リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #29 学びの「値段」|高橋朋彦先生(千葉県公立小学校)


子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は高橋朋彦先生のご執筆でお届けします。
執筆/千葉県袖ケ浦市立平岡小学校教諭・高橋朋彦
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
1 はじめに
はじめまして。トモ先生と言います。私は道徳の授業が大好きです。道徳は目の前の教材を通して、自分を見つめ直し、友達と話し合うことで、考えを広げたり深めたりすることができるからです。
今回は、
「なぜ学ぶことができているのか」
という理由に着目して授業を組み立てました。
子供たちにとって、「学ぶ」ことは当たり前になってしまっています。
しかし、当たり前になりすぎてしまい、学びを押し付けられている感覚になっているように感じます。本来、学ぶためには莫大なお金や物、人が必要であり、容易なことではありません。そこには、「子供に幸せな人生を送ってもらいたい」という大人たちの願いが込められて、不自由なく学ぶ環境が作られています。大人たちの「願い」を知ることで、自分たちが学ぶ意味について考えを広げたり深めたりさせ、主体的に学ぼうとする意志を育てていきたいと考えています。
2 「一枚画像道徳」の実践例
対象:小学5年
主題名:学びの「値段」
内容項目:A-5 希望と勇気、努力と強い意志
導入では、発問と合わせて次の画像を提示します。

発問1 値段はいくらでしょう?
「3千円」「5千円」「1万円」「10万円」
など、いろいろな答えが返ってきました。金銭感覚はないようで、とても高い金額も出てきました。
セリにかけられているようにとても盛り上がり、子供たちは楽しそうな様子です。
ひと通り予想が出たところで、
『正解は、2万円です』と、伝えました。
私が
『2万円で何ができる?』
と聞くと、
「ゲーム機が買える」
「お菓子をたくさん買える」
「ゲームセンターでたくさん遊べる」
という答えが返ってきました。そのとき、ある子が一言、
「僕たち、2万円もするものを倒してしまっているんだ……」
この一言に、周りの子たちは大きく頷きました。
『この机は2万円するんだね。みんなは当たり前のように無料で学んでいるけれど、学ぶためにはお金がかかるんだ。そのお金は誰かが払ってくれているんだよ。誰だと思う?』
そう聞くと、
「親!」
という声が聞こえました。
『そう、皆さんの親だね。親がどのくらいお金を払っているか、先生調べました。』
金額を黒板に書きます。
◯親が支払っているお金
【参考文献】
マネープラザオンライン「幼稚園〜高校までにかかる費用」(2022年10月10日 最終確認)
金額を伝えると、
「高すぎる!」「こんなにかかっているだなんて信じられない!」
という声で教室が大きくざわつきました。
ざわついている中で私は一言、
『でもね、親が支払う金額だけでは学校での学びはできないんだよ。親が支払っているのは学用品や給食、校外学習や修学旅行のお金なんだ。先生の給料や電気代、学校を建てるお金は入っていないんだよ。誰が支払っていると思う?』
子供たちは沈黙して考えました。
10秒ほどの沈黙が続いて、ある子が一言
「税金…?」
ここで私は
『そう、税金。学校で学ぶためのお金が税金でどのくらい支払われているか紹介するね』
◯税金で支払われているお金
【参考文献】
国税庁ホームページ「税の学習コーナー」(2022年10月10日 最終確認)
「えー!」「そんなにー!」
教室は騒然となりました。
さらに、親と税金で支払われているお金を足して提示しました。
◯親と税金により支払われているお金
この金額を伝えると、
「えー!」「高すぎる!」「こんなにかかっているんだ!」
ととても驚いた様子でした。
ここで、二つ目の発問です。
発問2 なぜ、このようなお金が学びにかけられているのでしょう?
この発問をすると子供たちは、
「学校で学んでほしいから」
「成長をしてほしい」
「楽しい思い出をつくってほしいから」
「将来困らないため」
など、いろいろな答えが返ってきました。
それらの答えを一つずつ受け止めながら私は、
『そうだね。そういった大人の気持ちがあるんだね。つまり、大人たちの願いがあるんだ。
どんな願いかというとね──子供に幸せになってほしいという願いがあるんだ』
こう伝えると、子供たちは真剣な様子で大きくうなずきました。
大人たちの願いを理解した上で、三つ目の発問です。
発問3 これから学校でどのような学びをしますか?
私の学級では、3種類の学級目標があります。
一つ目が友達面の
「ポジティブな言葉を使って協力して優しい人になろう」
二つ目が学習面の
「集中して取り組み男女問わず教え合おう」
三つ目が生活面の
「メリハリのある行動をしてあいさつを心がけよう」
です。友達面、学習面、生活面のそれぞれについて、どんな学びをしたいか発表しました。
すると、
■友達面
●男女問わず協力できるようにする
●ポジティブな言葉を使えるようにする
●笑顔を増やせるように心がける
●友達を大切にできるようにする など
■学習面
●しっかりと授業を受ける
●教え合いを充実させる
●成長を意識する
●手を挙げて積極的に参加する など
■生活面
●男女問わずあいさつをする
●時間を大切にする
●ルールを考えて守る など
子供たちによる振り返り
●今までは、親が自分のためにそんな大金を払っているとも知らず文句を言ったりしていました。今日の授業やみんなの意見で、親が自分のためにいろんなことをやっていることに気づいて親に感謝し、真面目にちゃんと学習していい大人になりたいと思いました。
わかったことは、教育にこんな大金がかかっていることと、親が苦労をし、本当に自分への願いがいっぱい詰まっているということを知りました。
●お金の重みを身をもって体験した。これからはしっかり授業を受けようと思った。また、今までは机や椅子をちょっと荒く扱っていたけれど、これからは乱暴に扱わないで丁寧に扱おうと思った。わかったことは親の税金で、たくさんのお金が僕たちに使われているということです。
●今までは、なんのために集金を出しているんだろうと思っていました。でも今日の授業でわかったことは、大人は子供たちの成長や将来のためにお金を出しているとわかりました。これからは、大人の人への感謝の気持ちをもった生活をしていきたい。