夏休み中の違和感を大切に【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第10回】
学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人ひとりのちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。
執筆/教育研究家・合同会社ライフ&ワーク代表・妹尾昌俊
目次
夏休み、どう過ごしましたか?
本稿をご覧いただいている頃は、みなさんにとっては夏季休業が終わったあとあたりだと思う。児童生徒は休みでも、教師はさまざまな業務や研修などがあっただろうから、十分にリフレッシュできた人もいれば、それほどでもないという人もいるだろうけれど、4~7月よりは、この8月、多少はゆったりできたのではないだろうか。
ご自身も夏休みや有休を取った方も多いと思う。学校閉庁日やリフレッシュウィークと呼んで、日直を置かなくてよい有休取得奨励日を設ける自治体も増えてきたから、例年よりは休みを取りやすくはなっているかもしれない(部活動の大会や急なコロナ関連の対応などがあれば、そうはいかなかっただろうけど)。
夏休み明け、みなさんは児童生徒たちにどう語りかけただろうか。定番は「夏休み、どう過ごしましたか?」だろう。さまざまな家庭の子がいるから、この手の会話も配慮が必要な時代とはなってきたが。この質問、私は、学校の先生たちにもしたいと思う。
実は、これは、ちょっとした意図をもって投げかけている。余暇や休みをどういうふうに使いたいか、使えたかは、その人の人生観や家庭事情等にもよるが、働き方改革とも密接にかかわっている。なんのために働き方改革をするのか。その理由のひとつとして、平日の仕事を終えたあとや休日に、自分の打ち込みたいこと(趣味などでもよいし、子育て、介護という事情の人もいるだろう)や自己研鑽の充実を図ることが大切だからだ。
余暇はもちろん休養にあてることも大事だが、それだけではない。仕事以外の時間を大切にすることが、その人の成長や視野を広げることにつながるという点に注目してほしい。 このあたりのねらいもあって、働き方改革よりも「休み方改革」が必要だ、と主張する人もいるくらいだ。
夏休み中の違和感、ひっかかったことは何か
さて、ご自身の休み中に旅行をしていたときなどでもよいし、勤務していていつもよりはゆっくり物事を考えたときでもよい、何かの研修が刺激になったでもよい。何かこの8月に感じたことはないだろうか。たとえば……
●いつも忙しいけど、このままでいいのかな?
●来年はこの行事や部活動の運営はなんとか見直せないかな?
●自分の人生で大切なことは、こういうことなんだよな……。
●私が進めたい理想の学校(あるいは授業)のヒントを見つけた気がする。 等
これらの問いや気づきには、何か決まった正解はないかもしれない。モヤモヤするばかりかもしれない。だが、こうした違和感やひっかかったことを、夏休み明けも大切にしてほしいと思う。
ところで、あるビジネス書では、企業において日常に起きる緊急の業務のことを“竜巻”と表現していた(クリス・マチェズニーほか著『実行の4つの規律―行動を変容し、継続性を徹底する』キングベアー出版)。
みなさんの学校ではどうだろう。“竜巻”が起きたときのごとく、常に今日、明日のこと、次の行事のことなどに追いまくられる日々に、夏休み明けは戻っているのではないだろうか。
その本で書かれていたのは、常に緊急事態(“竜巻”)が勝つ(優先されてしまう)ということである(企業でも学校でもこの点では似ている)。重要だけれど、緊急性は低いものは実行できないでいるという指摘だ。
多くの学校で長時間労働を改善できないでいる大きな背景、要因は何か。それは、学校での“竜巻”の多さと、行事や部活動の見直し、個々人の働き方を考えなおすことといった緊急性はやや低いと思われることが、後回し、後回しにされてきたつけではないか、と私は分析している。
だからこそ、夏休み中に感じた違和感や気づきを、後回しばかりにせずに、できることから前に進めてほしい、と思う。まずは、「夏休み、どう過ごしましたか?」「改めて考えたことや気づいたことはなんですか?」といった対話からでもよいと思う。そして改善等のアイデアを集めて、どれかに重点化し(たくさんのことはできないから)、この2学期や年内にやるべきことを定めておくことをおすすめする。
竜巻に追われるばかりでは楽しくない。
『総合教育技術』2018年10月号に加筆
野村総合研究所を経て独立。教職員向け研修などを手がけ、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法』(以上、学事出版)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、最新著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP研究所)がある。