ある自治体の教師力が伸びた要因とは?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉛】
目次
「別の自治体の教師力が伸びた要因は何?」
先日、とある自治体の指導主事の先生と雑談をしていたとき、「近年、別の自治体の教師力が全体に上がってきているように思うが、要因は何だろうか?」と話しておられました。そこで、早速、その別の自治体のベテランの先生数名にお電話をしてお話を聞いたところ、いくつかの要因が挙げられたのですが、その内容についてお話をしてみたいと思います。
指導教諭の授業公開のあり方が一つのポイント
とあるベテランの先生から出た要因の一つは、指導教諭の授業公開のあり方についてでした。
ちなみに、指導教諭という制度は、2007年の学校教育法改正によって新たに配置が可能になった職責で、馴染みのあるところでは主幹教諭もこの法改正によって新たに配置可能になりました。主幹教諭と異なり、指導教諭は配置している自治体も、そうでない自治体もあるのですが、先のベテラン先生のお話によると、指導教諭は年に何度か(小中学校ともに)専門教科での授業公開をし、そのときに参観に集まった少人数の先生方と、1時間じっくりと授業づくりについて話し合うことが、特に若い先生方にとって授業づくりの勉強になっているのではないかということでした。
私は前回、公開研究会についてお話をしたとき、どんな初歩的な質問であってもしたほうがよいというお話をしましたが、それと同様に初歩的な話から高度な内容まで、参加された近隣校の先生方と、膝を交えてじっくりと授業づくりについて話し合う時間が、多分、大きな学びの機会になっていると話されていたのです。
ちなみに、指導教諭とは少し制度が異なりますが、全国には多様な教科で指導力の高い先生を授業名人として指名する制度があります(呼称は「マイスター」「授業づくりの達人」など多様)。そうした授業名人制度も、ほとんどが授業公開を義務付けられています。ただし、どうしても参加者が多くなってしまって初歩的な内容まで対話していく機会がもてないのが現実ではないでしょうか。そうすると、若い先生方にとっては、どこか絵空事のような高度な内容に終始して結局、次の機会もうまく授業を身近なものとして見る視点がもてないのではないかと思うのです。そうではなく、授業の中で生じ得る多様な質問の内容について、じっくり話すということが重要なのではないでしょうか。
その点、秋田県の教育専門監は、在籍校と近隣数校で担任の先生とともにTTで授業を行いながら高い指導力を伝えていくという点で、他の授業名人制度よりもより効果的ではないかと思っています。これもまた以前に触れましたが、参観者という立場ではどんなによい授業であっても、どうしても他人事として授業を見てしまう人が出てきてしまいます。そうではなく、常に授業者として授業力の高い先生とともに授業をつくっていくことで、その先生のちょっとした子供への対応から高度な授業構築の考え方まで、当事者として考えながら見ていくことが重要なのだと思うのです。
少し今回の話の筋からズレてしまったので、話を戻すことにしましょう。冒頭でお話をした指導主事の先生にこのお話を伝えたところ、「授業公開後の勉強会のやり方については、それを参考に少し見直してみるとよいかもしれない」と話しておられました。
オンラインの勉強会でじっくりと対話する
先ほどのベテランの先生とは別の先生に聞いたところ、先の指導教諭について同意された後で、近年のICT環境の進歩によって、特に若い先生の多くがオンラインでの研究会、研修会に参加されるようになったことも大きいのではないかと話しておられました。実際に、そう話してくださったベテランの先生は、やはり個人的なオンラインの勉強会を開いておられ、身近な若手の先生方を中心に、教科の授業づくりのことから細々とした学級のことまで、多様な対話をされているそうでした。さらには、その先生の同世代の優秀な先生方のなかにも、個人的なオンライン勉強会を開いておられる先生方がいらっしゃるとのことです。
ちなみに、先の指導主事の先生にこの話をしたところ、「残念ながら、うちの自治体はそれほど身近にICTを活用しておられる先生がまだ少ない。この方法はすぐには取り入れられないかもしれない」と肩を落とし気味に話をされました。
ただ一般的に考えてみると、GIGAスクール構想の実施により、各学校のICT環境は一気に整備され、実際に授業で活用する場面も増えてきています。特に、コロナ禍によってオンラインでの研究会や研修会が増えたこともあり、身近な勉強方法として活用されている先生が増えてきているというのが私の実感です。
前回の最後に、どんな初歩的な質問でもしてみるために、小さめのオンライン勉強会に参加して、積極的に話す練習をしてみてはどうかとお話をしましたが、実際に先のベテランの先生方も、それを異口同音に話しておられました。そう考えてみると、前回の私のお話と今回の2名のベテランの先生方のお話は通じるところがあるのではないでしょうか。やはり、一問一答のような表層的な会話ではなく、教育についてじっくりと話す対話の場が必要ということですよね。
余談になりますが、学校5日制が完全実施になった数年後、管理職やベテランの先生方とお話をしていたら、若手の先生方を育成するうえで土曜日の放課後がいかに有効であったかと話される先生が多くおられたのを思い出します。口を揃えて、「職務の忙しさも一段落した土曜の午後に、ちょっとした学級経営のことから、授業づくり、教材研究まで幅広く話ができる場をもてたことがとても大きかった」と話しておられました。
現在は、おそらくそんな余裕のある時間帯は学校にはないのかもしれません。さて、そうすると先生方はどんな方法で、そんな成長の時間を確保されるのでしょうか。先生方のアイディアを伺ってみたいところです。
「キャリア教育」に関して、子供たちに話をしました【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉜】はこちらです。
執筆/矢ノ浦勝之