としては、まずは保護者の敵をつくらない、クレームを防ぐための方策が大切になります。また、クレームが来たとしても、適切に対応すれば、逆に味方になってくれる保護者もいます。そこで今後の連載では、クレームを防いだり、クレームに適切に対応したりするコツをお伝えしていこうと思います。
また、せっかくならBの学級を目指してほしいものです。Bの学級にするには、あなたの味方になってくれる保護者をつくることです。
味方と言っても、あなたのことを全面的に認め、励まし、ほめてくれるような、そんな保護者は滅多にいません。でも、あなたのことを肯定的に捉えてくれるような保護者はいるでしょう。例えば、個人面談などで、打ち解けて話をしてくれたり、「先生のおかげで頑張っています」などと声をかけてくれたりするような保護者はいませんか。行事のあとで、連絡帳に感謝の言葉を綴ってくれるような保護者はいませんか。そういう保護者があなたの味方です。
とはいえ、保護者全員を味方にするなんて不可能です。全員が味方になったら、それは教育ではなく宗教です。全員が味方にならないほうが、教育としてはむしろ健全なのです(ある程度、無関心な人がいて当たり前)。そう思うと、少し気が楽になりませんか。
ですから「肯定派がある程度いればよい」のであり、極端な話、一人でもいればよいのです。一人いれば、そこから味方の輪が広がっていく可能性もあります。ですので、まずは味方を一人つくることを目標にしましょう。
とはいえ、味方は、ただなんとなく日々を過ごすだけではできません。教師からの積極的な働きかけが必要です。今後は、その具体的なことについても触れていきます。
学級づくりで一番大切なこと
まず、一番大切なことを伝えます。
小手先よりも根本
これです。
一人一人の子供を心の底から成長させたいと思っていますか。本当に伸ばしたいと思っていますか。
これは言葉で言うほど簡単なことではありません。
クラスにはいくら勉強を教えても身に付かない子、いくら言ってもやらない子、反抗的な子など、様々な子がいますね。そういう子のことも含め、成長させたい、伸ばしたいと思っていますか。だれ一人として取り残さないと思っていますか。
その覚悟がありますか。
そういう芯がないのに、小手先であれこれ工夫してもうまくいきません。子供や保護者に見透かされます。
そして、この根本的な心構えは教えられません。自分で自分を見つめ、覚悟を決めるしかないのです。
その覚悟があるならば、今後私の書くいくつかの技術、やり方が役に立つこともあるでしょう。
では、どうぞ1年間よろしくお願いします。
「学級開き」は子供たちとの出会いに全力を!
さて、あなたが、4月6日に喫茶店をオープンするオーナーだとします。
オープンに向けてどんなことをしますか。
そして、オープン時には、どのようにお客さんを迎え入れますか。
もちろん、教師はサービス業ではありません(サービス業だという人もいますが)ので、教育と喫茶店経営は違います。
でも、学級開きの心構えや対応は、そのくらいの気持ちで行うとよいのです。もし自分の店をオープンするならば、お客さんとの出会いに全力を尽くしますよね。それだけの意気込みを、子供たちとの出会いにももっていたいものです。
あなたがベテランで、様々なテクニックをもっているならば、そして変化に柔軟に対応できるならば、適当に開始してもよいでしょう。むしろそのほうが、自然にクラスができていくでしょう。
しかし、覚悟はあってもまだ技がついてこないうちは、子供たちとの出会いに、第一印象に、全力を尽くしましょう。
さて、喫茶店のオーナーだったら、まずはきれいな店を心がけませんか。掃除をしたり、花を飾ったりしますよね。これはそのまま教室にも通じます。隅々まできれいにして、花を飾るのもよいでしょう。
黒板に絵を描いたり、メッセージを書いたりする先生もいますね。できる範囲で、どれだけ真心を込めて迎え入れるかが大切です。それが結局は、子供たちへの心配りにつながるのです。
それから、喫茶店ならば、おいしい飲み物、食べ物を用意しますね。これは学校ならば、先生の話、メッセージ、授業だと言えます。教師が提供するものですね。
授業はそうそううまくはいかないけれど、授業開きくらいは工夫があるとよいでしょう。「みんなの教育技術」でも「最初の授業」や「授業開き」などで検索すれば、いろいろなネタが見付かるので、おもしろそうなのを探して実践してみましょう。
また、最初に子供たちにどんな話をすればよいでしょうか。
あなたがどんな学級にしたいのかを事前にとことん考え、短い言葉で伝えましょう。
喫茶店のオーナーならば、オープン時、入り口に立って笑顔でお客さんを出迎えるでしょう。しかし、学校の場合、初日の朝は担任発表がまだなので、直接は出会えません。
そこで、始業式で担任が発表された時にどんなふうに返事をするか考えておきましょう。とはいえ、変わったことをする必要はありません。基本的には、校長から名前を呼ばれたら、とびきりの笑顔で、元気よく返事をしましょう。子供の前に走っていって、一番前の子と握手しましょう。それで第一印象がぐっとよくなります。
また、教室に戻ってから、どんな自己紹介をすればよいでしょうか。
ギターで歌を披露したり、手品を見せたりする先生がいます。そういう特技があれば、ぜひ発表しましょう。短いプレゼンテーションをつくり、大型テレビで自己紹介するのもよいですね。あなたという人間の一端が見えるような自己紹介をしましょう。
最後に、喫茶店では来てくれたお客さんにサービス券やお土産を渡すかもしれません。
同じように子供にもお土産を持たせたいですね。と言っても、物ではなく、家に帰ってから、今度の先生はこんな先生だったと子供が保護者に話したくなるような土産話のこと。そのための仕掛けをしましょう。
例えば、私の場合は、「先生が一番大切にしたい言葉は”ありがとう”です」という話をします。そして、その日の宿題を「3人にありがとうを伝える」にします。昨年お世話になった先生、交通ボランティアさん、そして保護者。これで3人になります。それぞれの場面を想定し、模擬練習をさせてから下校させます。すると、○年生になったら、「ありがとう」とよく言う子になった、などと保護者から伝えられることでしょう。
もちろん、保護者を味方にするために行うのではなく、私自身が感謝を重視し、「ありがとう」の言える子に育てたいと思っているから取り組むのです。ところが、結果的に保護者に担任の思いがダイレクトに伝わり、教師への信頼感が増すのです。
瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育委員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。
イラスト/イラストAC
【瀧澤真先生執筆 連載】
学級担任の時短術(全12回)
【瀧澤真先生ご著書】
まわりの先生から「むむっ! 授業の腕、プロ級になったね」と言われる本。
まわりの先生から「おっ! クラスまとまったね」と言われる本。