小学校理科における1人1台端末時代の板書の意味 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#16

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

1人1台端末を使用する授業をよく見るようになりました。先生も上手に活用し、子どもたちも撮影や記録、友達との共有も上手に使っています。端末を使うようになって、研修での先生方の質問で共通するものがあります。それは、これからどのように板書をすれば良いのか」です。子どもたちの考えを、端末上で確認する事ができるようになり、これまで板書していたものをあまりしなくて良くなりました。では、板書の役割は何なのか? 確認してみましょう

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.端末を使ったある授業を見たときの「違和感」

ある授業を拝見したときのことです。
授業の導入時、まず先生が教室にある大型テレビに動画を表示して事象を見せました。
次に、子どもたちに、動画を見たときに考えた問題点を確認しつつ、端末に問題を書くよう促します。個々人は必要に応じて、動画を見返しながら問題を書きます。
全員が書いた頃を見計らって、子どもたちが書いた問題を共有して表示し、どのような問題が出ているのか“口頭で”確認して、多くの子どもたちが問題としているもの(教科書の問題に近いもの)を “口頭で”取り上げ、学級の問題にします。

予想する際、子どもたちの端末に予想を書かせ、先生は画面を共有し、どのような予想が出ているのか “口頭で” 確認します。さて、ここでお気づきのように、先生は板書をせず、口頭で子どもたちに指示したり、確認したりしています。

一見、授業は流れているように見えますし、子どもたちも理解しながら活動が進んでいいるようですが、はたして、このような授業でいいのでしょうか?

2.端末を活用したある授業の「違和感の原因」は何?

多くのみなさんも、そう感じたと思いますが、この授業には大きな問題があります。
①端末の文字情報で交流しているため、学級の子ども同士の“考え方”の交流がなく、”先生対こどもたち”という構図になっている
②学級のみんなの情報を共有する際に、何を見るかを決め、それを解釈し、判断することを子どもたち自身に委ねてしまっている
③学級での進捗や押さえるべき重要なことを口頭の確認だけで済ませている
④体験させることができるにもかかわらず、子ども自身が自然事象と触れていない
⑤先生が“端末を使いこなしている・活動的である=わかっている”と思っている
具体的にどういうことなのか、確認してみましょう。

問題点①「端末の文字情報を中心に交流しているため、学級の子ども同士の “考え方” の交流が少なく、”先生対子どもたち”の構図になっている」

知識等の情報共有のみなら端末での共有で良いですが、考え方の共有」は端末を見るだけでは育成できません。小学校理科では、授業中に「友だちはどのように考えているのか共有する」場面がたくさんあります。子どもたちの考えは、文字情報だけでは十分に相手に伝わらないため、本来ならば、子どもたち同士で話して交流しなければなりません。しかしながらこの授業では、ある子どもがどうして問題を見いだしたのか、予想した根拠は何なのかなど、共有したノートを端末で見ている時間が長いわりには、問題を決める際には1~2例の模範的意見を確認する程度で、先生の説明や指示の時間、個人で端末を見るだけの時間が長い点が問題といえます。

問題点②「学級のみんなの情報を共有する際に、何を見るかを決め、それを解釈し、判断することを子どもたち自身に委ねてしまっている」

端末の情報(子どもたちの考え等)を共有する際に、子どもにすべてを委ねていることに問題があります。子どもによって見ているもの、解釈や判断のレベルが異なっているため、情報共有したとしても、学級の子どもたち全員が、目的としていることを同じレベルで理解しているわけではありません。「共有すればわかっている(子どもたちみんながしっかり判断できる)」というのは大間違いです。子どもたちには、何を見るのか、何を押さえるのか、先生が適切にリードする必要があります。

問題点③「学級での進捗や押さえるべき重要なことを口頭での確認だけで済ませている」

この問題は、どちらかと言えば、机間指導などで子どもの出来具合や進捗を十分に確認できていない(しようとしていない)先生に起こりやすいです。もしかしたら、“授業を進めること” が先生の役割と思っているかもしれません。先生は、子ども1人1人を育てる、子ども1人1人がどのように考えているのかしっかりと把握して子どもたちの課題に気づく必要があります。学級で30人も40人もいれば、つまずいている子どもは必ずいます。しかしながら、「口頭で説明すればわかるだろう」という意識であれば、どこかでつまずいた子どもはその時から置き去りにされてしまいます。実際、この授業でも多くの子どもがついていけずに、(理解できないまま)指示をされたように “作業をしている” 姿が見られました。

問題点④「体験させることができるにもかかわらず、子ども自身が自然事象と触れていない」

端末を使えば動画や写真で情報を共有できるため、問題点を把握させるだけならば、わざわざものを用意して時間をかけなくても効率よく進められると思われるかもしれません。しかし、子どもたちに体験させられるのにも関わらず、体験をさせずに動画や写真で済ませる授業は、教師が切り取った情報を与えただけであり、子どもが実際に体験した自然事象から気づかせていない点に問題があります。端末で便利になったから「良かれと思って、先生が動画などの教材を用意しすぎている(理科が体験を重視していることを知らない)」「体験の準備が手間で、手を抜いて動画などの教材で済ませようとしている」といった考えが出やすくなっているように思います。理科はあくまでも「実際に体験することを大切にしている教科」です。端末が使えるようになっても、変わらない部分はあるのです

問題点⑤「先生が “端末を使いこなしている・活動的である=学習内容がわかっている” と思っている」

そしてさらに、子どもの理解度をしっかり見取らないまま、表面的な端末の使い方や活動の様子を見て「できている」と判断している点に問題があります。端末を使いこなしていることや、活動的に動いていることは、教科の内容を理解していることとは別のことですし、活動的という点でも先生が指示しているから動いているからであって、自分自身で主体的に動いているわけではありません。端末を入れれば、活動的にはなりやすいです。それを「学習内容を理解して、主体的に動いている」ということと混同しないようにしたいものです。

3.フロー」と「ストック」で情報を考える

先ほどの5つの問題点に共通することは「押さえるべき事を押さえていない」ことになります。しっかり押さえるべき事を、口頭で済ませてしまっているわけです。ここで、「フロー」と「ストック」という2つの視点で情報を考えてみましょう。

しっかりと押さえるべき事は「ストック」情報(あとから何度も活用する「蓄積される情報)です。一方で、指示など、その時だけ必要なことは「フロー」情報(その場限りの共有となる「流れる情報」)です

先ほどのある授業の例では、情報がストックされずに、指示や口頭の確認だけで「フロー情報」ばかりになっています。つまり、大切な情報が押さえられずに、授業が“流れているだけ”になっているのです。

41人1台端末時代の板書の意味とは?

先ほどの「フロー」と「ストック」で板書を考えると、板書は「ストック」情報を視覚的に整理するものといえます。先ほどの例のように、板書をせず口頭で済ましてしまう授業は、ストックすべき大切な情報もフロー情報にしてしまっているといえます。

時々、「1人1台端末時代になれば板書はいらない」というようなことを聞きますが、それは間違いです。なぜならば、学校での学びは、1対1の個別学習ではなく、集団での学びだからです。そして、学級集団で学習する以上、板書には、①学級としての進捗を視覚的に示す役割(現在どこまで進んでいるのか・今は何をするときなのか等)と、②押さえるべき事を視覚的に明示する役割があります

実際の活用としては、端末で子どもたちの考えを視覚的に共有することができるので、これまで子どもの意見をたくさん板書していたものが減ると考えられます。しかしながら、これまで同様、問題や主な予想、方法、結果、考察は板書しなければ、置き去りにされる子どもが出たり、定着しないまま授業が流れてしまったりすることが危惧されます

板書をしなかったらどのような問題が起きるか、という点から考えてみると、授業で大切なストック情報を見つけ出しやすいのではないでしょうか?

「進め!理科道」は、隔週金曜日に更新いたします。

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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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