小6理科「てこの規則性」指導アイデア

執筆/大阪府公立小学校教諭・岩本哲也
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・鳴川哲也、大阪府公立小学校校長・民辻善昭、大阪府公立小学校校長・細川克寿

主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善

「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を行い、資質・能力を育成するには、どのようにすればよいのでしょうか。

まず、「主体的な学び」を実現するには、身近な自然の事物・現象から問題を見いだすことが効果的です。例えば、手では全然持ち上がらない重い物を、てこを使って楽に持ち上げることを体験したり、支点・力点・作用点の位置を変えながら、「とても軽くなった」「少し軽くなった」等の手応えを感じたりすることで、てこの規則性について興味を引き出すことができます。得られた知識や技能を基に、問題を発見したり、新たな視点で自然の事物・現象を捉えようとしたりすることも効果的です。

てこの規則性が利用されている道具は、身の回りに溢れています。例えば、道具箱のはさみ、図工室の釘抜きやペンチ、給食室のトング、保健室のピンセット、事務室の穴空けパンチ、家庭の空き缶つぶし器等があります。さらに「はさみ」だけでも、裁縫道具にある「糸切りばさみ」、家庭科室にある「裁ちばさみ」等があります。てこの規則性の視点で身の回りの道具を見直すことで、理科を学ぶ意義や有用性の実感及び理科への関心を高めることにつながると考えられます。

次に、「対話的な学び」では、根拠を基にして議論し、自分の考えをより妥当なものにすることが大切です。例えば、実験結果の処理の場面では、できるだけ複数の結果を学級全体で共有することで、「多面的」に考えながら議論することができます。屋外で実験を行う場合には、ICT 機器を活用し結果を動画や写真で記録するとよいでしょう。全班の写真を掲示することで、傾向や共通性を捉えやすくなります。

また、実験用てこを用いた実験結果の処理の場面では、支点からの距離とおもりの重さとの関係を表に整理し、多くの結果を共有できるようにします。そして、考察の場面では「量的・関係的」な見方を働かせるとともに、「多面的」に考えながら議論することが重要です。

最後に、「深い学び」では、様々な知識がつながって、より科学的な概念を形成することが大切です。例えば、てこの規則性について習得した知識・技能を身の回りのてこの規則性を利用した多くの道具に活用することで、知識が様々な場面とつながり、汎用的に自由自在に活用・発揮できる知識となります。そして、道具の効果とてこの規則性とを関係付けて考えることで、道具どうしのつながりを理解し、科学的な概念を形成することにつながります。

授業づくりのポイント

①得られた知識や技能を基に、問題を発見したり、新たな視点で自然の事物・現象を捉えようとしたりする場面の設定。

②根拠を基にして議論し、自分の考えをより妥当なものにする場面の設定。

③獲得した知識・技能を日常生活の場面とつなげる場の設定。

単元のねらい

加える力の位置や大きさに着目して、これらの条件とてこの働きとの関係を多面的に調べる活動を通して、てこの規則性についての理解を図り、観察、実験などに関する技能を身に付けるとともに、主により妥当な考えをつくりだす力や主体的に問題解決しようとする態度を育成する。

単元計画(三次 全9時間)

一次

1・2時

棒をどのように使ったら、重い物を持ち上げることができるだろうか。

●手では全然持ち上がらない重い物を持ち上げる方法を考え、試す。

てこをどのように使えば、重い物を楽に持ち上げることができるだろうか。

●各班で、棒や砂袋、L 型金具などを扱い、体感しながら調べる。

支点と力点の距離が長く、支点と作用点の距離が短いほど楽に持ち上げることができる。

二次

3・4・5時

●砂の量や支点からの距離を変えて、てこが水平につり合うときを見付ける。砂袋の重さを量った後、砂袋の代わりに手で押すことで、てこにかかる手応えと重さの数値を結び付ける。

てこが水平につり合うとき、どのようなきまりがあるのだろうか。

●実験用てこを用い、てこが水平につり合うときのきまりを調べる。(活動アイディア①)

てこを傾ける働きは、「力の大きさ×支点からの距離」で表すことができ、この働きが左右で同じ場合、てこは水平につり合う。

三次

6・7・8・9時

釘抜きやトングは、どのような仕組みになっているのだろうか。

●どのようにてこが利用されているか道具の「説明書」を作る。(活動アイディア②)

●学校や家など、身の回りにあるてこの規則性を利用した道具を持ち寄る。

それぞれの道具は、どのような仕組みになっているのだろうか。

●実物と作成した「説明書」を関係付け、実演しながら道具の仕組みを交流する。力点・支点・作用点の位置や力の関係を基に、身の回りにある道具を整理・分類する。

身の回りには、てこの規則性を利用した道具があり、それらの道具には力点・支点・作用点がある。小さな力を大きくする道具や、力を小さくする道具があり、それぞれの用途に応じた道具となっている。

単元デザインのポイント

単元構想

てこの規則性を理解した後、教室で使う道具、学校で使う道具、家庭で使う道具などといった順に、自分を中心とした同心円的広がりをもたせて道具探しを行う。身の回りに溢れている道具を身近なところから見直していき、道具の効果とてこの規則性を関係付けて考えていく単元を構想する。

一次

一次では、てこの働きで重い物を楽に持ち上げる体験ができるようにする。てこの規則性を学ぶ意義や有用性の実感及び関心を高め、主体的に問題を解決する態度を育成する。一人一人が、てこの手応えを体験し、支点・力点・作用点の位置を変えながら、「とても軽くなった」「少し軽くなった」等の手応えに基づいて、体験的に理解できるようにする。

二次

二次では、一次で感覚的に捉えていた力を数値化し、定量的な視点で、てこの規則性を理解できるようにする。見いだした規則性を納得するまで、実験できる場を設定する。あらゆる場面で規則性が適応できるかを検証することで、より妥当な考えを得られるようにする。また、つり合うときの規則性を活用し、1回のチャレンジで、おもりを吊るしてつり合いの状態をつくる場面を設定する。左右のうでを傾ける働きを説明した後、実演することを繰り返すことで、汎用的に自由自在に活用・発揮できる知識となるようにする。

三次

三次では、日常生活との関連を図る。てこの規則性を利用した道具を一人1つ以上持ち寄ることとする。自分が持ってきた道具の「説明書」(道具名、使われている場所、用途、支点・力点・作用点の場所とそれぞれの距離、力の関係が書かれたもの)を作成する。作成した「説明書」を相互チェックする場を設ける。全体交流では、道具の効果とてこの規則性を関係付けて、持ち寄った道具を整理・分類し、道具どうしのつながりを理解する。

作成した「説明書」を集め、「道具事典」とする。「道具事典」の編集の仕方を話し合う。編集をPCで行うと、保存場所や保存状態の心配が軽減され、また更新・編集がしやすい。「説明書」の写真と実演の動画や写真をセットにして保存するとよい。持ち寄った道具を返す際、作成した「説明書」を元あった場所に掲示したり、持ち主に渡したりさせてもよい。

活動アイディア① (二次 5 時)

もっと正確に調べたいな。

違うてこで実験してみたい。

問題

てこが水平につり合うとき、どのようなきまりがあるのだろうか。

予想

重さと支点からの距離に関係がありそうだね。

実験

左右のうでに、おもりを1か所ずつ吊るしてつり合わせましょう。結果をノートと黒板に書きましょう。黒板に紹介されていない結果があれば、ぜひ黒板に書いて紹介しましょう。

つり合ったてこ

あれも(板書された結果)つり合うのか。では、これはどうかな?

他にもつり合う場面を見付けたよ。黒板に書きに行こう。

結果(板書の例)

つり合いを記録した板書の例
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考察

距離が[MATH]\(\frac{1}{2}\)[/MATH]になれば、重さは2倍でつり合っている。距離が2倍になれば重さはでつり合っているよ。

算数の学習みたいだね。かけ算できまりを表せそうだね。

話し合う子供3人

結論

左側の(力点にかかるおもりの重さ)×(支点から力点までの距離)= 右側の(力点にかかるおもりの重さ)×(支点から力点までの距離)

指導におけるポイント

調査官からのワンポイント・アドバイス

国立教育政策研究所教育課程調査官・鳴川 哲也

理科を学ぶ意義や有用性の実感へ

理科は自然の事物・現象を対象としています。学習対象は、子供の身の回りにあることが多いですから、生活経験などを通して、その対象について何かしらの捉えをしています。本単元の対象となるてこについても、私たちの身の回りには、その規則性が利用され、生活が便利になっているものがたくさんあります。しかし、てこの規則性が利用されていることまでは理解していません。

学習が進む中で、「そうだったのか‼」とその仕組みに気付くことで、理科を学ぶ意義や有用性を実感することで、理科への関心を高めることがとても大切です。本実践は、この部分をとても大切にしています。てこの規則性を学習した後で、一人一人が自分でてこの規則性を利用した道具を持ってくるという活動を取り入れています。持ってくるという段階で、既に各自が見通しをもって学習に取り組んでいますが、「説明書」を作成することで、学習内容を深く理解することにつながっています。

学習したあとで、もう一度、学習対象を見直すことで、今までとは違う見え方になるという経験をさせましょう。

イラスト/山本郁子 横井智美

『小六教育技術』2018年12月号より

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