情報端末を活用した授業の発信は授業力向上に効果あり?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉗】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
情報端末を活用した授業の発信は授業力向上に効果あり?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉗】

自らの授業を情報端末で整理・発信することには効果がある?

GIGAスクール構想の実施もあると思いますが、近年は、自ら情報端末を活用して実践の記録を残したり、さらにそれらを再整理して、SNSで発信している先生も少なくありません。またオンラインで、多様な勉強会に参加している先生も少なくないと思います。どちらも先生方の教師力を向上させるうえで、一定の効果があると思うのですが、今回はその前者の効果について、「子供の学びを見とる目」という視点でお話をしてみたいと思います。

ある中学校を立て直した校長先生の研修とは

ここ2年半以上にわたって、コロナ禍の影響で直接に授業取材を行う機会はめっきり減ってきてしまいましたが、私たち取材者は、可能な限り直接学校に伺って実践を拝見し、自ら写真を撮り、その写真を使って紹介記事を構成するというのが基本です。しかし、長期に及ぶ実践だとか、掲載時と実践時のタイミングが合わない場合には、すでに撮られた写真を貸していただいて、記事を構成していく場合もあります。

そんな借用写真で記事構成をしているときに、これまで何回かお話をしたT編集長が、「何か写真がぼやけとるな」と言い出すことがあります。「ぼやけとる」というのは、「ピントが合っていない」「ボケている」という意味ではありません。見る側に対する訴求力が弱いという意味です。さらに続けて、「もっと、ええ写真ないの?」とT編集長。そこで、私は「借用写真で、あまりよい写真がなかったんですよ。先生方が実践中、記録用に撮られたものだし、写真の専門家ではないので仕方ないんですよ」と答えたりしていました。ところが、「写真を撮る専門家ではない」という考えが大きく変わった取材があったのです。

もう10年以上前のことですが、ある自治体の大規模な中学校を取材したことがありました。その中学校は少し前まで荒れていたと言いますが、赴任して来られた校長先生が学校改革を進め、学校の雰囲気がガラッと変わり、全国学力テストの結果も大きく向上したというのです。その校長先生は、授業改善を中心に学校改革を進めたというのですが、そのために行った実践がそれまで聞いたことのないものだったのです。

その校長先生は週に1度、校内研修を行ったと言います。その際に、「それまでの1週間に、自分が行った授業のなかで、子供たちが最も輝いている瞬間、学びに集中している瞬間の写真を撮って、それがどんな授業のどんな場面かを説明しなさい」というのが、先生方に与えた研修のテーマだったのです。その学校の取材では、実際に写真を撮っておられるところや、過去に研修のために撮られた写真を拝見しましたが、確かに「ぼやけ」てはいない、子供の学ぶ姿が見えてくるよい写真ばかりでした。

その取材で、はたと気付いたのは、「ああ、以前の取材でぼやけた写真を貸してくださった先生方は、写真の腕がなかったのではなく、子供の学びの姿を見とる目がなかったのか」ということでした。記録写真だから、「広角に撮って、撮り漏れのないようにしよう」という思いもあっただろうとは思います。しかし、本質的に子供の学びの姿を伝えるという気持ちや、それを見とる目がないために写真がぼやけてしまっていたのだろうと思ったのです。

自分の授業での子供の姿を撮ることで目が育つ

さて、こうお話ししてくると、冒頭で触れた情報端末による自身の実践記録整理やSNSの活用による発信が、なぜ授業力の向上につながる可能性があると私が言うのか、ご想像いただけるのではないかと思います。

情報端末を使って、常時発信を前提としながら、子供の学ぶ姿を撮って整理し、発信しようとする先生方は、まず読者(ページ閲覧者)に伝わるよい写真を撮ろうとするでしょう。そのためには、自然と子供の表情や姿勢、言動に注意を払い、イキイキとした写真を撮っているはずだということです。つまり、子供の学びを見る目が育つ可能性があるということです。それは、結果的には日々の授業づくりによい影響を与えるはずでしょう。

「私個人としては、動画で撮り続けるよりも、写真で瞬間を撮ろうとするほうがより効果的だと思いますが、皆さんはどうお考えですか?」
「私個人としては、動画で撮り続けるよりも、写真で瞬間を撮ろうとするほうがより効果的だと思いますが、皆さんはどうお考えですか?」

もちろん「映える」ことばかりを気にしてしまって、そこにある子供の心の動きや頭の働きにまで配慮できていない場合もあるのかもしれません。しかしそれですら、発信すれば、結果として受信者・閲覧者からの批評にさらされることで改善されていくのだと思います。

こうした子供を見る目の成長に加えて、以前もお話をしたように自分自身の実践を省察し、語るということの効果もあるように思います。子供たちが学ぶ場面でも、ただインプットするだけでなく、学んだことをアウトプットすることが大事だと言われます。それは先生が学ぶ場面でも同様ですよね。

さて、これを読んでくださっている先生方はいかがでしょうか? 得意不得意ということもありますから、何も「ぜひ、SNSで発信してみてください」などと言うつもりはありません。しかし、ご自身の授業中に最も輝いている子供の姿を写真に撮ってみるという自己研修は、ぜひ試してみられてはいかがかと思います。

余談ですが、先の中学校での取材の何年か後に取材した、「子供たちが主体的に学習を進める取り組みを長年行っている」という小学校でも、同様の研修が行われていたのでした。

消え入りそうな声で発言する子の教室【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話㉘】はこちらです。

執筆/矢ノ浦勝之

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