職員室の安全基地を守っていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #48】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第48回は、<職員室の安全基地を守っていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

揺らぐ職員室の「安全基地」機能

本連載も5年目に入りました。引き続きお付き合いいただければ幸いです。

さて、2020年度は、小学校における新学習指導要領の本格実施の年でしたが、コロナ禍がその出鼻を挫いた形になりました。文部科学省は、2020年6月26日付けで、新型コロナウイルス感染症への対応に伴う教職員のメンタルヘルス対策について、都道府県教委などに通達を出しました。校務分掌の見直し、加配教員や学習指導員の活用などにより教職員の勤務負担が重くなりすぎないようにすること、また、土曜日に授業を行う場合は、年度をまたいで振替休日を設けること、などが求められていることはご存じかと思います。

その一方で、各地の先生方から「疲れている」「職員室がしんどい」などの声が漏れ聞こえてきました。そこで、そうした現状を聞いてみようと、「学校・教室の安全基地を守るには」をテーマに、オンライン研修会を開きました。60名以上の先生方が全国から参加されました。その中では、次のような話が聞かれました。

【関西地区小学校教員】
学校全体の雰囲気として、コロナ禍においても、コロナ禍前と同じことをしようとしていて、子どもも先生も時間に追われているように思える。例えば、一旦、中止になった音楽発表会を2月にやる! という話が出たが、緊急事態宣言が再び出され、取りやめとなり、「昨年までの準備は何だったのか」という気持ちになっている。
根本にあるのは、管理職が右往左往していることで、そのために子どもも職員も、何がどうなっているのか分からない状態になっている。クラスが上手くいかなくてお休みに入った担任が2人おり、臨時で入った先生もお休み、教頭先生が入っても統制が効かない状態。何とかしたいと思うものの、一担任としては、自分のクラスを守るのに手一杯という感じがしている。

【北陸地区中学校教員】
職員会議でただの連絡の伝達しか行われておらず、何か言っても、意見が受け付けてもらえない。一人意見を訴えても、賛同してくれる職員がいない。会議が終わると職員室のあちこちでヒソヒソ話が始まるので、周囲の反応が気になって何もできなくなっている。子どもたちへは主体的な対話と言っているにもかかわらず、職員室で対話ができていない。

【中部地区小学校教員】
いじめ対応等で、管理職や先生方が、行政の方を気にしすぎているように思える。何かあったらすぐに書類を書いているが、書類の書き方ではなく、いじめなどの問題が起こらないような学級のまとめ方などを指導して欲しい。教育の話が聞きたい。とはいうものの、教頭先生も忙しそうで、どうしても事務処理の話に目が行ってしまうのも分かるような気がするが……。

最後の方は、新採用1年目の教員です。教職に希望を抱き、晴れて教師となりました。しかし、憧れの先生方の集まっている職員室では、仕事をこなすための事務的な話ばかりで、子どものことや教育の話が聞かれないと言います。

コロナ禍2年目に向けて

教育新聞は「新型コロナウイルス対策をしながらの学校活動で、あなたが最もストレスを感じるものは何ですか?」というテーマで(2020年)7月20日より、インターネット上で読者投票を実施しました。その結果、「感染への不安や緊張」32%、「消毒などの新しい業務」22%、「授業での活動の制限」12%、「土曜授業など不規則な対応」7%と続き、コロナ禍の学校活動で発生する「想定外」の状況が教職員のストレスを助長させていることが分かりました。

コロナ禍は2年目を迎える見通しが濃厚であり、コロナ禍がストレス過剰とされる教員を更に圧迫していることは間違いないと思われます。そうした状況で教員は、自助でしか自らを守ることはできないのでしょうか。職員室は教員にとって安全基地です。皆さんの学校の職員室は、教員にとって安全基地になっているでしょうか。

イギリスの心理学者、ジョン・ボウルヴィ(1907―1990)は、特定の対象との情緒的な結びつきを、アタッチメント(愛着)と呼びました。これは特定の対象を安全基地として利用できるかどうかというシステムのことです。危機的場面や、あるいは危機がなくても特定の対象を安全基地として利用することができれば、安心感を得ることが可能となるとしました。

この安全基地の考え方は、もともとは子どもの発達に関する研究から発展しましたが、近年では人材活用や組織マネジメントにおいて活用されるようになりました。コーリーザーら(東方訳、2018)は、リーダーが信頼に基づく安全や安心感を提供して初めて、メンバーはリスクをとって高い目標に挑戦することができると言います。安全基地となる母親は2つのことをしています。1つは、受け入れ、近くに来られるようにすることで、これによって安心を提供します。もう1つは、子どもがリスクをとる機会を提供することで、子どもは自分で解決方法を見つけられるようになり、自主性が育つのです。

職場のリーダーが、状況に振り回され、職員を見ず仕事の遂行ばかりに関心を寄せ、会議では思ったことが言えず、発言したらしたで後でヒソヒソと何かを言われるようでは、職員は安心して職務に当たれないことでしょう。危機下においては職員の積極的な取組抜きにそれを乗り越えることはできません。職員の意欲を引き出すためには、職員室がまず安全基地として機能することが大事ではないでしょうか。

※1 教育新聞「【教員のメンタルヘルス】コロナ危機下の不調に要注意」2020年7月30日(2021年2月15日閲覧)
※2 ジョージ・コーリーザー、スーザン・ゴールズワージー、ダンカン・クーム著、東方雅美訳『セキュアベース・リーダーシップ 〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる』(プレジデント社、2018)

『総合教育技術』2021年4/5月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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