小学校理科における1人1台ICT端末の活用 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#15
1人1台端末が進み、各学校では子どもたちもどんどん使えるようになってきました。このような中で、「先生が端末を使いこなせるか」ということが求められるようになりました。まずは、使ってみる、そして各教科の授業の中で使いこなす、という順に身につけていくことになると思います。皆さんは、現在どの段階でしょうか? 今回は、「理科」という教科(問題解決)の中で、端末をどのように使っていくのかについてまとめてみました。私が特に大切だと思う機能は「確認機能」と「共有機能」。この2つの機能をしっかりと目的をもって使いこなすことが理科ではポイントだと考えます。
執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.小学校理科の「問題解決の過程」における端末の「4つの目的」と「6つの機能」
小学校理科は、問題解決の過程(問題の見いだし→予想→検証方法の立案→観察・実験→結果の整理→考察)を通して問題を解決していきます。つまり、理科は頻繁に上記のような流れに沿って進むわけです。そうすると、ICT端末の利用のしかたにも決まりみたいなものができるのではないか? そこで今回は、問題解決の過程に沿って、どのようなICT端末の利用のしかたがあるのか整理してみたいと思います。
結論から言いますと、理科として端末を使う目的としては「集める」「考える」「深める」「高める」の4つがあり、「集める」には、検索機能・蓄積機能という2つの端末の機能があり、「考える」には、確認機能・整理機能の2つ、「深める」には共有機能、「高める」には習得機能という、ICT端末には6つの機能があると考えます。
問題解決の過程において、6つの機能がどこで強く働くのかについて整理したのが次の図になります。
2.「問題解決の過程」における端末の「4つの目的」
理科として端末を使う「集める」「考える」「深める」「高める」の4つの目的について説明します。
(1)集める
この図を見ると、端末を使って情報を「集める」というのは、授業の最初の場面や観察・実験の場面でよく働いていることがわかります。授業の最初の場面では、観察した “ふしぎ” を記録に残したり、調べたりします。観察・実験の場面では、計画時にその方法を調べたり、実験中の記録を残したりして端末をよく使うわけです。
さて、ここで考えたいのは、検索したり撮影したりして集めたこれらの記録は、何のためにしているのでしょうか。記録をすること自体が目的ではないはずです。
まず、授業の最初の場面は、問題の見いだしや予想をする際、最初に見たものを再度振り返ったり、友達と疑問を共有したりする際に記録を使います。
一方、観察・実験の場面では、実際に観察したり実験している時の記録が中心ですから、そのあとの結果の共有や考察など、思考する場面でより妥当な判断をしたり、友達やほかの班と結果を共有するために記録を使います。
(2)考える
どの教科でもそうですが、理科でも「考える」ことを大切にしたい。上の図で「確認機能」を使う場面を見てみると、問題の見いだしや予想・仮説の設定の場面、結果の整理や考察や結論を出す場面になります。実はこの場面で確認して「考える」ことをしています。
ここで留意したいのは、思考するには、そのための素材が必要で、それぞれの場面では、「集める」で集めた記録をもとに「考えている」ということです。
また、整理機能は、ノート等に整理し自分の考えをまとめたり整理したりすることであるため、特に問題解決過程の後半で重視されることがわかります。
(3)深める
考えを「深める」には自分の力だけでは限界があります。そのため友達の様々な考えを共有し、自分の考えをより良いものに変えていくのが一般的な授業の流れです。このことは、自分の考えを「深める」ということになります。ここで端末を使って「深める」というのは、情報を共有して自分の考えを拡げたり、深めたりすることを意味します。
(4)高める
ここでの「高める」という意味は、これまで学習したことをしっかりと定着させるという意味になります。端末を使った場面としては、学習の塊ごとの終末でドリル等を使って定着の確認をしたり、応用場面でも学習したことが生きているのか確認したりするときに使います。
ここで留意したいのは、「端末を使ったからと言って、子どもは皆意欲的になるわけではない」ということです。「AIドリルを使えば、子ども個人に応じた反応をするので子どもも主体的に学ぶ」というのは間違いで、端末を使う際でも、教師は目的を持たせたり、達成をほめたりして意欲を高めるための働きは必要です。
3.「問題解決の過程」における端末の「6つの機能」
(1)「検索機能」(情報を “集める”)
「検索機能」は、情報を検索するなど、調べたいことを調べるための機能です。端末が入る前と比べると、子ども1人ひとりが自分の意志で調べたいときに調べられるようになりましたし、教科書や図書室の本など限られた情報の中から探すのではなく、インターネットの中から必要な情報を調べることができるようになりました。情報量も多いですし、天気予報など、リアルタイムな情報も自分で調べられるようになったのは大きな変化といえるでしょう。
理科では、地元の地層の情報や、自分が住んでいる地域のここ数日の天気のような情報など、教科書や本に載っていないものを調べる際に、特に役立ちます。
(2)「蓄積機能」(情報を “集める”)
「蓄積機能」は、情報をあとで使うことを想定し、情報を残すための機能です。一人一台端末以前は、班でデジカメをもって一部の子どもに写真を数枚撮らせる程度でしたが、今では好きなだけ撮り、後から必要な写真や動画を選択するという残し方に変わってきました。また、個人個人がカメラを持っているわけですから、人に影響を受けず、自分の意志で情報が扱えるようになりました。「自分が集めたい情報を、集めたいだけ集められる」ようになったのは大きな変化といえるでしょう。
理科では、実物をあとでもしっかり見せたいとき、細かな部分をクローズアップしたり、長期間観察して変化を見たいとき。そして、言葉で説明しにくい状況においてその様子を映像で残す、といったことに役立ちます。
(3)「確認機能」(情報を使って “考える”)
「確認機能」は、目的に応じて、記録した情報を正しく捉えるための機能です。端末が入る前と比べると、これまでは、1度だけ観察した記録だけしか使えなかったり、自分が見ていない部分があったとき他の人の発言や記録から「そういうことがあったのね」で終わってしまう。などといったことが多々ありました。端末が入ることで、記録した写真や動画を何度でも確認できたり、変化が速すぎて見えにくかったものをじっくり観察したり、過去の情報をたくさん参照することができるようになったのは大きな変化といえるでしょう。
理科では、いろいろと視点を変えて見たり、あとからゆっくり何度も見返して確認することも多いです。もちろん自分自身で実物を観察することが前提ではありますが、その観察の様子を情報として記録することでより正しい判断をする際に役立ちます。
(4)「整理機能」(情報を使って “考える”)
「整理機能」は、記録した情報や思考を整理するための機能です。端末が入る前と比べると、これまでは紙のノートで記録していましたが、デジタル化することで教師への記録の提出が迅速になりました。授業中に、子どもがリアルタイムに書いていることが見えるようになりましたし、授業後にわざわざ紙のノートを集めなくても、当該分のデジタルノートを送信すればよくなりました。子どもの書き込みが簡単に収集され、教師が好きな時間に確認できるようになったことは大きな変化といえるでしょう。現段階では子どもにとっては、得意不得意があるため紙ノート(写真が添付できないなどの制限がありますが)でも、デジタルノートでも、両方認めてあげると良いでしょう。ノート記録の提出は、紙ノートの写真を撮り、写真データを送ればよいだけです。「デジタルノートだけ」というように教師側の都合を押し付けないことが大切です。
理科では、自然を対象にしていることもあり、今後は文字だけでなく絵や写真をたくさん交えつつノートを作ることが増えると想定されます。表現力が紙の時よりも高まったことから、子どもがこれまで自分が描いた絵や言葉で説明したいものを、より分かりやすくする際に役立ちます。
(5)「共有機能」(情報を使って “深める”)
「共有機能」は、班や個人それぞれが、ほかの人たちに情報を正しく伝える、共有した情報をもとに自分の考えを再度見直し、情報をより正しく捉えるための機能です。端末が入る前と比べると、これまでは、学級で発表した内容の共有が一般的でしたが、せいぜい数名の児童が発表して、その情報をもとにまとめざるを得ませんでした。つまり、発表していない人の考えは、ほかの人には共有されないまま授業が進んでしまっていたわけです。端末が入ることで、全員の考えを共有して、子どもはそれぞれ好きなように記録を見ることができ、多くの情報が短時間で手に入れられるようになったことは大きな変化といえるでしょう。
理科では、問題解決の様々な場面でこの機能を活用できます。ほかの人がどのように考えているのか共有したい、どのようにまとめているのか見本を提示したい、複数の考えを同時に提示したりして、視覚的な違いから考えを進めたい、など、子どもたちの考える視点を増やしたり、考えるきっかけを作ったりする際に役立ちます。
(6)「習得機能」(デジタル問題集などで “高める”)
「習得機能」は、個人の理解状況に応じてレベルにあった問題を解いたり、応用として適用できるかを試してみるなど、これまで学習したことを定着させるための機能です。端末が入る前と比べると、これまでは、紙のプリントを配って解かせていましたが、人によってレベルが違い進度が異なり、複数プリントを作るなど対応に苦労したり、採点の際に列を作って採点待ちで時間を浪費することもしばしばでした。端末が入ることで、自動採点や、レベルに応じた問題の提示、何より子ども自身で問題を選ぶことができるなど、個々人にあわせた対応が可能になったのは大きな変化といえるでしょう。
ほかの教科でも同じですが、理科では、繰り返し問題を解いて、わかっていること、わかっていないことをはっきりさせることや、難しい問題に挑戦する、逆に自分のつまずきを発見する際に役立ちます。
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<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。