コミュニケーションの授業はエンターテインメント【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #19】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第19回「コミュニケーション科」の授業は、<コミュニケーションの授業はエンターテインメント>です。

重要な教室の空気づくり

今年度(2022年度)に入り、再び学校で授業を行う機会が増えました。初めて出会う子どもたちに授業を行うとき、最も重要なのは、教室の “空気づくり” です。

私が行う授業は、1つの正解を求めるのではなく、一人ひとりが自分で答えを見つけ出していくことを第一に考えています。そこにあるのは正解か不正解かではなく、一人ひとりの “違い” です。

自分で答えを考える。
友達の意見を聞く。
友達の意見を聞きながら、自分の意見を変えることもできる。
友達と意見を交わし、自分の答えをより明確にする。
自分で考えること、いろいろな考え方を知ることが楽しいと思える。

こうした教室の空気づくりは、飛び入り授業だけではなく、通常の授業でも重要です。子どもたちの主体的な学びを育てる土壌となる、活発な意見を交わす場をつくるために、どうやって空気を醸し出していくか。前回、教師の発問だけでなく、パフォーマンス力(身体表現力)にも目を向けることが必要だということを述べました。

対話や話し合いをベースにしたコミュニケーションの授業は、教師がファシリテーターとなり、パフォーマンス力を発揮して創る、いわばエンターテインメントです。全員が参加し、学びの過程をみんなで楽しみながら、一緒に創り上げていくエンターテインメント、それがコミュニケーション力の授業なのです。

教師は、授業の発信源

このような授業を成立させるためには、全員参加が必須です。

題目を与えて、子どもたちに「話し合いましょう」と指示するだけで、活発な話し合いが成立するわけがありません。まずは自分で考え、次に友達と意見を出し合い、最後は自分の中で振り返りを行う、という活動を取り入れ、「自分から授業に参加した」と思える時間と場を保障しなければなりません。

教師は、授業の発信源であり、同時に子どもたちの空気の受信源でもあります。1時間の授業で見た場合、前半は授業ライブ力の図にある周りの4つの力(笑顔力、10割ほめる力、身体表現力、上機嫌力)を基盤にしながら、教師主導で教室にプラスの空気をつくっていきます。

正解を求める授業に慣れている子どもたちは、最初は戸惑うかもしれません。自分で考えたことが正解なのか自信を持てず、「わかりません」「(前の子と)同じです」で逃れようとするマイナスの行為もあるでしょう。しかし、教師はここであきらめることなく、プラスのアプローチ(下の「言葉がけ」参照)でマイナスをひっくり返す覚悟が必要です。

「みんなで学ぶ」という空気ができてきたら、後半は教師は一歩引き、自由な話し合いや発表など、子ども中心の活動にしていきます。そして締めくくりとして、じっくりと授業の振り返りを行います。こうした授業を積み重ねることで、子どもたちの思考の質が深まっていくのです。学びに向かう集団をつくっていくエンターテインメントの授業は、これからの教室に不可欠です。


 世の中の科学の進歩、スタートは全て「わかりません」からだった
 悩んだ? 考えてる? それでいい。学校は悩んで考える力をつけに来ているんだから
 そうか、そのような問いを出した先生が悪かった
 ありがとう。先生の○○や△△が悪かった。「わかりません」と言ってくれたから、先生は、「ちゃんとしなさいよ」と教えられた。授業のやり方を教わったことになる。だから当然お礼を言わないといけない
 大丈夫。みんなが必ずフォローしてくれるから。そこでわかればいいんだからね
 意見には、正解やまちがいはないんだ。一人ひとり違うだけ。だから、君の「わかりません」も1つの意見としてよい
 世の中はわからないことだらけ。わかっていることはほんの一部。気にすることではない
「わかりません」は知らないことを恐れないさわやかさがある。「できません」は違って悪い開き直り。君はさわやか、素直だ。成長の条件
 わからないから学んでわかりたい? 向上心がある。知識欲がある
 後でもう一度聞くから、友達の意見の中で一番近い意見を聞いて見つけてね。よく聞いていたね。正解がないから、今は自分の意見をこれからつくっていけばいい
 話すということは自分を語ること。「わかりません」にも自分がある
「正しい答え」を答えるばかりだったのに、急に自分の意見を聞かれてびっくりするよね。(を)
 意見は全て「(仮)」なんだよね。話し合ってそこから成長させる。つまり、変わるもの。後で「(仮)」から自分の意見が持てるようになる。そこが大事で価値がある。期待しているよ
なるほど。君がそう言ってくれたから、みんなが君も含めて全員でわかり合おうとするでしょう。全員がよくなるきっかけでもある。ありがとう
 よく答えられたね。もし自由に立ち歩いて友達と交流していれば、おそらく君は自分の言葉で自分の意見を言えたかもしれない。そうではなくて、このみんなが座って聞いている状態で、よくぞ言えたね。そこがすごい

実践!「コミュニケーション科」の授業
分解した漢字で川柳を作ろう!

<広島県広島市立中筋小学校4年1組>

漢字を分解してみよう

「こんにちはっ!」
菊池先生が教室に入るなり挨拶をすると、4年1組のみんなが大きな声で「こんにちは!!」と返した。
菊池先生が「返事のスピードが早いねえ」と言いながら、黒板の左端に〈ほんわか〉と書いた
「4時間目に、あなたたちの授業の様子を見ていたとき、とても温かくて “ほんわか” したクラスだと思いました。今日は楽しい時間にしましょう」
菊池先生の言葉に、みんな笑顔になった。

「短い文を作ってきたので書きますね。お、みんなチョークの先を見てるね。すごいなあ」と菊池先生がつぶやくと、子どもたちの表情がキリッと変わった
黒板には、次の3つの文が書かれた。

①木の下で/人がゆっくり/休んでる
②信号で/少し止まって/また歩く
③炭がある/山に火がある/灰になる

「3つの文を読んで気づいたこと、思ったこと、何でもいいからたくさん書きましょう」と菊池先生。さっとノートに書き出す子もいれば、思い浮かばずに悩む子も。

「友達の意見を聞いたり相談したりして、自分のノートに書き写したり書き足したりしましょう」
さっと立ち上がって自由に意見交換。座ったまま、じっくり考えている子もいる。子どもたちの様子を見ながら、菊池先生が黒板の左端に〈ひとりぼっちをつくらない〉〈一人が美しい〉と書き加えながら、「どちらもすごく大切なことを、このクラスはみんなできている。すごいですね」とほめた

意見交換をした後で発表。

五七五になっている
短歌
俳句
③は、「山」と「灰」を組み合わせると、「炭」になる

発表を聞いていた数人が「あっ、そうか!」と手を挙げ、「①は『木』と『人』をあわせると、『休』になります!」と発表した。
「大正解! じゃあ、念には念を入れるぞ」と菊池先生が書き足した。

④少しだけ/目がかわいいかも/○三くん
「○に入る漢字は何ですか?」と菊池先生が尋ねると、みんな大爆笑。正解は、もちろん「省」だ
「季語が入っていない五七五の文章を川柳と言います。今日は、分解した漢字を使って……」と菊池先生が話しながら、黒板に大きく、〈漢字の川柳コンテスト〉と大きく書くと、子どもたちから大きな拍手が起こった。

菊池先生が分解できる漢字の例として、「炎」を挙げると、何人かの手が挙がった。
「『山』が2つで『出』になる」と誤答した子に対しては、「こういう発想は好きだなあ。実は先生も4年生の頃、君と同じように考えていました(笑)。今日の川柳は、こういう考え方もありです」と話した

古、森、品、明、鳴、畑、男、線──菊池先生が、分解できるいくつかの漢字を例示しながら、次のように川柳のルールを説明した。

①五七五になっている
②分解した文字が入っている
③ちょっと笑える

4~5人の班に分かれて、話し合いながら1つ作って発表。どんな漢字を使うか出し合ったり、指を折りながら考えたり。教室のあちこちで、楽しそうに話し合う声が響いた。
子どもたちが作った川柳は次の通り。

図工でね/力を合わせ/成功だ
火曜日に/田んぼに野菜/植えたんか
門ひらき/目を見ていたら/朝の九時
のうじょうの/大きい羊/美しい
日がのぼり/月が出てきて/明るいな
男の子/力で田んぼ/ふっとばす
鳥たちは/口を使って/鳴くんだよ

できあがった川柳を見ながら、「『植えたんか』って、なんかおばあちゃんがしゃべっているみたいだ」「あれ? 何の漢字が分解されているのかわからなくなっちゃった」と、みんなで大爆笑。時間切れで作れなかった班に対して、「一生懸命考えていたけれど時間いっぱいになってしまった。この時間で発表できなかったけれど、明日以降におもしろい川柳を作ってくると思う人は拍手しましょう」と菊池先生が話しかけると、教室中に大きな拍手が響いた

「今日発表しなくても明日でいい、と友達と信じ合える、みんなで楽しめるルールを作って一緒に遊べる4年1組はとてもいい学級だと思いました」と菊池先生が授業を締めくくった。

授業後、子どもたちは「自分一人では難しいけれど、みんなで考えると作れたのでよかった」「相談しながら作ると、自分では思いつかない意見も出ておもしろかった」「みんなで考えたり、黒板に書きに行ったり、チームワークの良さが出たと思う」と感想を話してくれた。

他の班の発表を真剣に眺める子もいれば、他の発表を参考にさらに相談し合う子も。多様な学びがあふれている。


 黒板の左端5分の1ほどのスペースに、子どもたちに育ってほしい力を書き込む「5分の1黒板」。「やる気の姿勢」「一人が美しい」など、授業に対する姿勢を示すものだけでなく、「ほんわか」など、教室の学びの熱を上げる“空気感”を入れてもいい。
 「ちゃんと黒板を見なさい」と注意をするのではなく、「みんなチョークの先を見てるね。すごいなあ」と話すことで、子どもが自発的に黒板を見るようになる。自ら行うように仕向けることで、子どもたちの集中力が高まる。
 一人でじっくり考えたい子もいる。「ひとりぼっちをつくらない」「一人が美しい」という視点は、子どもたちの多様な学びを認めることである。
 初めて出会った人からの授業、しかも周りに参観者が大勢いる中での授業。ユーモアを入れることで、子どもたちの緊張感もほぐれる。
⑤⑥ 「間違えた」「できなかった」と子どもたちに失敗感を与えるのではなく、プラスのアプローチが大切。

『総合教育技術』2022年夏号より

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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