循環するコミュニケーションがありますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #38】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第38回は、<循環するコミュニケーションがありますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

校内研修と授業の姿が一致する学校

新年度の研修体制をつくっている最中かと思いますが、今回は、校内研修で学校力向上に取り組んでいる事例を紹介します。新潟県弥彦村立弥彦小学校(石黒和仁校長)です。かつては、教室を飛び出す児童や教育機能の低下した学級が見られたことがあり、ここ数年、関係者が一丸となって改善に取り組んできました。研修に関わらせていただき2年が経ちました。

授業が始まると、教師は大型ディスプレイに課題を示し、手早くインストラクションを終えました。すると、子どもたちはそれを待っていたかのように課題解決を始めました。ここまでほんの数分。教室には、一人でじっくり取り組む子、隣の子と相談しながら問題を解く子、または、数人のグループでワイワイ話し合う子、そして、先生に相談する子、教科書を囲んで議論する子もいれば、友達の説明にじっくりと耳を傾ける子……一つの指示で実に多様な学習が展開されていました。これがほんの4年目の教師の授業というから驚きです。彼は、大学で協同学習を学んできたと言います。養成段階で学んだことをフル活用しながら、現場で培った実践力と統合させて、豊かな学びの空間を創りあげていました。

ワークショップ形式の協議会では、先生方の明るく学ぶ姿に圧倒されました。高学年のテーブルでは冗談が飛び交い、その隣の特別支援チームのテーブルからは女子会のような笑い声が聞こえてきました。その様子を教育長と指導主事が微笑ましく見つめていました。教育長は、しんどい時期もあったこの学校の改革を、若き指導主事と共に推し進めてきました。指導主事は、初めての行政経験に戸惑いもあったようですが、教育長の的確な指導とあたたかなサポートで校長と職員を支援してきました。

この日、全クラスを回りましたが、全部のクラスから教師の笑顔と子どもたちの笑い声が見聞きされました。校長は、クラスを回りながら短い時間で、職員の話をしてくれました。けっして少なくない職員のことをよく知っていて、その職員の得意なことや努力していることを話してくれました。完璧な教師などいないはずです。その良さを引き出すのは、周囲、とりわけ管理職の見方が大事です。教室で明るく学び合う子どもたち、そして、研修で楽しそうに交流する職員。子どもたちと先生方の姿にギャップがないことがこの学校の実践に「噓がない」証拠です。校長は、「学校が良くなるところに丁度、私が来たんです」と謙遜します。確かにそういう面もあるでしょう。ただ、彼がそれを加速させたことは間違いないのではないかと思いました。

風通しの良い組織

石黒校長は、次のように語ります。

「前任の校長先生からは、『数年前までは教室を飛び出す子どもがいるなど荒れ気味だったが、年々良くなってきている。最近は集会でも静かに話が聞けるようになってきた。職員はやる気があって熱心で研修にも前向き。地域との結びつきが強く、伝統の行事や活動が多く勢いのある学校だよ』と引き継ぎを受けました。私としてはその流れに乗ったまでです。もちろん、課題は残っていました。特別な支援を要する児童が多く、その対応に苦慮していましたし、社会性や学力に難がありました。私が心がけたことは、課題と対応(取組)の焦点化と共有化です。村教委の多様な施策(要求)を上から下ろすのではなく、校長の思い・考えとして、校長の言葉で職員に伝えたつもりです。そして、校長として、私の強みである多動多弁を生かし、なるべくたくさん教室や授業を見たり、教職員と話したりしました。特に研究主任とは校内研修の内容と方法について幾度となく話し合いました。まずは教科を絞らずに、関わり合って学び、考えをつくることを焦点化して取り組むこととし、1年間のスケジュールを決めました。学級づくりや授業づくりでは、研究主任を中心に赤坂先生が提唱するチェックリストを活用したり、KPT法によるワークショップを繰り返したり、とにかく定期的、継続的に取り組みました。村教委の指導主事や外部講師を積極的に招き、ご指導を仰ぎました。成果や課題はすぐにフィードバックし、シェアしました。全教職員で課題を共有し、協議し、課題解決に向けて総意で進めていくスタイルです。おかげでさらに良くなってきている実感があります」

この学校の取組の成果が比較的早く見られた理由は、実態を見据えて取組の優先順位を決めたこと、そして、そこに向かって職員のベクトルを共有できたことではないかと思います。すぐにでも授業改善に着手したかったでしょうが、子どもや教師の実態を考え、まず、学級環境を安定させることを選択しました。しかも、その取組に対し、行政が全面的に後押しをしました。

「行政と学校現場の連携」、「教員養成と教員研修の一体化」など教育改革のキーワードとして挙げられながら、なかなか実現が難しいとされていることが、弥彦小学校では実現できていることに驚きを禁じ得ませんでした。教育長のビジョンは、指導主事によって学校に伝えられ、管理職は自分の言葉で職員に語りました。そして、それは校内研修や研究通信で各教室へと伝えられました(研究主任が作成する研究通信が実に秀逸)。校長は、足繁く教室に通い、そこで目にする教師、子どもの姿が教室からのフィードバックになっていました。

弥彦小学校では、トップとボトムの間をビジョンが行き交う循環型とも呼ぶべき円滑なコミュニケーションがなされていました。こうした「風通しの良さ」が、職員や子どもたちの笑顔に繫がっていくのではないでしょうか。

『総合教育技術』2020年5月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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