「求心力」のある学校経営をしていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #54】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第12回は、<「求心力」のある学校経営をしていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

遠心力が大きくなる状況

さて、コロナ禍も3年目を迎えようとしています。先行きの見えない時代を生きる私たちですが、中原・田中(2021)はこの時代に「VUCA(ブーカ)病」なる病の罹患者が現代の組織・職場・チームに影響を及ぼしていると言います※1。「VUCA病」の典型的な症状は、①「うちの会社って何の会社だったっけ」症候群、②「あの人、何の仕事をしているんだっけ?」症候群、③「ひーこらひーこら働いているのに木が枯れている」症候群だそうです※2。つまり、組織や職場で働く人たちが、世の中のめまぐるしい変化の中で、それに対応しようと忙しく働いている一方で、仕事は個業化し、リモートワークも手伝ってつながりが希薄になり、モチベーションややる気が失われている状況を言っているのでしょう。

学校も例外ではありません。コロナ禍の中で新学習指導要領が施行され、GIGAスクール構想が推進され、変化する状況や新しいことへの対応をしているうちに、職場のコミュニケーションも減り、人間関係がギスギスし、心身共に疲弊している教師の話をしばしば耳にします。この病に罹患している学校も少なくはないでしょう。

中原・田中(前掲)は、こうした状況では、組織の内側へ向かう「求心力」よりも、外に向かう「遠心力」の方が大きくなると指摘しています※3。このことは私にとっても身につまされる話でした。私のゼミには、少ないときで25名、多いときで40名程度のゼミ生が在籍しています。年齢は、20代から50代まで様々です。メンバーの協働によってゼミを運営していますので、毎年のチームづくりは、その年度の学修の成果を規定するといっても過言ではないくらい重要です。コロナ禍ではオンラインでゼミを開催したり、対面のゼミの時間に対話の時間を増やしたりしてなんとかコミュニケーション不足に対応しようとしてきました。しかし、相当意識していないと、ばらけていくことを肌で感じ取りました。

コロナ対応でゼミ室にいる時間が減り、隙間の時間のコミュニケーションが減りました。また、定期的に開催していた懇親会やゼミ旅行なども開催できなくなりました。そうしたイベント事による楽しさを共有することがなくなり、知らず知らず遠心力が発生していたのだと思います。現在はコロナ禍以前よりもチームビルディングを丁寧に実施する、ゼミの最初に交流の時間を設定するなどして、生産性を落とさないようにしているところです。

校長の居場所と校長室のレイアウト

さて、こうした時代に学校経営の舵取りをする校長先生方のご苦労たるや大変なものだと推察いたします。巷にはリーダーシップ論が溢れていますが、校長先生にしてみれば、「理想はわかるけど、それができれば苦労はないよ」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで本稿では、ある校長先生の行動や発言を記録するフィールドワーク※4を通して、読者の皆さんの行動を振り返り、明日の学校経営に活かしていただければと思います。

校長室の見取り配置図

ただし、ここに登場する校長先生は、いわゆる先端校のカリスマ校長ではありません。地方都市の公立中学校で、日々学校改善に尽力する方です。職員や生徒からの信頼が厚く、「求心力」のある職場をつくっておられます。しかし、リーダーシップの「正解」ではありません。あくまでもサンプルです。ご自身のリーダーシップを知る一つの指標としていただければと思います。

調査協力者であるA校長の、調査時(コロナ禍前)における属性は以下の通りです。教職経験35年、校長職8年目。地区校長会長を担う。勤務校は生徒数約200名、10学級以下の小規模校に分類される。調査時期は、9月下旬から11月上旬の4日間。校長が終日学校に在勤し、学校行事が予定されていない日常的な日を選定しました。

まず、取りあげるのはA校長の居場所です。校長の空間移動や利用の仕方は、校長のリーダー行動(傾向)を把握する有効なデータとなります。4日間平均で、A校長がいたのは、校長室59%、校庭18%、その他の校舎内11%、職員室5%、教室4%、事務室3%でした。他の研究では、中学校、高等学校の校長の場合、校長室にいる割合は、80~90%(篠原、2002)※5や76.4%(露口、1997)※6ですので、これらの研究と比較するとA校長の校長室にいる割合は低いと言えるでしょう。

では、A校長が1日の半分以上を過ごす校長室はどうなっているのでしょうか。上の図をご覧ください。目を引くのは8人がけの円形テーブルです。A校長は着任するとまずこのテーブルを置いたそうです。「かしこまって話をするよりも、生徒がこの中央にいるようなイメージで、かけがえのない生徒のために建設的な話をしたい」という願いからです。篠原(1997)によれば、ソファーのあるなしも「校長室の機能性が変わり、校長のリーダー行動に影響を及ぼす」と言います※7。A校長の振る舞いは、職員や生徒に「開かれたもの」として見えていたのではないでしょうか。大事にしたいことや学校経営のビジョンを伝える機能を果たしていた可能性があります。こうした「見え方」も求心力をつくる一つの要因になるのかもしれません。

※1 中原淳・田中聡『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』日本能率協会マネジメントセンター、2021
※2 前掲1
※3 前掲1
※4 土屋雅朗・赤坂真二「学校改善に努める校長のリーダーシップに関する事例的研究」、臨床教科教育学会『臨床教科教育学会誌』第15巻第1号、pp.31-41、2015
※5 篠原清昭「校長のリーダーシップにおけるエスノグラフィー」、『岐阜大学教育学部研究報告人文科学』第50巻第1号、pp.177-190、2002
※6 露口健司「中学校校長のリーダーシップのエスノグラフィー」、『九州大学教育経営学研究紀要』第4巻、pp.85-92、1997
※7 篠原清昭「校長のリーダーシップのエスノグラフィー:考察枠組みと分析技法」、『九州大学教育経営学研究紀要』第4巻、pp.27-50、1997

『総合教育技術』2022年春号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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