リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #12 地域の課題の受けとめ方|長谷泰昌先生(北海道公立中学校)

連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第12回は、長谷泰昌先生のご執筆でお届けします。

執筆/北海道鶴居村立幌呂中学校教諭・長谷泰昌
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

ご挨拶

みなさん、こんにちは。
北海道の公立中学校で理科教員をしている長谷泰昌と申します。
釧路湿原のすぐそばに住んでおり、自然環境や街の未来に関心を持っています。

私の住む釧路市ですが、基幹産業の衰退に苦しんでいます。
街の中心部には廃ビルが増え、近年は経年劣化による壁の崩落などにより、以前よりもその存在が目に付くようになってきました。

そんな釧路であるツアーが企画され、私も参加してきました。
企画名は「廃墟ツアーin釧路」です。
このイベント企画者の街への思いを知ると共に、地域の課題と人々のつながりへの関心をもってくれればと思い、授業化を試みました。

1 「一枚画像道徳」の実践例

対象:中学1年
主題名:地元への思いと課題解決にむけて
内容項目:C-16 郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度

ツアー参加者募集の写真をモニターに写します。

画像提供:四宮琴絵氏

(最初は<In釧路>の文字は伏せておく)     
「このツアー、実際に行われました。参加したいですか?」

恐そう、お化けでそう
楽しそう、スリリング

(ここで<In釧路>の文字を浮かび上がらせる)

「もう一度写真を見てみましょう。このビルは釧路の中心街にあるものですね……。」
「廃墟ビルといわれているものには、内部の壁や天井が崩れ、水道管の劣化等で使用不能のものが多くあります。しかし、修理も取り壊しも、見通しが立っていません。もう何年もそのまま……それどころかその数は増えてしまっているそうです。」

発問1 この写真から何を思いますか?

面白そうと思ったが、自分の街なので何か悲しい。
釧路は景気が悪い。大丈夫なのかな。
なぜ壊さず、廃ビルのままにしておくのだろう。
釧路をネタにしないでほしい。イメージが悪くなる。

自分の街と知ったとき、子供たちはこのイベントを自分事としてとらえ始めます。当時の状況を補足します。

「ツアー企画前、廃ビルが増えていることがTwitterでバズってしまいました。 youtube動画へのアクセスも50万を超えてしまいます。残念ながらネガティブな要素が注目されてしまったわけです。地元民として、何かモヤモヤしませんか?」
「皆さんと同じようなモヤモヤを感じた人を紹介します。釧路出身の四宮琴絵さんです。
釧路を大切に思い、釧路のよさを知ってほしい、盛り上げていきたいと願っています。
じつは、この廃墟ツアーの提案者は四宮さんなのです。ということは、このイベントは、面白おかしく考えられたイベントではないはずです。」

説明 イベントの様子を紹介します

<四宮さんの行動>
地元の課題を、そのままにしておきたくない、一緒に考えましょう!  SNSで企画を発信、参加者・協力者を募集。
参加者LINEグループで参加者の意見や思いに細かく対応。
廃ビルが残っている理由を市長に質問し、撤去できない理由を自分で確認。
イベントで地元のお店を活用、ツアー後は参加者と地元のイベント(霧フェス)へ。
テレビや地元新聞と連携(後日報道される)。

<参加者の様子>
遠方からの参加者に、地元の参加者が移動を手助け。おすすめのお店や宿を紹介する雰囲気が醸成された。
銀行員、観光関係者、市役所員、地元大学生、大学教授、マスコミ関係、本州・九州で街づくりに関わる人……多様な人たちが、自分たちの専門分野の知識を持って集まり、語り合った。
課題はあるけど、自分たちで実行する可能性を感じるたくさんのアイデアが生まれた。(空きビルの外壁をアート空間にして撮影スポットとする、昭和の街頭放送を再現してレトロを売りにする、空きテナントでのサバゲー、バーチャルと融合して古地図散歩、ガイド付きで有料ツアー化etc.)
参加者たちは、自分たちは街で何ができるか、夜まで語り合った。

発問2 四宮さんは、参加者に何を持って帰ってほしかったのだろう

街の課題を自分事としてとらえること、自分たちで何ができるか考えること。
人々のつながりや熱い思い。
地元や地元のイベントを大事にすること。

簡単なメモを作成した後、意見交流します。
今日の内容のどこからそれを感じたのか、なぜそれが響いたのか、それは自分の中のどんな願いと重なっているのか、生徒同士で問い返し、対話するよう伝えます。

廃ビルとか、何か嫌なことがあっても自分には関係ないと思ってた。そう思うことで楽かもしれないけど、住んでいる場所がどんどん悪くなるのは嫌だなあ。
いろいろな人が協力するとアイデアが出てくる。するとアイデアを実現する方法を考えようって思えるのがいい。
SNSのイベントから、自分たちでできそうなことや仲間が見つかるのがいい。仲間ややりがいがほしいのかも。

最後に四宮さんからのコメントを補足して終わります。

「課題を外から見て『廃墟嫌だよね、なんで誰も何もしないんだろ』みたいに他人事として捉えがち。でも、それってほんとうは楽しくないんです。『楽しいこと』というのは、誰かに与えられたりするものではなく、自分でつくり出すもの。
それは自分の思いを中心に、大変でもワクワクとやりがいを見つけて生きていけること。人々とのつながりが増えること。
だからこそ、今の世の中を見つめながら、今いる地域と向き合ってみてほしいなと思います。スター的な人が何かするより、普通に生きているマジョリティの一人一人の『ちょっとだけ自分事に考える』。これが世の中を変える大きな力だと思っています!』

郷土に関わる自分の感情や考えから、その背後にある自分の願いを確認し合い、自己理解を深めるとともに、自分事として向き合う意欲をもつきっかけになればと考えています。

2 他教科とのつながり

道徳(郷土を愛する態度)と、総合的な学習の時間における地元の探究活動とのつながりを意識して授業をつくりました。
街の課題を自分たちの課題として受けとめ、人々のつながりや楽しさを生み出しながら取り組んでいる大人たちの思いやアイデアに触れるとともに、自分の中にある街への課題意識や願いを掘り起こすきっかけにしたいと考えました。
また、地元に関心を持つためには、人とのつながりが大きな鍵になるはずです。今後の調べ学習や訪問先の人との関わりに価値を感じ、ワクワク感を持って臨むことにつながればと思っています。

3 おわりに

課題意識は願いでもあります。釧路市でも、解決が難しそうな課題を自分事としてとらえ、同じ願いを持つ人がつながることで、思わぬアクションにつながったことがあります。ラムサール条約締結にむけた人々の動きです。
当時(1970年代)も街の経済衰退が大きな課題であり、街は経済と保護の両立という困難にも直面していました。令和の今、新たな困難に直面していますが、何か解決していく道筋があり、それを見つけていくのは地元の人の課題意識・願いなのだと思います。
そして、願いと行動を通し、自分たちは地域をより良くすることができる、という感覚をもつことは、人が生きている実感やその生を肯定することにつながる要素の一つだと考えます。
子供たちに、自分事として地域のよさや課題を見つめ、関心をもって探究学習を進めるきっかけをつくりたいと思っています。
今後の学習では人とのつながりや発表の機会を通し、自分と社会とのつながりや、社会に働きかけることの意味に実感をもてるようにしていきたいと考えています。

参考サイト:廃墟ツアーin釧路への想い

今後の連載予定
第13回 工藤美希(北海道函館市立臼尻中学校教諭)
第14回 藤倉稔(北海道下川町立下川中学校教諭)
第15回 佐々木嘉彦(山形県酒田市立松原小学校教諭)
第16回 三浦将大(北海道函館市立大森浜小学校教諭)
第17回 倉内貞之(青森県五所川原市立栄小学校教諭)
第18回 古舘良純(岩手県花巻市立若葉小学校教諭)
第19回 有田雪花(神奈川県海老名市立中新田小学校教諭)
第20回 木村麻美(弘前大学教育学部附属小学校教諭)
第21回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。

リレー連載「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?

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