効果的な学校づくりの最大の障壁【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #11】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第11回は、<効果的な学校づくりの最大の障壁>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

学級経営による教育効果

学校改善に関わるときに、1回目の研修会で必ずお話をさせていただくことがあります。学校スタンダードに対して賛否両論はありますが、私は一定以上の質の教育を保障するならば、「揃えるべきもの」は存在していいと思っています。ただ、小学校を中心にして見られる、教室の掲示物の種類から位置、机上の筆入れやノートの配置までを揃えるような「過剰な統制」は問題があると思います。今回の内容は、教育効果を上げるために、ご依頼をいただいた学校には「標準装備」してほしいこととしてお伝えしているものです。全国あちこちの研究会や校内研修では、若い先生方のお悩みだけでなく、中堅やベテラン層の先生方の相談にのることもあります。ミドルリーダークラスの先生方で、次のような悩みをもつ方に会うことが多くなりました。

「先生、私は若い頃から教育書を読み、官製研修だけでなく、土日のセミナーにも参加して勉強してきました。近年は、学び合いやファシリテーション型の学習のブームですから、そうした研究会にも顔を出し、活動型の授業をするようにしています。しかし、子どもたちの動きが思ったものとは違っているんです。何か、しっくりこないのです」というような話です。最初は謙遜してそう言っているのかと思いましたが、ご本人の表情を見ていると本気で悩んでいるようです。こうした話を読み解くヒントとなる指摘があります。

年間に何回もの「飛び込み授業」をする筑波大附属小学校の桂聖氏は、「同じ学年、同じ教材で、同じような授業展開で授業を行うことがあります。でも、同じ授業にはなりません。なぜなら、各学級で子どもの実態が違うからです」と言います※1。クラスによって、働きかけに対する反応が異なることは、以前から特別支援教育の中でも指摘されていました。特別支援教育のスペシャリストの川上康則氏も「個に “特化し過ぎた” 支援を行うことでかえってクラスが荒れてしまう、という事例が相次いで報告されるようになりました。『なぜA君だけが許されるのか?』という気持ちを抱く子どもはクラスの中に少なからず存在します。個別の支援が、教師への反発を招くきっかけになってしまったり、『A君だけ特別ね』『A君は楽できていいね』といったからかいを助長してしまったり……これではせっかくの支援も空回りしてしまいます」と言います※2

これらの問題の所在はどこにあるのかと言えば、多くの読者の皆さんはおわかりのことと思います。そう、学級経営の問題です。教師の用意した教育プログラムを子どもたちが受け入れられる状況をつくっておかないと、どんな手立てを打っても効果を発揮することができないのです。スペシャリストたちが、今あえてこれを指摘しなくてはならないということは「学級によって教育効果が全く異なる」ことが、あまり理解されていないのではないかと思います。

最大の問題

このようなことが起こるのは、学級経営に関わる根深い問題が横たわっているからだと考えられます。最大の問題と言っていいでしょう。皆さんは、教員免許を取得する大学の専門課程で「学級経営」という科目を履修したでしょうか。恐らくしていないはずです。現行の教員養成課程では、「学級経営」という必修科目は設定されていません。一部の大学では選択科目として設定されていますが、少数派です。学級経営を学ばなくても教師になれるのです。つまり、学級経営においてはほぼ「丸腰」で現場に放り出され、自分の子どもの頃や教育実習の経験だけで勝負しなくてはならないのです。経験ほど曖昧なデータベースはありません。経験則は、ある限定された場面では特効薬となりますが、異なる状況では使えない場合が多いのです。現在の多様化した子どもたちの実態に対して経験則だけで立ち向かえるわけがありません。

教員養成において実践的に学級経営に触れることができるのは、教育実習です。しかし、その教育実習を受け入れてくれるのは学校内でも実力のある教師の安定したクラスです。学生たちはそこで、「夢の時間」を過ごして大学に帰ってきます。拙い授業でも子どもたちが「楽しかった」と言ってくれた、また、最後の日には、サプライズでお別れ会を計画してくれた、こうした喜びに満ちた経験が、学生たちの夢を応援する一方で、偏った現状認識も育てます。教育実習は、教師のコントロール可能なクラスで実施されます。つまり、学生たちは、実力ある担任たちがつくってくれたとても整ったステージで、気持ちよく踊らせてもらったダンサーに過ぎません。しかし、プロの教師になったらステージどころかそのホールまでつくる力が求められます。

子どもたちをコントロールすることが可能な環境のみで学習してくるから、子どもたちがコントロールできないときに、不適切な対応をしてしまうわけです。たとえ教員免許を取得した教師であろうとも、学級経営に関しては、「ペーパードライバー」どころか、「無免許」なのです。「教師は授業で勝負」「よいクラスをつくりたいならよい授業をせよ」などと、学級担任をしなくなったベテラン層が半ばこうした強引なことを若手に言ってしまい、若手が混乱してしまうのは当然と言えば当然です。教室の実態がこんなに多様化する前は、学級経営など特別に勉強しなくてよかったのです。

と、このようなお話をしながら、学級経営に対する認識を改めていただき、その上で学級経営の実務をお伝えしています。まずは、こうした条件整備をしないと授業改善は始まらないのです。

※1 ※2 桂 聖・川上康則・村田辰明編著、授業のユニバーサルデザイン研究会関西支部著 『「安心」「刺激」でつくる学級経営マニュアル』2014、東洋館出版社

『総合教育技術』2018年2月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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