国語科「わたしはおねえさん」③発問の極意#10〈誘発発問と焦点化発問〉
第2回では、物語「わたしはおねえさん」(光村図書2年下)をもとに、単元計画づくりと単元導入の発問<きっかけ発問>を取り上げました。
単元計画づくりにおいては、吹き出しに書いたり、動作化したりする活動を取り入れることによって、中心人物すみれちゃんの心情の変化をとらえることができること、そして、物語の伏線である「歌をつくるのが大好き」ということを生かして、中心人物すみれちゃんが妹かりんちゃんとの出来事を通してどんな新しい歌をつくったか、歌づくりを行うことですみれちゃんの変容を表現できることを紹介しました。
また、単元導入の発問<きっかけ発問>では、「すみれちゃんの言ったことやしたことで心に残った文はどこですか?」を紹介しました。
今回は、単元展開の発問について<誘発発問と焦点化発問>を取り上げます。
執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一
目次
中心人物の変容を観点に「どこ?」を問う
単元展開における誘発発問が
「すみれちゃんが、おねえさんになったのはどこ?」
です。
<きっかけ発問>では、すみれちゃんの言ったことやしたことで心に残った文を観点に、短冊カードに書き出していきました。選んだ理由も含め、感想を交流し、物語全体をとらえることができるようにすることを意図していました。子どもたちの多くが取り上げるのが、次の箇所でした。
・物語冒頭のすみれちゃんの歌
・それから心の中で、「えらいおねえさんは、朝のうちにしゅくだいをするんだわ。」と言いました。
・すみれちゃんには、自分が、なきたいのかおこりたいのか分かりませんでした。
・すみれちゃんは、もういちど、ノートを見ました。じっと。ずっと。
・けしかけて、でもけすのをやめて、すみれちゃんは、つぎのページをひらきました。
実際の授業では、上記の文も含め、10箇所が取り上げられました。
子どもたちにはまず、心に残った文として書き出した10の短冊カードを物語の順番に並び替えるように促しました。順番に並び替えることによって、再度、読むことを促すことができるとともに、物語の筋を押さえることができます。
物語の順番に短冊カードが並び替えられたことを全体で確認した上で、子どもたちには、誘発発問である「すみれちゃんが、おねえさんになったのはどこ?」を投げかけていきました。
「どこ?」を問うことによって、子どもたちは本文に立ち返る必要が出てきます。また、自分の考えを述べるにあたっては、「どこ?」と問われているわけですから、「ここ」と根拠を示す必要が出てきます。子どもたちの意見が集まったのが、次の2文でした。
・すみれちゃんは、もういちど、ノートを見ました。じっと。ずっと。
・けしかけて、でもけすのをやめて、すみれちゃんは、つぎのページをひらきました。
前回までの教材分析シートと照らし合わせてみても分かるように、上記の2文は中心人物の変容点(クライマックス)と結末の1文です。共通点としては、どちらも中心人物すみれちゃんの行動描写であるという点です。
すみれちゃんの行動のみが描かれ、心情は描かれていないため、「ここからどう思う?」という発問によって、すみれちゃんの心情とその変化について話し合うことができるのです。
誘発発問のように「どこ?」を問うことによって、一人の読者として感じた意見や考えの根拠となる本文を問うことができます。
そして、「ここからどう思う?」を問うことによって、本文から生まれた自分の意見や考えを問うことができます。
次に示すのは、結末に目を向けた児童のノートです。
すみれちゃんが絵を消すのをやめて、次のページを開いたところに「妹思い」が表れていると表現しています。
国語科の場合、1時間の授業で終わることは少なく、複数回で1つのまとまり(単元)を形成して展開することが多いです。そのため、教材や学習課題が単元のどこに位置づけられるか、1時間1時間のつながりを意識しながら単元をどのように構成するかによって、学習活動も規定されていきます。
本時における誘発発問では、前時のきっかけ発問で書き出した短冊カードを出発点に展開しています。
「吹き出し」を使って、中心人物の心情の変化をとらえる
単元展開における焦点化発問が
(「すみれちゃんは、もういちど、ノートを見ました。じっと。ずっと。」を取り上げて)
「この時のすみれちゃんは、どんなことを考えていたんだろう?」
です。
中心人物すみれちゃんの変容点(クライマックス)に焦点化した発問です。
本文では、その後「あはは。」とすみれちゃんが笑い出し、そして「あはは。」とかりんちゃんも笑い出します。この「あはは。」と笑い出すまでに、すみれちゃんは、「じっと。ずっと。」ノートを見ながら何を考え、思いを巡らせていたのでしょうか。
子どもたちと一緒に考えることによって、すみれちゃんの変容とともに、抱いた葛藤について思いを巡らせることができます。ここで考えなければならないのは、すみれちゃんの変容や抱いた葛藤を子どもたちにいかに言葉として表現させていくかです。
2年生の子どもたちに「考えてごらん」と促すだけでは、なかなか一様に考えることができないところもあります。そこで用いる手立ての1つが、吹き出しや動作化です。
この物語「わたしはおねえさん」は、中心人物すみれちゃんと読者が同じ2年生であること、さらには同化して読むことができる文章表現になっていました。そこで、「じっと。ずっと。」から「あはは。」と笑い出す、この2つの間に焦点化して、どんなことを考えていたのかを子どもたちに発問として、投げかけていきます。
以下に示すノートをご覧ください。
A児の吹き出しからは「えっ、なんでわたしのノートに書いてるの?」→「あっ、でもかわいくみえてきた…」→「あはは」とすみれちゃんの心情の変化が表現されていることが分かります。
一方、B児の吹き出しからは「何これ?いみわかんない。」→「でも、私もこんな絵をかいていたんだろうから、人のことはいえないな。」→「こういうとき、ステキなおねえさんはわらってあげるのかな」とすみれちゃんの心情の変化が表現されているとともに、「こういうとき、ステキなおねえさんはわらってあげるのかな」と一種の葛藤とも言える中心人物すみれちゃんの思いが表現されています。題名にある「おねえさん」とも関連づけながら考えていることが分かります。
授業では、吹き出しに表現するとともに、動作化を取り入れました。動作化すると、子どもたちは「じっと。ずっと。」見つめた後に、首をかしげたり、うなずいたり、うでを組んだりと中心人物の心情をまさに動作へ取り入れながら表現します。
そこで、「どうして首をかしげていたの?」「うなずいていたの?」と問い返すことによって、吹き出しだけでは表現できなかった思いを言語化することができるのです。
このように主に低学年では、吹き出しや動作化などのもつ特性を踏まえながら活動に取り入れ、発問と組み合わせることによって、本時のねらいへと導くことができます。
次回は、単元終末の発問<再構成発問>と1時間を取り上げて授業の実際を紹介します。
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